『週刊ダイヤモンド』8月5日号の第1特集は「楽天 解体寸前」です。携帯電話事業の巨額赤字でグループ連結の最終赤字が続いている楽天グループで、何より深刻なのが資金繰りです。その危機を救う巨大スポンサーはいまだに現れず、いよいよ楽天市場や楽天カードを含む“本業切り売り”のカウントダウンが始まろうとしています。独占スクープ満載で、瀬戸際にある楽天の危機に迫ります。(ダイヤモンド編集部 村井令二)

ECと金融の「楽天経済圏」
モバイル参入で創業以来の危機

「サンバレー会議から帰ってきたところで、とてもリフレッシュしました。アマゾン・ドット・コム、ブッキング・ドットコム、デル、アップルなど多く大物CEO(最高経営責任者)たちとミーティングして、彼らが将来について何を考えているのかを理解する濃密で貴重な時間でした」

背水の陣を敷く三木谷氏は、携帯事業の赤字脱却を期す極秘プランを実行することにした(5月に新料金プランを発表する三木谷氏) 写真:つのだよしお/アフロ

 三連休明けの7月18日、楽天グループ総帥の三木谷浩史氏は全体朝礼“朝会”の席で、今年も「サンバレー会議」に参加したことを報告した。

 サンバレー会議とは、毎年7月に米国アイダホ州の山間にあるリゾート地で開かれる“富裕層のサマーキャンプ”のことである。アップル、グーグル、アマゾン、メタ・プラットフォームズ、マイクロソフト、ウォルト・ディズニー、ネットフリックスのCEOなど米テックジャイアントの大物が招待される秘密会合だ。

 日本の経営者に声が掛かることはほとんどないが、三木谷氏は常連メンバーだという。今年は7月11~14日の日程で開かれ、生成AI(人工知能)ブームの仕掛け人であるオープンAIのサム・アルトマン氏の参加がメディアでは報じられた。

 創業以来、週初めの早朝に開かれてきた朝会で、世界の超大物たちとの華々しい交遊を披露する三木谷氏は、社員にはまぶしく見えただろう。だが、その裏で、足元のグループ経営は“火の車”と言っていい。

 楽天の連結最終損益は2022年12月期に4期連続の赤字を計上し、23年に入っても赤字基調は続いている。その元凶が、携帯電話事業の巨額赤字だ。その危機の深刻さは財務データをみれば一目瞭然である。

 楽天モバイルの営業費用は3カ月で1500億円超に上り、巨額赤字を生んでいる。またモバイル事業の設備投資は年間3000億円を超え、22年のグループ全体のフリーキャッシュフロー(金融事業を除く)のマイナス幅は7482億円に達した。

 資金繰りの一手として”虎の子“の金融事業の切り離しが進んでいる。すでに楽天証券株式の19.99%を売却。楽天銀行はIPOに踏み切って一部株式を売却したのに続き、楽天証券の親会社として新設した楽天証券ホールディングスもIPOを申請中だ。

 窮地の楽天にとって何より必要なのが、資本を増強してくれるスポンサーの存在である。だが、21年3月に1500億円を出資した日本郵政に続く巨額資金の出し手は現れていない。それに代わって、不特定多数の株主を呼び込む公募増資を実施したものの、“戦略なき新株発行”が見透かされ、株価は低迷している。

 背水の陣を敷く三木谷氏は、携帯事業の赤字脱却を期す極秘プランを実行することにした。

「法人携帯100万回線計画」が始動!
プロジェクトの全容を独占スクープ

 その驚愕の一手こそ、楽天内部で始動した「楽天モバイル法人契約100万回線」獲得計画である。

 楽天が巨額赤字から脱却するために喫緊の課題は、携帯電話の契約者をいかに増やせるのかということだ。このため今年初め行っていた対策が、グループ社員に1人5回線の携帯電話の契約のノルマを課した「紹介プログラム」だ。

