盛り上がる事業承継ビジネス!
中小企業の社長必携の知識とは?
60万社――。
この数字は、中小企業庁が推計した、後継者不在により、黒字にもかかわらず廃業の危機にある企業数である。
黒字廃業をこのまま放置すれば、技術や雇用は失われ、地域経済全体が地盤沈下してしまう。例えば自動車産業のように、何層にもわたって中小の部品会社が連なる産業は、1社でも廃業し部品の供給が止まれば、産業全体が空洞化しかねない。そんな事態を引き起こす可能性のある企業数が、60万社に上るというわけだ。
中小企業の社長は、事業を確実に承継し、存続させていく地域社会への責任を負っている。決して「うちの家業の話」と、脇に置いていてはいけない。
そんな課題を解決しようと、事業承継をビジネスとして捉えている業界は、活発に動きだしている。その代表がM&A仲介業界だ。
M&A仲介業は、事業を売りたい企業と買いたい企業をマッチングさせ、M&Aの成約を仲立ちするビジネスだ。業界を挙げて、中小企業に対して、第三者への事業売却による事業承継の有効性を積極的に啓蒙している。
中小企業庁による「事業承継・引継ぎ補助金」などの予算化を、千載一遇のチャンスと捉え、“産業界の救世主”とばかりに、意気軒高だ。
確かに、M&Aは事業承継の有力な手段だ。だが、中小企業の経営者は慎重になった方がよい。
M&Aを進める際、売り手企業は株式や資産の売却、従業員の労働条件など、重要情報を仲介会社とやりとりする。にもかかわらず仲介事業には、免許も資格も必要ない。中小企業庁が定める「中小M&Aガイドライン」の順守を求められるだけだ。
実際、最大手の日本M&Aセンターホールディングスでは、顧客の契約書を悪用し、社内報告に必要な書類を偽造するという、ずさんな業務実態が明らかになっている。
そもそも、M&Aだけが事業承継の手段ではない。親族内や長年会社に尽くしてくれている幹部社員、あるいは外部のプロ経営者に託す方法など、いくらでも手段はある。
自社に最適な手段を見つけるには、自社の事情をよく知る専門家を味方に付けることだ。地方銀行や信用金庫・信用組合などの金融機関、税理士や公認会計士などの士業は、その有力候補だろう。
事業承継バブルに踊らされない
知られざる業界の内情と知識
『週刊ダイヤモンド』3月19日号の第1特集は「事業承継バブル!M&Aのカネと罠」です。
事業承継は、日本の産業界にとって喫緊の課題。そんな課題に対し、M&A(企業の合併・買収)の仲介会社が積極的に動き、関連業界はバブルの様相を呈しています。
ただし、M&A仲介業界には課題も多くあります。同業界ではようやく自主規制団体が発足したばかり。各社のコンプライアンス体制や仲介業務の品質向上について、今後議論が活発に行われそうです。
本特集では事業承継バブルに踊らされないために、関連業界の最新情報と、中小企業のオーナー経営者が知っておくべき事業承継に関するノウハウを、余すところなくお届けします。