『週刊ダイヤモンド』3月21日号の第一特集は「儲かる農業2020 消えるJA」です。農協(JA)の大淘汰が始まりました。ダイヤモンド編集部が独自に試算したところ、全国にある600JAの「4分の1」に相当する153JAが赤字に沈む衝撃的な実態が明らかになりました。マイナス金利政策の影響による金融事業の収益悪化のためです。農協の本分である農家支援をおろそかにして金融事業に依存する農協には未来はありません。一方、農業に商機を見いだしたトヨタ自動車や三菱商事などは有力農家を囲い込み始めています。消える農協と攻める企業──主役交代が進む農業激変の現場をレポートします。

金融ショックで凋落するJA
若さとITで躍進する楽天

Photo by Mieko Arai

「入社希望者はたくさんいるから、リクルートには困らない。けれど、入社した社員の住む場所が本社の周りに足りないんですよね……」

 松山空港からバスで約1時間揺られてようやくたどり着く愛媛県大洲市。こののどかな街には、住宅の需給バランスを崩してしまうくらい、社員を激増させている農業法人がある。楽天の100%子会社、楽天農業だ。

 レタスや小松菜といったオーガニック野菜で作るカットサラダをヒットさせ、急成長を遂げた。

 2019年は首都圏のサラダの需要に応えるため、静岡県に50ヘクタール以上の土地を確保して、カットサラダ工場も建設する。本拠地の愛媛県内では、撤退する食品メーカーの事業を事実上譲り受ける形で冷凍野菜事業にも本格進出した。

 農場で働く社員は、誰も彼も若く活気に満ちている。社員数は昨年から50人増えて約110人へと倍増している。この4月にも新卒の新入社員が14人加わる予定だ。

 中山間地の荒れ地を次々と開墾し、08年にゼロだった経営面積は合計65ヘクタールまでに拡大。もはや楽天は立派な「豪農」である。

 楽天を筆頭に、農業に参入した企業は、資本力を生かした設備投資とM&A(企業の合併・買収)で、農業再生を主導している。

 また、企業参入の目的は農場経営だけではない。トヨタ自動車や三菱商事などの大資本は、JAグループの牙城である9兆円の農産物流通市場を奪いにきている。

全600JA中、153JAが赤字転落
衝撃試算を初公開

 片や農協である。ダイヤモンド編集部の試算により、全国に600ある農協のうち153JAが赤字に沈む衝撃的な実態があぶり出された。

 赤字転落の理由は金融事業の大幅な減益だ。農協は本業である農業関連事業の赤字を金融事業の黒字で補填して経営を成り立たせてきた。だが、マイナス金利政策の影響で、1JA当たり最大27億円も金融事業が減益になることが想定される。

 JAグループ内でも本編集部と同様の試算が行われており、減益額の大きさに戦慄した農協は、規模を追うだけの成長戦略なき合併に走っている。

 凋落する農協と躍進する企業──。明暗は分かれた。いよいよ農業の主役交代が始まった。

担い手農家1600人が選ぶ
カリスマ農家、優良農協も

 『週刊ダイヤモンド』3月21日号の第一特集「儲かる農業2020 消えるJA」の目玉は、前述の独自試算に基づく「JA赤字危険度ランキング」だけではありません。

 ダイヤモンド編集部は今特集のために「担い手農家アンケート」を実施。全国1600人の農家から回答を得ました。回答者は平均経営面積36.6ヘクタールの有力農家たちです。

 この有力農家たちに、「支持する農協」や「理想とする農家」「役立つ農業ツール」などを評価してもらい、作成したオンリーワンのランキングが大きな目玉の一つです。

「役立つ農業ツール」のランキングでは、農産物の生産から販売までを一気通貫で支援することで農業界のプラットフォーマーの座を狙う企業の多くがランクインしました。こうした企業は、傘下のIT企業や小売企業をフル活用することで、JAグループが牛耳ってきた農業の「主役交代」を実現しようとしています。同ランキングは、アンケートに回答した有力農家たちに、主役交代の野望を抱く企業が浸透していることを浮き彫りにしました。

 また、今特集でも定番となった「レジェンド(大規模)農家」ランキング、中小でも高収益を上げる「中小キラリ農家」ランキングを作成しました。いずれも、担い手農家アンケートの回答者から、ダイヤモンド編集部が独自の基準で選定した超有力農家です。特集では、農業ビジネスを展開する企業が提携のために殺到するレジェンド農家の凄みや、他産業から農業に参入して高収益モデルを確立した中小キラリ農家の儲ける秘訣もお届けします。

「JA大淘汰」とともに「農家の大淘汰」の時代もやってきそうです。今特集は、いよいよ始まった農業激変と、その後の「未来の農業」の姿をできるだけ克明に描き出しました。