全国ワースト5位はJA堺市
1位はJA共済連幹部の地元農協
JAグループという巨艦の沈没はもはや止められないかもしれない。とりわけ金融事業(銀行業務の信用事業と共済〈保険〉事業)に収益を依存する農協では、積み荷を捨てても時すでに遅しという状態になってしまっていると言わざるを得ない。
ダイヤモンド編集部は4年連続で、全国の約550農協の財務データを調べ、金融事業の減益額を推計して「JA赤字危険度ランキング」を作成してきた。
詳細は後述するが、ダイヤモンド編集部が試算した、農協の5年後の減益額は全国で合計1468億円だ。この巨額減益を各農協に割り振ったとき、現在の収益力で減益ショックを吸収できる農協はどの程度あるのか。独自に試算したところ、過去最多となる157JAが5年後には赤字に沈むことが分かった。
経営の立て直し困難な
“泥船農協”の末路はATMのみ?
近年、経営の立て直しが難しくなった農協が増えていることは財務データがはっきりと示している。下図を見てほしい。経営危機を回避した静岡県のJAみっかびは、金融事業の減益分をミカンの販売を主力とした農業関連事業でカバーしている。これは、「組合員の高齢化と減少を踏まえ、経営資源を共済から販売へとシフトした結果だ」(農協関係者)という。
これに対し、JA山口県は農業関連事業が伸びるどころか減益になっている。経営を安定させるため県内の全てのJAが合併してできた農協なのだが、実際には終わりの見えない縮小スパイラルにはまり込んでいるように見える。
しかも、今後はさらに金融事業の収益性が悪化しそうだ。
減益要因は三つある。(1)農林中央金庫(農中)が、農協が集めた預金に対して支払っていた奨励金を減額(5年後の減益額203億円)、(2)農中の配当の減少(同300億円)、(3)共済事業の減益(同965億円)の総額1468億円である。
ランキングの作成方法で、昨年から変更した点は、農中の減配を減益額に盛り込んだことと、共済事業の事業総利益減少率を3.5%から5.0%に修正したことだ。
共済の収益が厳しくなるのは、農水省が“自爆営業”(職員が営業ノルマを達成するため不要な共済に自ら加入すること)への監視を強化したからだ。
赤字危険度ワースト1位の
JA京都は共済連副会長の地元農協
減益のインパクト(現在の利益に対する減益額の割合)が最も大きかったのはJA京都だった。
JA京都は事業総利益の共済への依存度(共済依存率)が46%と、全国で3番目に高い。これは、会長を務める中川泰宏氏が、農協の共済事業の大元締めであるJA共済連の副会長を務めているのと関係があるかもしれない。農協幹部が上部団体の会長や副会長に就くには、事業で目覚ましい実績を上げることが条件になるからだ。
京都府では他にJA京都にのくにがJA赤字危険度ランキング3位(共済依存率47%)、JA京都やましろが4位(同38%)となり、共に5年後は赤字転落となった。
8位は長崎県のJA対馬だ。この農協では職員が18億円を詐取する不祥事が発覚。経営の混乱を収拾するため農中や農協中央会の職員が送り込まれたが、経営再建の見通しは立っていない。金融事業の減収減益をカバーするべき農業関連事業の売上高は3年前から半減している。農家に見放されているといっても過言ではない状態だ。
職員数は不祥事発覚前から3割以上減っている。
JA赤字危険度ランキング上位の常連といえるのが、農業関連事業のウエートが極めて低い大阪府の農協だ。
例えば、JA赤字危険度ランキング15位のJA九個荘は年間の販売事業の売上高が666万円しかない。農協では、農産物を販売する農家らが品目別に部会という組織をつくるのだが、JA九個荘にはそれがない。代わりに「農業研究クラブ」なる組織があり、構成員数は23人だ。だが、一大勢力の「不動産経営研究会」の119人には遠く及ばず、「カラオケ同好会」の15人に肩を並べられつつあるという体たらくだ。
JA九個荘は、農家による協同組合ではなく、地主などの資産管理団体のようになっているのだ。
JA九個荘の事業総利益に占める金融事業の割合は97%だ。府内では他に、JA北大阪とJA堺市が共に同99%など金融依存度が9割を超える農協が14JAある。金融事業が縮小する中で、こうした農協はどんな経営の展望を持っているのだろうか。
これまで農協は合併による効率化などで利益を捻出してきた。だが、金融事業の減益をカバーする成長事業がないという問題を放置しているところは少なくない。そうした“泥船農協”を合併で救済する余力のある農協は限られる。
今後、農協が事実上なくなり、JAバンクの代理店の機能だけが残る地域が出てくるだろう。農協が果たしてきた農業振興は、農業法人や企業が代行することになる。
旧秩序から新秩序へ農家が変わる 企業にも“下剋上”が
『週刊ダイヤモンド』4月8日号の第1特集は「儲かる農業2023 下克上」です。
肥料や飼料の高騰で離農が相次いでいるので、「農業危機」ともいわれますが、実は、農業界は暗い話ばかりでもありません。
例えば、生鮮ブロッコリーのように、海外の人件費の高騰や円安の影響などで内外価格差がなくなり、輸入が激減している品目が出てきているのです。
この現象はいわば「買い負け」であり、日本経済の衰退の結果なので喜んでばかりもいられないのですが、農家にとっては吉報です。
農家戸数の減少による農産物の供給減も、大淘汰時代を生き抜く農家から見れば「需給バランスの改善」なのです。
北海道の酪農家は「今が底だ。あと数カ月を乗り切れば、明るい未来は必ずやって来る」と語りました。同様の思いを抱いているコメや野菜の農家は少なくありません。
ダイヤモンド編集部が実施した「担い手農家アンケート」に回答した1738人から選定した「レジェンド農家」(詳細は本特集の#6『「レジェンド農家」ランキング2023【ベスト22】上位陣のコメ生産コストは全国平均の3分の1!』参照)は、農業の夜明けを見据えて着々と先行投資をしてきました。
農業は農協を中心とした旧秩序から、優れた経営マインドを持つ農業法人や企業がリードする新秩序へ移行します。今回の農業危機により、その移行が早まっただけなのです。
農家のマインドや経営規模が変わる以上、旧秩序の上にあぐらをかいてきたアグリビジネスの企業が安穏としていられるわけはありません。農業界で、下剋上が起きるのは自然なことなのです。
本特集では、JA赤字危険度ランキングで消えゆく農協を明らかにするとともに、農協の代わりに農家を束ねている令和の豪農たちの生き残り戦略、さらにはJA全農に変わって農業界のガリバーになろうとしている企業の成長戦略などを解明します。