高齢おひとりさま740万人に急増
構成比は女性が65%を占める
シニア生活文化研究所の小谷みどり代表理事は昨年、孤独死した人の自宅を特殊清掃する現場に立ち会った。
故人は60代の女性で、若かりし頃はキャビンアテンダントとして働いていたが、精神のバランスを崩して退職後は、両親と共に暮らしてきた。
数年前に父親が病死して以降は、認知症を患う母親と生活をしていたが、母親が脳梗塞を発症して入院したため、女性はひとり暮らしとなった。
女性の遺体が自宅の居間で発見されたのは、母親が入院して2カ月後のこと。遺体は腐敗が進んでおり、傍らの机には、食べかけのレトルトご飯が置かれていた。
認知症の母親は、いまだにひとり娘の死を理解できていない。持ち家や父親が残した資産もあるので、母子は生活保護などの行政支援を受けていなかった。
隣家には親戚が住んでいたにもかかわらず、近所付き合いがなかったために、ひとり暮らしになった女性は孤立し、遺体が何週間も発見されないという結果を招いた。
孤独死は中高年男性の問題という印象が強いが、友人ネットワークが十分でなければ、女性でも起こり得るという事例である。
厚生労働省の国民生活基礎調査(2019年)によれば、65歳以上の者のみで構成されている高齢者世帯のうち、単独世帯は736万9000世帯になる。
その構成比は男性が35%、女性が65%。男女別に年齢構成を見ると、85歳以上は男性が11.6%、女性は21.0%で、長生きの女性は必然的におひとりさま(独居高齢者)になることが多くなる(下図参照)。
おひとりさまの理由は、生涯独身、離婚、死別など人それぞれだ。それらの要因を分析すれば、おひとりさまは今後ますます増えていくことが容易に想像できる。
50歳時の未婚率は、15年の国勢調査で男性が23.4%、女性が14.1%。これまでの未婚化、晩婚化の流れが変わらなければ、30年には男性が28.0%、女性は18.5%に達すると予測されている。50歳代の未婚シングルは10年ほどで、おひとりさまの仲間入りとなる。
今の高齢者はきょうだいのいる人が多いが、50~60代はひとりっ子も少なくない。家族や親族に頼れないおひとりさまが、急速に増えることになる。
当然のことながら、婚姻件数も減少。1970年代前半は100万件を超えていたが、19年には約60万件に減っている。離婚件数も02年の約29万件から減ってはいるが、まだ21万件もある。
死亡者数も増加傾向で、19年は138万人。40年には推計で168万人に及ぶとみられている。
「仲むつまじい夫婦ほど実は危ない」
おひとりさま「予備軍」は約700万人
配偶者との死別も、おひとりさま急増の大きな要因だ。高齢者の核家族化が進み、子供がいても、そのままひとりで暮らす高齢者が多いからだ。
国民生活基礎調査によれば、65歳以上の夫婦のみの世帯は693万世帯。「おひとりさま予備軍」ともいえる「おふたりさま」は、おひとりさまと同じくらいのボリュームがある。
「高齢のご夫婦は、熟年離婚の危機にある人たちより、共通の趣味を持ち、むつまじく暮らしている人たちの方が実は危ない。どちらかが倒れると、生活が一変してしまうからです」と、前出の小谷氏は指摘する。
小谷氏自身、11年に夫を突然亡くしている。講師をしている立教セカンドステージ大学の受講生を対象に、配偶者を亡くして独り身になった人たち約40人で「没イチの会」も結成して活動している。
「夫婦のうちにやっておく終活があります。別々の趣味を持つ、フルでなくていいから仕事をする、同じ価値観を持つ人とつながりを持つなどして、それぞれの活動領域をつくっておくことです。特に、家のことを妻任せにしていた男性ほど、ひとりになると気力をなくして何もできなくなる」
突然、連れ合いに先立たれ、これまでの日常が崩れる。一緒に死ぬことは普通はできないから、その日は必ずやって来る。多くの高齢者がひとりで生きることを余儀なくされ、「ひとり死」が当たり前の社会になる。
頼りたくない人のための
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