『週刊ダイヤモンド』4月9日・16日合併号の第一特集は「後悔しない『認知症』」です。大好きな母が壊れていく・・・。ジャーナリストの安藤優子氏が経験した認知症介護の日々は、誰の身にも降りかかり得るものです。皆がかかるかもしれないのが認知症という脳の病。親、家族がなったとしても焦らずに済む情報、「こうしておけば・・・」と後悔せずに済む情報を網羅しています。(ダイヤモンド編集部論説委員 小栗正嗣)

「自分は至って普通」だと
受診を拒んだ母が壊れていった

 「しっかり者で社交的だった母がなぜこうなってしまったのか」──。ジャーナリストの安藤優子氏が、多忙な日々の裏で、16年間にわたった実母の壮絶な認知症介護の日々を振り返る。

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 母の場合、実は「認知症」と明確に診断されたのはそれらしき症状が現れてから数年後、高齢者施設に入居してからでした。多くの認知症の方と同様だと思うのですが、母も「自分は至って普通」だと、病院にはかたくなに行こうとしませんでしたから。

安藤優子さん

 そして専門医はどこにいるのか、どの診療科にかかればいいのか。適切な診断を受けるための情報も乏しい。受診を嫌がる認知症の親を医療につなげるのは、ごく普通の家族にとって非常にハードルが高いと感じました。幸い、母が入居した施設にクリニックが併設されていて、そこでやっと認知症の確定診断を得ることができたのです。

 最初に母の様子がおかしくなったのは、70代前半の頃でした。ある日「ベランダから飛び降りてやる!」と叫んだのです。当時は年齢的に「まだ早いな」と思ったのですが、今にして思えばすでに老人性うつの症状が現れていたのでしょう。

 それからしばらくして、母が玄関先で転倒してそのまま起き上がれず、一緒に暮らしていた父も助け起こすことができずに、一晩毛布だけ掛けて床に横たわって過ごすという事件が起こりました。

 明朝、駆け付けた姉が万が一のために救急車を呼んだのですが、マンションの高層階に住んでいたため、はしご車が出動するなどの大騒ぎに。大正生まれの母にとって、たかが転倒で近所を騒がせたショックと羞恥心は耐え難く、その一件以来人が変わったようにふさぎ込むようになりました。

 本格的に母に認知症の症状が現れるきっかけになったのが、父の死です。最初の異変から5年後のことでした。父ががんを患い入院してからというもの、目に見えて症状が進みましたね。

助けてもらうはずのヘルパーさんを
母が次々にクビにし始めた・・・

 当時、母はすでに要介護認定を受けていて、父は母の身の回りの一切合切を担っていました。父がいなくなれば誰かが面倒を見なければ母は生活できません。そこで私たちきょうだいが日替わりで在宅介護をし、昼間はヘルパーさんに助けてもらうことにしたのですが、なんと、困ったことに母がヘルパーさんを次々にクビにし始めたのです。

 私は週5日の生放送番組を抱え、突発的な海外取材もある仕事。兄も姉も家庭があるのに、ヘルパーさんに頼れないとなれば、早晩行き詰まりますよね。

 もちろん母本人の生活の質も大幅に下がります。介護の素人である私たちではお風呂に入れることもままなりませんから。でも、母は「知らない他人に裸を触らせることなどとんでもない」と断固拒否。

 日本の介護制度は優秀ですが、制度があってもサービスを受ける本人が他人の存在を拒絶すれば、もう家族だけで背負うしかありません。心身共に最もつらい時期でしたね。

 ある日私が行くと、焦げ付いた鍋の臭い、物が散乱する部屋、そして床を見るとペットの犬の排せつ物があらゆる所に転がっている、壮絶な状態でした。その光景を見て「犬もかわいそうだし、もう自宅で介護するのは限界だ」と、きょうだい3人で話し合い、施設に入居してもらうことにしたのです。

 実際に施設に入ってもらうまでにも一悶着ありました。「家の水道が壊れたからしばらく住めなくなった」と母にうそをついて入居させたのですが、頭のいい人だからすぐに見抜かれましたね。面会に行けば「自宅があるのになぜそこに住んではいけないのか」「苦労して育ててきたのになぜこんな仕打ちをするのか」など、私たちきょうだいにありとあらゆる罵詈雑言を浴びせました。

 罪悪感のあまり、一度は母を引き取ることも考えましたが、私の自宅に来ていたお手伝いさんにこう諭されたのです。

 「優子さんが海外取材に行っている間は誰が見るんですか? 一時の感情に任せてできないことは言わない方がいい」と。

後悔の芽を摘んでおくための
「医療・介護・相続・保険」全対策

 『週刊ダイヤモンド』4月9日・16日合併号の第一特集は「後悔しない『認知症』」です。

 同じことを何度も聞いてくる。些細なことで怒りっぽくなった。よく物をなくして探し物をしている。ごみの分別ができていないようだ……・。離れて暮らす親や家族の様子がおかしい。認知症かもしれない。そのとき、何をどうすればいいのでしょうか。診断・医療、介護、相続、保険などさまざまな分野について、「こうしておけばよかった」と後悔しないための情報をお送りします。

 認知症という病気には、困ったことに誤診がつきまといます。治せるはずの病気をみすみす放置することになりかねません。厄介な病気であることをまずは理解すること、そしてアルツハイマー型認知症だろうと決めつけずにきちんと診断を受けることが大切です。認知症専門の医療機関への調査結果リストも受診の参考にしてください。

 認知症は、認知機能の低下によって生活に支障が出ている状態を指します。誰もがかかり得る脳の病気であり、その介護も誰もが直面する可能性があります。ところが、予備知識がないまま、引きずり込まれるように経験することになる家族がほとんどです。在宅介護サービス、高齢者向けの施設など、公的介護保険を賢く使うにはどこに注意すればいいのか。必須ポイントをきちんと押さえておきましょう。

 認知症によって不幸を呼び込まないために、欠かせないのはお金に関わるリスクへの対処です。「認知症相続」に何の備えもなければ、残された家族が大損する事態に陥りかねません。もしものときの備えとして、生命保険なども選択肢となります。元気なうちに講じておくべき手立てとは何なのか。肝心なところをとらえておきましょう。

 親、家族、あるいは自分もいずれ認知症にかかるかもしれません。なったとしても焦らずに済む情報、「こうしておけばよかった」と後悔せずに済む情報を網羅しました。問題や悩みを一人で抱え込まず、地域包括支援センターなど公的な相談窓口を活用することも大切です。家族や自分の将来のため、本特集をぜひご活用ください