前回は難化の共通テスト
“揺り戻し”は起きる?
実施2回目を迎えた大学入学共通テストが物議を醸した、2022年1月の大学入試。「22年入試の特徴は大きく3点に集約できる」と、大手予備校、河合塾の近藤治・教育研究開発本部主席研究員は言う。
一つ目は、少子化に伴う競争の緩和だ。「難関大学でも、同じ偏差値帯の合格率は年々上がっている」と近藤氏。二つ目は、ポストコロナを見据えて前年までの地元志向が弱まりつつあること。そして三つ目は、やはり共通テストの難化だ。これらの特徴は、半年後に迫った23年入試でも続くのか?
まず確実視されているのが、競争の緩和だ。18歳人口が今年より約2万人減になる109.7万人と、110万人を割り込むためだ。21年入試で前年比14%減と史上最大の減り幅を記録した、私立大学の志願者数(一般選抜)は、22年入試も「横ばいのままで、〝谷〟の状態が続いている。逆に、23年入試も大学・学部新設によって入学定員増が見込まれており、競争緩和がより進む可能性が高い」(近藤氏)。
コロナ禍については、各大学でポストコロナへの動きが強まっているものの今後の感染状況次第だ。
一方で、大学受験関係者の間でまず間違いなく見直しがあると目されているのが、大学入試全体に影響を与える共通テストである。
今年1月の共通テストは、大学入試センター試験時代も含めて、7科目で過去最低の平均点となった。特に数学では、「数学Ⅰ・A」が38点(100点満点)など、前回試験から20点近く下降し、「数学ショック」なる言葉も生まれた。
結果、「共通テストが必須の国公立大学受験者は総じて初志貫徹で当初の志望大学に挑戦したが、上智大学など私立大の『共通テスト』方式で、受験者を大きく減らした大学が出た」(近藤氏)。
そして、7月、「数学Ⅰ」「数学Ⅰ・A」の難易度を「あまり適切ではない」とする外部評価の結果が公表され、実施3回目となる来年1月の共通テストでは「数学を中心に、難易度や出題量が易化される可能性が高い」と、大学や予備校関係者は口をそろえる。
そして、23年入試における新たな〝変数〟になるとみられているのが、6月に明らかになった私立大の入学定員基準の緩和だ。
その説明の前に、近年の私立大受験難化の〝元凶〟とされる、私立大入学定員厳格化を振り返ろう。
文部科学省は16~18年度、首都圏や関西など大都市圏の私立大への地方の若者流入を抑制するべく、段階的に大学の規模に応じて入学定員の管理を厳格化した。例えば入学定員8000人以上の大規模校の場合、入学定員の1.1倍を超えて入学者を取ると、補助金をカットするという政策だ。
その結果、難関私立大を中心に合格者数を抑える動きが強まり、受験倍率が急上昇。加えて、少なからぬ私立大では正規合格者を絞り、さみだれ式に追加(補欠)合格者を出すようになったことで、大学の人気順に追加合格者の〝玉突き現象〟も起きた。
ここで大きな問題となったのが、入学金の「二重払い」だ。志望大学を不合格になった受験生が、いわゆる「滑り止め」などの大学に受かって入学金まで納めていたものの、入学直前になってもともとの志望大学から追加合格の通知が届き、改めて志望大学への入学手続きをするケースが続出したのだ。もちろん、入学を辞退した大学に支払った入学金は戻らない。
「こうなることは初めから分かり切っていた。1.1倍まで許されるといっても、安全策で1倍未満に抑えざるを得ない。受験生と大学の双方にデメリットしかない愚策の極みだ」と、ある私立大幹部は怒りをぶちまける。
文科省への批判が高まる中、同省は6月、私立大の入学定員基準を、これまでの1学年単位から全学年(1~4年生)の総定員数への変更を決めたわけだ。
大学側は裁量が大きくなり、受験生側も正規合格が出やすくなることで心理的、金銭的不安が減るため、改善されたといえる。ところが、その一方で、23年入試以降の受験生には「受験校選びで頭を悩ませる新たな問題が出てくるはず。より細やかな志望校選びが求められるようになる」と、別の有名私立大の幹部は指摘する。
「新たな定員基準を裏返せば、直近の入学者数で、次の入試の合格者数をある程度予想できるようになるということ。大学の入学定員は、総定員だけでなく、各学部、さらに各学科で決まっている。志望校選びの際に学科単位で入学定員と在学生数を細かく調べれば、翌年の間口の広さがつかめる。前年入試でその学科の定員を超える入学者が出れば定員を絞り込むため難化。逆も同じ」(同幹部)
つまり、同じ大学の同じ学部、学科を受験するにもかかわらず、入学者数の帳尻合わせによって、難易度や受験倍率がこれまでになく上下する可能性があるという。
そして、国の方針転換は、入学定員厳格化の中で鮮明になった各私立大の入試戦略にも影響が出そうだ。下表を見てほしい。私立大定員厳格化によって目下、各大学の合格者の出し方にパターンが二つ生じていることが見て取れる。
例えば、早稲田大学では合格者に占める追加合格者比率はわずか6%だ。片や、慶應義塾大学は15%、上智大に至っては約3分の1が追加合格者である。
そんな大量の追加合格者で入学定員を調整する戦略を取っている大学が、入学定員基準の緩和を受け、23年入試でどう合格者数を出してくるのか、受験生の心理にも少なからず影響を与えそうだ。
本特集を通じて、激変必至の23年入試分析をはじめ、各大学の新戦略と序列崩壊の胎動、そして最新学習法まで、変わる大学の今に迫る。
大学のサバイバルを賭けた
「入試・序列・就職」の激変に迫る
『週刊ダイヤモンド』8月6・13日合併号の第1特集は「大学 入試・序列・就職」です。
2020年以降、コロナ禍で揺れた大学が、ようやく平常化に向けて動きだしました。
しかし、来る23年の大学入試では激変が確実視されています。そこで、首都圏や関西、中部など各エリアの大学のサバイバル戦略と入試を大分析。また、人気の「理系大学」や、復権が指摘される「女子大学」の真の実力を明らかにします。
さらに、大学の優勝劣敗と序列変化が分かる過去40年間の183大学1225学部の全偏差値の推移を一挙掲載。加えて、「早慶上理」や「MARCH」「関関同立」「日東駒専」「産近甲龍」におけるW合格者の最新進学率とその過去比較も行いました。
「就職」についても、偏差値の上では入りやすいのに就職に強いお得な大学が分かる就職力ランキングはもちろん、首都圏&関西の就職10強大学の主要企業400社各社への就職者数を全掲載します。
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受験生とその親だけでなく、母校の最新事情を知りたいOB・OGたちも必読の特集です。