「明らかにバブルだ」「いや全く違う」
小幡氏と松本氏それぞれの根拠は?
日米の株価はバブルなのか。まだ上がるか、もう持たずに下がるのか。強気派のリーダー格、松本大・マネックスグループCEOと弱気派・バブル崩壊派の旗頭である小幡績・慶應義塾大学大学院准教授が、モデレータを務める経済評論家の山崎元氏を挟んで激突する。白熱座談会の模様をお伝えしよう。
山崎 現在の株価はバブルか。ここから議論を始めましょう。
私の立場は、バブルは現在、形成中である。ただし、かなりタチの悪いものを形成中なので、まだまだ終わらないはずだと。日経平均株価3万円を突破したという株価水準は黄色信号がつき始めた初期ぐらいの感じだと思っています。
まず、株価はもう持たないぞという小幡先生、どうぞ。
小幡 皆さんバブルというと、崩壊直前から崩壊した瞬間を切り取ってイメージしがちなんですが、バブルというのは、今お話にあったように長いんです。生成過程があって、高原状態、乱高下があって最後に崩れる。今はこの一連の過程のただ中にあります。
山崎 かつての日本の資産価格バブルでいえば、1988年くらいの感じかなと思います。
小幡 私は今の株高は明らかにバブルで、しかも最終局面に近いと思っています。その理由は単純で、株価水準とか数字は関係ない。
これは私独自のバブルの定義なんですが、投資家が他人の投資行動に基づいて自分の投資を決めている状態にあって、しかも大多数の投資家がそうであり、かつ買っている場合。これがバブルです。
だから買いが続けば、バブルは続きます。もう3万円だろうが3万1000ドルだろうが関係なく上がる。みんなが買っているから買う。他の人が儲かっているのに自分が儲からないのは嫌だから買うし、最後まで乗って人よりも儲けたいから買う。
松本 私は全然そう思っていない。今、法定通貨、おカネに逆バブルが起きているのだと思います。
新型コロナウイルス禍で大量におカネが刷られ、政府による財政出動もどんどん行われている。米国で昨年6月のひと月で刷られたおカネの額が、建国後200年間で刷られたおカネと同額だったというデータもある。この1年間、世界で新たに供給されたマネーの総量はまさに桁違いのとんでもない規模になります。
例えば、ある野菜を作り過ぎれば安くなるように、おカネも金融緩和と財政出動によって安くなる。おカネの相対価値が下がっていると思うんです。
そうすると供給量の限られている株や不動産、あるいはビットコインみたいな仮想通貨・暗号資産、こういったものの値段が上がる。
おカネをたくさん刷って社会に供給しようという政策意図はもともと、「コロナ禍で大変な状況になった社会を守るため」です。これによってインフレが起き、食料品や日用品などの値段が上がっては困る。政策意図に反する。一方で、株の値段が上がっても、国民生活の上では困らないので放ってある。そう私には見えます。
おカネがジャブジャブになっている中でおカネに逆バブルが起きていて、結果として株などの値段が上がっているということです。
山崎 カネ余り状況については私も同意見です。金融緩和だけでなく財政を使うことで実質的にカネが回るようになった。一方で過剰な流動性が発生して資産に向かっている。では果たして金融政策、財政政策が正常化した時に、この株価が持つのかどうか。
松本 日本の資産バブルの時には不動産融資の総量規制によってバブルがはじけました。今回は新型コロナ感染拡大によって社会が傷んで壊れるのを防ぐためにおカネを出した。例えば、ワクチンが効いて感染拡大が収まったとして、じゃあすぐにおカネを吸い取るでしょうか。すぐに増税とはならないでしょう。
金融緩和の拡大はいずれ止まるでしょう。そこで心理的な調整は起きると思いますが、おカネの総量が急に減るわけじゃない。おカネは急には吸い取らないで、出しっ放しになると思う。だからバブル崩壊みたいなことにはならない。
山崎 株価自体の水準は気にしないんですか?
