『週刊ダイヤモンド』9月14日・21日合併号の第1特集は「後悔しない歯医者選び」です。歯科医師ですら実は難しい受診先選びに患者が成功する鍵は何なのか。ステージが転換する歯科医療の最新事情を詳らかにすると共に、「頼れる歯科医師」か「ダメな歯科医師」かの見極め方、歯学部受験の狙い目に迫ります。(ダイヤモンド編集部 臼井真粧美、野村聖子、竹田孝洋)

人気歯科医院の患者が
治療の失敗で駆け込んでくる

「近くにある歯科医院の腕が悪くてね、治療で失敗した患者がうちに駆け込んでくるんだよ」。開業して長年続けてきたベテラン歯科医師は恨めしそうにこぼす。

歯科医師選びは難しい。当の歯科医師たちですら、患者や知人に受診先の相談を受けると、紹介できるのは腕の分かる知り合いの医師だ(写真はイメージです) Photo:PIXTA

 腕が悪いと名指しする歯科医院のホームページをのぞくと、温かみと清潔感が漂う。親から代替わりした院長は若くて明るい。ホスピタリティとコミュニケーション力に優れ、地元で人気医院になっている。

 ベテラン歯科医師の愚痴は嫉妬にも映るが、事実として、その人気医院の失敗例には知識と技術の欠如が表れている。インプラントなり矯正なり、専門性が磨かれていないというのは頼れる歯科医師としては致命的である。患者たちはそこにまだ気付かずに通っているわけだ。

 歯科医師選びは難しい。当の歯科医師たちですら、患者や知人に受診先の相談を受けると、紹介できるのは腕の分かる知り合いの医師だ。それ以外のところについては、見極めるのはなかなか難しいという。

 しかも保険診療は稼ぎが足りないからと、自費診療(自由診療)には大量の歯科医師が流れている。2000年代に入って参入がどんどん増えたインプラントは競争が熾烈に。また事故が多発して世間の目が厳しくなった。すると今度は矯正にシフト。近年はマウスピース矯正が人気を集めており、ここに門外漢たちが飛び付いた。

 この中から歯科医師をどうやって選べばいいのか。鍵を握るのが、患者側のリテラシー。知識を持ち、それを活用する力だ。

 まともな歯科医師の中に交じる「ダメ医師」。力量不足を認識していない悪意なき者や、患者のことよりカネに執心する悪意ある者。彼らを見抜く力が、後悔しない歯科医師選びに通じる。

「インプラント一択!早くて安い」は
“残念な医師”の可能性大

 歯を失ったときの治療は選択肢が三つある。「入れ歯」「ブリッジ」、そして人工歯根を顎の骨に埋める「インプラント」である。

 このうちインプラントでの治療を検討する際、「インプラントにすべきだ!」と一択を迫ったり、「うちは早くて安い!」と手軽さを売りにしたりする歯科医師は、「残念な医師」の可能性大。商売っ気丸出しで、患者から選択肢を奪おうとしているかもしれないからだ。

 入れ歯やブリッジと相対比較すると、確かにインプラントは「かむ力・かみ心地」「見た目」で勝る(下表参照)。ブリッジが両隣の歯を削るのに対し、他の歯に負担なし。装着する歯の寿命についても、10年後に9割超が残っていたという調査報告があり、優れている。

 しかし、治療にかかる期間、費用、リスクでは、入れ歯とブリッジに比べて劣る。

 入れ歯やブリッジの治療期間(目安)が数週間~1カ月なのに対し、インプラントはかめるようになるまでに3~6カ月、あるいは1年近くかかることもある。

 治療費用(1本の目安)は、公的保険が適用される入れ歯とブリッジが1万円弱~3万円なのに対し、公的保険非適用の自費診療(自由診療)で30万~50万円かかる。

 一言でインプラントといっても手法は一つではなく、治療期間が短いものもあるため「うちは早くて安くて、すぐかめる」とアピールできるのだが、まず疑いから入った方がいい。

 インプラントでは通常、人工歯根を埋め込んだ後、骨が結合するのを数カ月待つ。それから仮歯をかぶせる。

 治療期間を短縮する手法では、埋入と同時に仮歯を入れ、手術当日からかめるようにする。

 この手法は患者に手軽さを感じさせる。しかし、施術のレベルは真逆で、手術可能な歯に一定の条件がある。経験と技術のある熟練者だからやれることだ。

 日本口腔インプラント学会は治療指針の中で「患者の負担を軽減し、患者の期待に早期に応えることができるという大きなメリットがある反面、インプラント治療の失敗というリスクを背負うことにもなりかねない。したがって、期待する結果を得るためには、ある程度のリスクを伴うことをあらかじめ患者に伝えておく必要がある」と言及している。

 この手法は治療コストも抑えられることから、患者集めにはもってこいだ。だから他の歯科医院と差別化するため、未熟な腕にもかかわらず手を出す歯科医師がいる。

急拡大した大手歯科医院の破綻
歯科医院のM&A活発化が表面化

 リテラシーを磨く対象は、治療周りだけではない。歯科医師や歯科医院の実態までもアップデートできているかも重要だ。

 かねて歯科医師が過剰で稼げない不人気職種の扱いになっているが、これから歯科医師は「減少時代」、歯科医院は「大閉院時代」に突入していく。歯科医療のステージが転換する中で、急拡大した大手歯科医院の破綻、歯科医院のM&A活発化などが表面化する。

 患者としては、前払いしたカネを破綻によって失いかねない医院や、高値で買い手が付くような地力のある医院などを見極める目も持ちたい。

子どもの矯正「完全マニュアル」
中学受験組は必見!

『週刊ダイヤモンド』9月14日・21日合併号の第1特集は「後悔しない歯医者選び」です。ステージが転換する歯科医療の最新事情を詳らかにすると共に、「頼れる歯科医師」か「ダメな歯科医師」かの見極め方、歯学部受験の狙い目に迫ります。

 歯科医師の過剰が世に知れ渡り、歯科医師はワーキングプア呼ばわりされてきました。しかし歯科医療の現場では目下、「将来の不足」が懸念されるようになっています。この不足説を検証し、新たな「勝ち組」と「負け組」、最新の年収事情まで詳らかにしました。

 医師に比べると総じて稼ぎは劣るけれども「労働時間、歯学部への入りやすさ、未来予想図で判断すると、自分が選ぶのは歯科医師」という声も出てくる中、歯学部受験先の有力な判断材料として「入りやすいのに歯科医師国家試験合格率が高い」私立大学を格付け。また、定員割れも多い歯学部における「淘汰危険度ランキング」を作成しました。

 患者として最も求める情報は、頼れる歯科医師にたどり着くための判断材料でしょう。インプラント、矯正それぞれ歯科医療界の内情を暴き、そこから頼れる歯科医師とダメな歯科医師を見極める術を導き出しました。矯正については、子ども版の「完全マニュアル」も。矯正のタイミングに悩む中学受験組は必見です。