支援できるか、債権回収に走るのか
取引先企業だけでなく地銀も瀬戸際
「金融機関の本気度が試されている。ここで支援できるのか。それとも債権の保全・回収に走るのか」――。
関東地方のある地銀の支店長は、コロナ危機で経営難に陥った企業に対し、どのように対応するのかで銀行としての存在価値が測られると強調した。
しかし、バンカーとして取引先企業に向き合おうとする姿勢と、実際に支援できるかどうは別問題だ。不振企業を支援するとなれば、債権の貸し倒れリスクに備えて引当金を損失計上できるだけの「収益基盤」、それに加えて企業を成長軌道に戻す「再生力」の二つの要素を、当の銀行が持っていなければならない。「コロナショックは地銀をふるいに掛ける試金石」(銀行アナリスト)なのである。
収益基盤でいえば、本業である「顧客向けサービス業務利益」(貸出金から得られる利息収入と企業や個人から受け取る手数料収入―銀行全体の経費)が黒字を維持できているかどうかが重要ポイントとなる。前出の銀行アナリストは「顧客サービス利益が赤字の銀行に、もはや取引先企業を支える貸し倒れ引当金を積む余裕はない」と分析する。
一方、再生力は、これまでにどれくらいの数の企業再生を手掛け、健全な姿に生まれ変わらせることができたのか。その経験と実力が試されることになる。
ダイヤモンド編集部の試算によると、顧客サービス利益が19年9月中間期に赤字だったのは、地銀104行のうち半数の52行を占める。しかも、19年3月期まで5期連続赤字となっている銀行も26行存在した。
本業で赤字となっているという点で、もはや顧客企業の存続をサポートするどころか、自らの存立が危ぶまれる状況だ。その対極に、顧客サービス利益を改善させている銀行もあり、地銀の中で二極化が進んでいる様子が浮かび上がる。
1位静岡銀
上位に山口FG傘下の3行も
「顧客向けサービス業務利益」は金融庁が16年9月に発表した独自の業績分析だ。15年3月期決算の時点で4割の地銀が赤字となり、25年3月期には6割超へと赤字数が膨らむと打ち出し、地銀業界を騒然とさせた。
本業の損益を表し、顧客に向きあった結果として、どれだけの収益を上げているかを示す目安となる。
そこで、今回の特集では、前期の19年3月期決算と20年3月中間期決算における各地銀の顧客向けサービスの利益率を試算し、中間決算における利益率と前期からの改善率の二つを偏差値化して、二つの数字の平均値から順位を作った。
104行全体を見ると、19年3月期における赤字地銀は46行だったものが、20年3月中間期には52行と半数まで拡大している。さらに、71行が利益率を減少させており、多くの地銀ではビジネスモデルがもはや実質的には破綻していることがうかがえる。
そうした中で、改善の道を歩んでいる銀行も少なくない。ランキング1位の静岡銀行、2位の横浜銀行(神奈川県)、3位の福岡銀行と上位陣は地銀業界の雄が集う。5位の関西みらい銀行(大阪府)と6位のきらぼし銀行(東京都)は、いずれも近年合併して誕生した新しい銀行で、この本業の利益がどう推移するかが合併の効果を図るバロメーターになるだろう。
4位の北九州銀行、10位のもみじ銀行、11位の山口銀行は、いずれも山口フィナンシャルグループ(YMFG)の傘下銀行だ。通常2◯3年の支店長の任期を5年に延ばすなどして地域密着の試みを強める一方、「あらゆる地域活性化のノウハウを持ち、そのメニューの一つとして金融があるという会社」(吉村猛YMFG社長)を目指すという取り組みが、結果として本業の収益に繋がっているとみられる。
また52位の島根銀行は、いまだに本業赤字ながら改善度は随一の0.06ポイントと、赤字幅の縮小が見て取れる。同行は長らく赤字続きだったこともあり、19年9月に大手インターネット金融のSBIホールディングスと資本提携を結び、V字回復に向け動き出した。今後の動向が注目される。
長引く低金利環境に苦心
金利引き上げの手法とは
法人や個人に対する貸出金利と預金金利の差である「利ざや」でもうける銀行にとって、低金利環境は頭痛の種だ。特に、新型コロナウイルスの影響で企業は業績悪化が必至だ。日本銀行は金融緩和の強化策を打ち出しており、マイナス金利政策の深掘りの可能性すらある。金利が上向く局面はほど遠い。
加えて、新型コロナウイルスの影響が深刻化する以前は、企業における資金需要は減少傾向にあると見られていた。数少ない資金ニーズを複数の金融機関が取り合うことになり、金利の“値下げ競争”は過熱感を帯びていた。
この状況だからこそ、銀行は今、コンサルティングなどの題目を掲げ、事業承継の提案といった融資以外の付加価値の提供に力を入れている。そうして銀行として信頼を勝ち得れば、高い金利での融資を受け入れてくれているからだ。
つまり、足元の低金利環境においても貸出金利を伸ばしている、あるいは下げ幅をとどめている地銀は、企業と向き合い、信頼を得ているといえる。
そこで、19年3月期と20年3月中間期における貸出金利の改善度を偏差値化して、ランキングを作成した。実際に貸出金利を改善あるいは据え置きできている地銀は、104行中8行のみとなった。
ここで突出した数字を示したのは、0.05ポイントという改善度を見せて同率1位となった東京スター銀行と佐賀共栄銀行だ。特に佐賀共栄銀は、店舗数と行員数を削減してコストカットにまい進し、同時に金利を重視した営業体制に変えたことが、この結果を表しているようだ。
同率3位の豊和銀行は取引先企業の販路開拓支援に本腰を入れている。この融資以外の付加価値を提示していることが、金利改善の背景にあるものだろう。
同率5位のきらぼし銀行は、健全な企業だけではなく経営不振の企業でもメインバンクになる取り組みを進め、「ダンピング競争には与しない」(渡邊壽信頭取)との方針が金利の維持に貢献しているとみられる。
経営環境が苦しいのはどこも同じだが、独自の試みを進めている銀行は、少しずつではあるが、結果に結び付いているといえる。
存在価値が問われる地銀
『週刊ダイヤモンド』4月11日号の第1特集は、「選別される銀行」です。
存在意義が問われている地域銀行は、どのように生き残りを図ろうとしているのでしょうか。取引先企業に向き合わなければ、存続は不可能なのは自明ですが、その取り組みはできているのでしょうか。
Part1では、新型コロナウイルスの感染拡大によって危機に瀕している取引先企業を救うために、地銀にとって必要な「二つの試金石」を示しました。
Part2では、全国104行地銀の「存在価値ランキング」を作成し、地域に選ばれている地銀はどこなのかを探っています。
Part3は、4行に地銀に対して矢継ぎ早に出資を重ねているSBIホールディングスの北尾吉孝社長のインタビューと共に、同社の狙いを解き明かしました。
Part4では、生き残りの選択肢として地銀が採る「統合・再編」の在り方について、どのような統合や再編が成果を上げているのかを検証しました。合わせて、遠藤俊英・金融庁長官のインタビューを通じて、監督官庁が何を重視しているのかをお伝えします。
Part5は、銀行が生まれ変わろうとするために取り組んでいるさまざまな試みを、Part6は、地銀が上場している意義を検証しました。
地域銀行の現状と今後の見通しを、可能な限りレポートした今回の今特集を、是非ご一読いただければ幸いです。
(ダイヤモンド編集部 布施太郎、田上貴大、重石岳史、中村正毅)