『週刊ダイヤモンド』2月4日号の第一特集は「個人も企業も大混乱!インボイス&改正電帳法 完全保存版」です。消費税の導入以来、最大の改正とされるインボイス制度が今年10月から始まります。これまで免税事業者が享受してきた益税がなくなり、廃業の危機が迫る一方、それら事業者と取引のある企業にとっても難題がのしかかります。加えて、来年1月には改正電子帳簿保存法も本格スタート。これら新ルールに対応するには、今がラストチャンスです。(ダイヤモンド編集部編集委員 藤田章夫)

インボイス導入で益税がなくなり
4人に1人が廃業を検討する声優業界

声優は日本に1万人以上いるが、その約76%が年収300万円以下。ほとんどの声優が免税事業者であり、受け取った消費税の納税は免除され益税となっている(写真はイメージです) Photo:PIXTA

 およそ4人に1人が廃業を検討──。驚愕の事実が明らかになった。昨年秋に声優やアニメ、漫画、演劇といったエンターテインメント業界4団体が、関係者たちにインボイスの影響について尋ねたアンケートの結果だ。

 エンタメ業界では、フリーランスや個人事業主として働く人が大半だが、インボイス制度に対して悲観的であることがうかがえる。

 例えば、声優は日本に1万人以上いるが、その約76%が年収300万円以下。ほとんどの声優が売上高1000万円以下の免税事業者であり、受け取った消費税の納税は免除され益税となっている。とはいえ、レッスンなどに多額の経費がかかり、生活は苦しいというのが実態だ。

 そうした中、インボイスの発行事業者(適格事業者)になれば消費税の納税義務が発生するだけでなく、事務作業の負担も増す。

 何より、適格事業者にならなければ、発注元が仕入税額控除できないため仕事の依頼が来なくなったり、単価の引き下げを求められたりすることになる。

エンタメ業界や個人タクシーの影響大
適格事業者と免税事業者混在で利用者は混乱か

「経済的事情から事業の継続を諦めざるを得ない人が出てくる。多くの才能が集まらなくなり、クオリティーが落ちるだろう」(40代、俳優・声優)

「所属俳優でインボイス登録しない者は、消費税分のギャラを引くと言われた。実質年収1割減が確定した。登録してもしなくても収入が減り、負担が増える制度はおかしいと思う」(50代、声優・ナレーター・講師)

 20代の大学生からは、「将来、私はアーティストとして活動するために勉強中です。でも、インボイス制度が導入されれば、今学んでいることが無駄になりかねません」という声も上がる。

 しかも、新型コロナウイルスの感染拡大により、特に声優や俳優、演劇の仕事はなくなり、そもそも低めだった収入がさらに大幅に減った。そのタイミングでの事実上の増税である〝インボイスショック〟に対し、悲鳴が上がるのも無理はないだろう。

 こうした憂き目に遭うのは、何もエンタメ業界だけではない。個人タクシーもインボイス制度の影響が大きい業界だ。

 というのも、個人タクシーの運転手は免税事業者がほとんど。そのため、適格事業者にならなければ、個人タクシーを利用した企業は仕入税額控除ができず、企業側の納税負担が増えてしまうのだ。

 故に、企業から敬遠されまいとして多くの個人タクシー運転手は適格事業者となる見込みだが、消費税の納税負担があるだけでなく、インボイスを発行する機械の交換などの費用もかかるため、廃業を検討している人も少なくない。

 しかも、簡易課税制度を利用すれば売上消費税の50%を控除できるが、高額な自動車を購入した場合には簡易課税制度の方が多額になるケースも出てくるため、判断が難しい。

 また、当面は経過措置もあり、適格事業者と免税事業者が混在することになりそうだが、社名表示灯(あんどん)や車体の色で区別する方向とはいうものの、利用者からすれば混乱を招くことになるだろう。

廃業、大損、違法行為を誘発しかねない
インボイスはただの新しい請求書ではない!

『週刊ダイヤモンド』2月4日号の第一特集は「個人も企業も大混乱!インボイス&改正電帳法 完全保存版」です。

 消費税が導入されたのは1989年。今から30年以上も前になります。むろん、スムーズに導入されたわけではありません。時の政権が選挙で大敗を喫したり、消費者団体や小売業を中心に大反対の声を上げたりして、実に10年の歳月を掛けて消費税は導入されました。

 当初、3%でスタートした消費税ですが、段階を経て2019年には10%に引き上げられ、それと同時に軽減税率8%が導入されました。軽減税率のことを覚えている方は多いと思いますが、その際にインボイスが導入されたことを知っている方は、どれだけいるでしょうか。

 消費税が複数税率になったことで、受け取ったり支払ったりした消費税額を明確にするのが、インボイスの役目です。ところが、売上高1000万円以下の免税事業者の益税がなくなったり、そうした零細事業者と取引する一般企業が混乱に陥ったりと、インボイスは実にやっかいな代物なのです。

 さらに、諸外国の消費税の事情に詳しい有識者によれば、将来の消費税増税の布石だとする見方もあります。

 つまり、インボイスはただの新しい請求書ではありません。零細事業者の廃業や取引先の大損リスク、気付かぬうちに違法行為を行っているなど、トラブルの火種がそこかしこに潜んでいます。

 詳しくは本特集をご覧いただき、インボイスが導入される今年10月以降を乗り切るための参考になれば幸甚です。