『週刊ダイヤモンド』12月14日号の第1特集は、「駅・空港パワーランキング」です。多種多様なランキング21連発。そこからニッポン、地域の未来が見えてきます。

渋谷ヒカリエ4階の空間
花開くときを待ち続けてきた

 渋谷駅エリア再開発のヤマ場となる地上47階、地下7階の超高層複合ビル、渋谷スクランブルスクエア(第1期東棟)が11月に開業した。道を挟んでその隣に並ぶ複合ビルの渋谷ヒカリエには、4階部分にガランとした空間がある。

渋谷ヒカリエ4階の空間 Photo by Tomomi Matsuno
拡大する

 家賃の高い駅前一等地なのに、開業した2012年から7年もの間、空間を遊ばせたまま。設計大手の日建設計で都市計画事業を統括し、03年から渋谷再開発に携わってきた大松敦取締役常務が特別の思いを寄せるのが、実はこの4階部分だ。

 ヒカリエの基本設計が始まった07年ごろは、スクランブルスクエアを含め駅街区開発の具体的な事業化見通しが確実ではない時期だった。最悪の場合は、ヒカリエが建ってから開発が中断する可能性もあった。それでも関係者たちは、いずれ4階は上空を歩く「空の道」につながると、未来の渋谷に思いをはせた。

 「設計当時から、駅周辺のビルを立体的につなぐ発想はあった。でも実現するかどうか100%の確信はなかった」と大松取締役。それでもこの空間をつくって、4階が花開くときを待ち続けてきた。

 大工事の末、東京メトロ銀座線の渋谷駅をヒカリエ側に移し、20年にはヒカリエの3階部分に改札口ができる。スクランブルスクエアも3階部分で銀座線やJR線につながる。

 既に東急東横線、東急田園都市線、東京メトロ半蔵門線、東京メトロ副都心線がある地下2階からこの3階部分まで、ヒカリエ同様に「アーバンコア」と呼ばれる駅やビルを縦に結ぶエスカレーターで上れるようになっている。

 さらに再開発が進むと、ヒカリエの4階から銀座線ホームの屋上を歩いて北西にある渋谷マークシティまでつながる空の道が実現する段階に入る。

 渋谷駅は再開発によって縦に延びていき、地下、地上、さらに上空を往来する駅へと変貌していくのだ。

 渋谷再開発は2000年代初頭から四半世紀にわたって続くものだ。08年のリーマンショックなど幾度も困難に直面しながら、東急、JR東日本、東京メトロら複数の鉄道事業者や地元地権者と利害がぶつかりつつも折衝を重ねてきた。彼らが手を組み、大きな開発を進めたのは、「危機感」を共有していたからだ。

 02年に新宿や池袋に通じる副都心線と東横線の相互直通運転の実施が決まった。渋谷駅の利便性を高め、どんどん便利になる他の駅に対抗するためではあるが、それまで東横線の始発駅や終点として利用された渋谷駅を素通りされる恐れがあった。便利になる半面、ジレンマを抱えながらの決断だったのだ。

駅マエ売上高ツートップは池袋、新宿
渋谷はスクランブルスクエアで400億円稼ぐ

 首都圏にある駅について、徒歩1分圏内にある商業施設の売上高合計(18年度)でランキングを作成すると1位は池袋駅、2位は新宿駅になる。

*駅前のショッピングセンター、百貨店の売上高合計。対象駅は首都圏。銀座駅など一部地下鉄駅を含んでいない。対象施設は売上高が判明した代表的な商業施設のうち、駅から徒歩1分以内の立地を目安にダイヤモンド編集部が抽出した。一部例外を除き、駅ナカ商業施設を含んでいない。ショッピングセンターの売上高は百貨店、GMSなどの核店舗は除いた(各店舗の位置づけは施設によって異なる場合がある)。乗降客数は2017年度の1日あたり。対象駅の各鉄道乗降客数を合算したもの。乗員数を倍にして乗降客数とした場合もある。ショッピングセンターの売上高は「繊研新聞」(繊研電子版 https://senken.co.jp/)2019年8月7日付の18年度SC売上高ランキング、百貨店の売上高は各社資料、乗降客数は鉄道事業者資料、国土数値情報に基づく
拡大する

 駅だけで用が足りることから「エキブクロ」とも呼ばれる池袋駅には、西武百貨店、東武百貨店、パルコ、JR東日本のルミネといった商業施設が集まっている。新宿駅にも小田急百貨店、京王百貨店、ルミネなどがある。駅マエで買い物することを目的とする客の吸引力は新宿や池袋が勝る。

 渋谷は駅マエを目的地として利用されなければ衰退するという危機感が、関係者の間にはあった。それまで渋谷駅に隣接する大きな商業施設は東急百貨店東横店ぐらいだった。

 そこから2000年にマークシティ、12年にヒカリエ、18年に渋谷ストリーム、そして商業施設年間売上高目標400億円を掲げるスクランブルスクエアが今秋開業。駅マエ商業施設の開発を仕掛け、渋谷は下克上を狙う。

「駅・空港」ランキング21連発
人・モノ・カネが集まるのはどこだ

 『週刊ダイヤモンド』12月14日号の第1特集は、「駅・空港パワーランキング」です。

 JR東日本は11月中旬、JR山手線と京浜東北線の田町駅~品川駅間に設けられる新駅「高輪ゲートウェイ駅」を報道陣に公開しました。折り紙をモチーフにした大屋根や柔らかな木目調の内装は美しい。それでもまだ人が使っていない駅はなんとも無機質です。

 人の熱気や温もりがあってこその駅・空港。高輪ゲートウェイ駅は、約50年ぶりとなる山手線の新駅として、20年春の暫定開業後に魂が入ってくるのでしょう。

 ▼首都圏駅の駅マエ売上高▼駅ナカ商業施設ショップ数▼駅地下歩行空間の距離▼リニア中央新幹線や東海道新幹線、延伸を予定する北陸、北海道、九州の各新幹線の「期待駅」「がっかり駅」▼駅ナカ・駅マエ温泉▼空港旅客数▼空港の韓国・香港線比率▼カジノ・IR誘致レース▼空港の非航空系収入割合……。

 巨大駅や国際空港から、人里離れた小さな駅や地方空港まで、多種多様なランキング21連発。人が集まる所に、モノ、カネ、情報が集まる。人が行き交う駅と空港は、地域が持つチャンスと課題を映し出し、土地の経済、社会、文化も透ける。そこからニッポン、地域の未来が見えてきます。