 だが、22年11月から23年1月末の3カ月にわたって実施した契約ノルマの成果は芳しくない。楽天モバイルの契約者は、22年9月末の454万件から同12月末に446万件に減少し、23年3月末には454万件にようやく回復した。グループ社員に過大なノルマを強要した割には、その効果は乏しかったと言わざるを得ない。

 これに続いてノルマ強要の「第二弾」として実行しようとしているのが、法人100万回線獲得プロジェクトである。楽天市場、楽天トラベル、楽天カードなどグループ内の事業部門を巻き込み、それらの取引先に「楽天モバイル法人プラン」の営業攻勢をかけるというもので、その営業手法は驚くほど強引なものだ。

 ダイヤモンド編集部が入手した内部資料で、法人携帯100万回線計画の全容を明らかにする。

「最強プラン」導入後の最新契約数をスクープ!
過去18カ月の月次データをメディア初公開

 一方で楽天モバイルは6月1日から新料金プラン「Rakuten最強プラン」を導入した。

 このプランの特徴は、月額最大2980円(税抜き)という楽天モバイルの料金を据え置いたまま、KDDIローミングのデータ通信を全国で制限なく使えることにある。楽天モバイルにとって、KDDIに支払うローミング費用は余計にかかるが、その分、通信品質を改善して契約回線数の増加を狙う“起死回生の一手”だ。

 ダイヤモンド編集部は、楽天モバイルの最新の契約回線数に関する内部資料も独自に入手した。22年1月から今年6月までの「月次の契約回線数(18カ月分)」の生データを大公開する。6月末の実績データは8月10日の第2四半期決算で正式発表される予定で、過去18カ月にわたる月次の契約動向は、メディアとして初公開する衝撃データである。

グループ「解体」の危機
瀬戸際にある楽天の真相に迫る

『週刊ダイヤモンド』8月5日号の第1特集は「楽天 解体寸前」です。

 三木谷氏は1997年に楽天を創業し、00年の株式公開で手にした資金を元手に果敢なM&A(企業の合併・買収)を仕掛け、ECと金融を融合した「楽天経済圏」を築き上げました。

 そのグループの「解体」の足音が聞こえつつあります。携帯事業の巨額赤字は自己資本を減らしていますが、こうした一過性の赤字よりも深刻なのが資金繰りです。

 携帯基地局の設備投資で巨額の資金が流出し、これを賄うために繰り返した社債発行によって、向こう5年で1.2兆円もの借金返済が迫っています。 

 一段の資金調達は焦眉の急です。最も必要なのは資本増強ですが、いまだ三木谷氏を救う巨大スポンサーは現れていません。それに代わって踏み切った公募増資は株価の低迷を引き起こしています。

 それでも楽天には、楽天市場や楽天カードをはじめとする有力事業があります。つまり、資金調達のために売却する資産が豊富にあるということです。今後も危機を乗り越えるために一段の資産売却を加速することになるでしょう。いよいよ「楽天解体」のシナリオが現実を帯び始めてきました。

 さらなる資産の切り売りなど資金繰り策の実施は避けられず、三木谷総帥には、携帯事業の撤退をも辞さない重大決断が迫っていると言えます。

 本号では、楽天特集に加えまして、第2特集「50代でも間に合う 新NISA活用術」と第3特集「セブンイレブンの死角 伊藤忠&三菱商事の逆襲」を企画しました。お得な“巨弾3特集”をセットでお届けするのは、弊編集部では初の試みとなります。

 また、菅義偉・元首相による大型新連載もスタートします。史上最強の内閣官房長官から一国の首相へ――。政権中枢に身を置いた約9年をご本人の証言を基に振り返っていただきます。叩き上げ政治家の菅氏が“最強官邸”を築き上げるに至った「決断」の裏側に迫ります。

 引き続き、パワーアップした『週刊ダイヤモンド』の特集・連載にご期待ください。