松本 そもそもPER(株価収益率)の平均が例えば15倍だったとしましょう。じゃあなぜ15なのか。5ではないのか。科学的な根拠があるわけではないんですよ。
市中のおカネの量が桁違いに多くなった中で、PERが15ではなく、20とか25になったとしても、それはそういう時代になったということだと私は思います。
小幡 いやいや、驚くべきことに意見が全く一緒ですね、実は。
バブル相場と抜かりなく向き合うための
市場の現状、展望、リスクを総まくり!
『週刊ダイヤモンド』3月27日号の第1特集は「バブル投資 見通し&リスク」です。
日米の株価は沸騰中です。新型コロナウイルスが猛威を振るい始めた2020年3月に1万8000ドル台まで下落したNYダウ(ダウ工業株30種平均)は、12月末日に3万606ドルと最高値を更新して2020年を締めくくりました。21年3月に入ってからも3万2000ドルを超え、史上最高値を幾度となく更新しています。
約1年前の3月19日に1万6300円台を付けた日経平均株価もまた、米国株の背中を追うように21年2月、30年半ぶりに3万円を超え、3月に入ってもその大台に再度乗せています。日本が資産バブルに熱狂していた1989年の大納会でつけた史上最高値3万8957円まで、あと9000円を切りました。
伝説的なバリュー投資家・ジョン・テンプルトン卿が残した、よく知られる相場格言があります。「強気相場は悲観の中で生まれ、懐疑の中で育ち、楽観とともに成熟し、陶酔の中で消えてゆく」です。
今、私たちはどの位置にいるのでしょうか。バブルかバブルではないかという白熱議論は「懐疑の中」を意味するのでしょうか。実体経済がまだ回復していない中で、連日の史上最高値更新は「楽観の中」にあるからでしょうか。米国の中小型株の沸騰劇や〝空箱会社(SPAC)ブーム〟は「陶酔」を意味するのでしょうか。
1987年から2006年まで19年間にわたってFRB議長を務め、かつてマエストロとその手腕を称賛されたアラン・グリーンスパン氏。氏が株式市場を「根拠なき熱狂」と評したのは1996年12月のことでした。しかし、その後、S&P500指数はITバブルのピーク(2000年3月)に到達するまで、2倍以上の水準にさらに上昇しています。
ITバブル崩壊後の2002年のシンポジウムでは、「バブルは崩壊して初めてバブルとわかる」との言葉を残し、リーマンショック前の2004年には当時、問題視され始めていた住宅バブルについて「住宅バブルがあるとしても局地的なものであり、大きな懸念はない」と不安を打ち消していました。しかし、これがその後のリーマンショック、世界金融危機につながったのは言うまでもありません。
バブルとは、資産価格がファンダメンタルズから大きく乖離し、それが持続している状態のことです。ですが、ITバブル崩壊後の2002年のシンポジウムで、グリーンスパン氏が「バブルは崩壊して初めてバブルとわかる」と口にしたように、一筋縄ではいかない厄介な問題であるのは間違いありません。
肝心なのは、さまざまな市況が過熱する「バブル相場」を前にして、私たちがどう振舞うかです。バブル相場とどう付き合い、いかに勝ち切るかです。
山崎元氏、松本大氏、小幡績氏が繰り広げた白熱激論と共に、さわかみ投信・澤上篤人会長の警告に耳を傾けましょう。「バブル大崩落にどう備え、逃げ切るか」をアドバイスします。
投資対象の主役である「米国株」と「日本株」、「中国株」、それに「金・コモディティ」、「仮想通貨(暗号資産)」の各パートでは、まずそれぞれの市場でいま何が起こっているのか、過熱の現場を追いました。
続いて、専門家たちの最新相場見通しを紹介し、気になるリスクの今後の行方について、どう見立てているかを聞いています。さらに、入門者が落とし穴にはまらないための注意ポイントを解説しました。
バブル相場と対峙し、その熱に浮かされることなく、また抜かりなく投資判断を行う。そのために必要なファクトと視点を網羅しました。賢い投資の実践に向けて、本特集をぜひご活用ください。
(週刊ダイヤモンド編集部論説委員 小栗正嗣)