なぜ起こった、いつまで続く
ウクライナ危機を地政学で解く
戦車の砲撃で崩れるビル。迫撃砲で吹き飛ばされ、絶命する親子。2月24日に始まったロシアによる隣国ウクライナへの軍事侵攻はすでに1400人を超える民間人の犠牲者を生み、さらに混迷が続いている。
21世紀の現代において、今回のような武力による他国への侵攻が起こるとは、多くの人が予想し得なかった。現代の戦争の在り方は、サイバー攻撃や情報工作、ハイテク技術競争など「硝煙なき戦い」だという言説が少なくなかった。
いったいこの予想外の事態は、なぜ起こったのか。ウクライナはいつ平和を取り戻せるのか。同じような武力による侵攻は、世界の他の地域でも起こるのか――。容易には答えを出せないこれらの問を考える上で、「地政学」の考え方が役に立つ。
地政学は英国の地理学者、マッキンダー(1861~1947年)や米国の海軍士官、マハン(1840~1914年)が理論化した。地理的条件が、政治や軍事における各国の行動を左右するとみる思考体系だ。
この地政学の基本的な考え方に、ランドパワー(大陸国家)とシーパワー(海洋国家)という、分かりやすい二分法がある。
ランドパワーのロシア・中国が
シーパワーの米国と同盟国に挑戦
ランドパワーの国は内陸に勢力を有し、支配領域の拡大を目指す。ロシアや中国、ドイツ、フランスなどがこれに分類される。
一方シーパワーは、基地や港の整備でネットワークを構築して権益を守る。世界の秩序は、海洋と大陸ですみ分けることで維持されるというのが、地政学の分かりやすい考え方だ。
この理論でウクライナ侵攻の背景も理解できる。
陸続きの領域を拡張したい大陸国家のロシアと、NATO(北大西洋条約機構)というネットワークでヨーロッパ大陸における影響力を維持したい米国。この両国の均衡が崩れたのが、ウクライナというロシアとNATO領域の間の「緩衝地帯」だったわけだ。
歴史を振り返れば、地政学の考え方が役に立たないように見えた時期がある。それは東西冷戦期だ。共産主義・社会主義という政治イデオロギーが強烈な影響力を持ち、地政学的なものを上回った。
冷戦終結から約30年がたち、イデオロギーがほとんど意味を成さなくなった今、地政学的な振る舞いが亡霊のようによみがえっているのだ。
ロシアの暴挙は、決して許すことはできない。日米欧はロシアに対し厳しい経済制裁を加えるし、今後はロシアを支援する国にもその制裁範囲が広がるだろう。国際情勢に詳しいジャーナリストの池上彰氏は、ロシアの動向を基にするとウクライナ危機は今後半年以上に渡って続くと懸念した上で、「制裁による世界経済の減速があっても、自由と民主主義を守る上でのコストとして覚悟しなければならない」と指摘している。
ウクライナ侵攻後の世界は、陸と海の両勢力の間で、音を立ててきしみ続ける。この環境の中で、戦後の日本で長くタブー視されてきた「禁断の学問」地政学は、現代人に必須の学問となりそうだ。
世界史×地理×民族×ニュースで
ウクライナ危機と地政学を識る
『週刊ダイヤモンド』3月26日号の第1特集は「世界史・地理・民族・ニュース 地政学超入門」です。
混迷が続くウクライナ危機とこれからの国際情勢を、「世界史」「地理」「民族」「ニュース」で多方面から読み解きました。コンパクトな年表や地図を豊富に掲載し、地政学の基礎知識を一冊に網羅しています。さらに池上彰氏の特別講義や安倍晋三元首相と河野太郎氏の独占インタビュー、『サピエンス全史』著者のハラリ氏の寄稿を通して、多方面からロシアの暴挙と世界の行方に迫っています。
(ダイヤモンド編集部・堀内 亮、今枝翔太郎、竹田孝洋、名古屋和希、浅島亮子、臼井真粧美、村井令二、杉本りうこ)