『週刊ダイヤモンド』12月7日号の第1特集は、「最強投資家が狙う割安株」です。物言う株主として恐れられるアクティビストの正体に迫った今回は、割安株投資のアイディアにつながる目玉が四つもあります。(1)過去1年間の有力アクティビスト投資成績ランキング、(2)有力アクティビストが大量保有する94銘柄の徹底検証、(3)アクティビスト襲来危険度ランキング、(4)最強投資家に学ぶ割安銘柄ランキング500です。株高を背景に日本株に狙いを定めたアクティビストの活動が激しくなる中、徹底取材を敢行しました。

 

 

アルゼンチン海軍をも恐れぬ
最強投資家エリオットの利益確保策

デフォルトした国債を巡り、アルゼンチンと争って勝った米エリオット・マネジメント。アルゼンチン海軍の船舶差し押さえなど利益確保にあらゆる手を尽くす最強投資家が、日本の不動産大手ユニゾホールディングス株を大量保有した。
 一方、米バリューアクト・キャピタル・マネジメントはオリンパスに、身内を社外取締役として送り込んだ──。いずれも物言う株主として恐れられるアクティビストによる、今年の動きだ。日本に襲来し、日本株に狙いを定めた彼らの活動が激しくなってきた。
 背景の一つに日本株の上昇がある。11月には日経平均株価が4日連続で年初来高値を更新(8日終値で2万3391円)。金融緩和で米国株が高値圏で推移していることもあり、「年内に2万4000円台を回復する」(大手証券)といった強気派も増えている。
 心配なのは香港情勢で米中関係が悪化するリスクだが、ソニーフィナンシャルホールディングスの渡辺浩志シニアエコノミストは「米大統領選挙まで1年を切った。トランプ氏は再選に向け、株高による支持率の上昇を狙い、対中緩和にかじを切るはず」と分析する。
 米中貿易協議が進展すれば、世界貿易や設備投資、企業業績の改善が期待できるという。
 渡辺氏は「昨年初から減速してきた実体経済が回復しつつある」とも話す。半導体サイクルは約2年の周期で上下するが、先行指標の半導体関連株価が上昇局面に入った(右ページ左図参照)。次世代通信規格「5G」関連の需要が、これから本格的に増えていくことも追い風となりそうだ。
 相場が強いことで、日本株に注目する外国人投資家が増えている。今回特集で取り上げるアクティビストもそうだ。キーワードは「割安度」である。投資指標のPER、PBR(上図参照)で日米を比較すると、日本株の割安度が際立つ(右ページ表参照)。これこそ、アクティビストが日本株を熱心に物色するゆえんである。

1年間で保有した半分強の銘柄で
10%以上の株価上昇

 現在、日本で猛威を振るうアクティビスト。彼らは過去1年間、どんな銘柄に投資をしたのか。
 上場株式を5%超取得した投資家は5営業日以内に「大量保有報告書」を提出する義務がある。昨年12月以降、新たな銘柄について提出した有力アクティビストに関し、その実力を測るべく作ったのが上のランキング表だ。
 報告書の提出日時は銘柄によって異なる。そこで提出直前の株価終値と、直近(11月18日)の株価終値とを比較して騰落率を出した。
 直近までの上昇率トップは香港オアシス・マネジメントが保有するサン電子で、報告書の提出は3月26日午後5時。8カ月で80%以上、株価が上昇している。
 上昇率3位は冒頭で紹介したユニゾホールディングス。3カ月半で41%上がった。
 ユニゾを巡っては、最初は旅行大手エイチ・アイ・エス(HIS)が敵対的TOB(株式公開買い付け)を仕掛けた。だが、その後ソフトバンクグループ傘下の投資ファンドが介入し、HISの計画が頓挫。さらに現在、米投資ファンドのブラックストーン・グループも買収提案を出している。
 買収者が入り乱れる中、株価はつり上がり、エリオットは抜け目なくチャンスを物にしている。
 2位のサンケン電気は上昇率51%。買ったのはエフィッシモ・キャピタル・マネジメントだ。今回判明した23銘柄中7銘柄と最多であった。内訳を見ていこう。
 6位のライフネット生命保険は、報告書の提出直後に株価が11%も上がるほどインパクトがあった。ライフネットにはKDDIが25%出資しており「いずれ子会社化される」(外資系証券)とみられていた。KDDIのTOBを先回りする狡猾な戦略で、成功を収めた格好になっている。
 全23銘柄の直近までの騰落率を見ると、10%以上の上昇が12銘柄で半分強。20%以上は7銘柄、50%以上も2銘柄あった。アクティビストを先回りしたり、彼らの活動に便乗したりできれば、コバンザメのように収益を上げられる。研究の価値は十分にある。
 最後にランキング最下位の大平洋金属も確認しておこう。「提出直前から3営業日前の株価」(3020円)と提出直前の株価(2901円)を比べると、4%近く下がっている。急落局面で、エフィッシモが勇気を出して買い向かったことが推察される。
 だが、株価は5営業日後に2697円まで下げ、直近までの下落率は18%まで拡大した。落ちるナイフをつかむようなリスクの高い逆張りをして、失敗したのだ。アクティビストも百戦百勝ではないことは、心に留めておきたい。

アクティビストの実態に迫り、
彼らに割安株投資の極意を学ぶ

 『週刊ダイヤモンド』12月7日号の第1特集は、「最強投資家が狙う割安株」です。
 パート1は、「黒船の正体」。企業を震撼させるアクティビストの実態に迫りました。日本に上陸した「アクティビスト十傑」について詳しく解説したほか、彼らが大量保有する94銘柄を徹底検証しています。
 パート2は、「実録! 物言う株主VS日本企業」。日本のアクティビスト動向で近年投資対象企業の大型化が目立つようになってきました。わずかな持ち分でも巨大企業に自らの要求を押し通す、彼らの手口を分析しています。
 香港を拠点に日本市場で暴れまわる、オアシス・マネジメント幹部のインタビューも必見です。
 パート3は、「和製アクティビスト始動」。海外アクティビストの勢いに負けじとファンドの立ち上げに挑戦している日本人がいます。彼ら新型金融エリートの実態を追いました。
 パート4は、「アクティビスト襲来危険度ランキング」。実際にアクティビストの標的となりやすいのはどんな企業なのか、独自に試算しました。
 パート5は、「国家と機関投資家の覚醒」。トップ人事を巡って内紛が起きたLIXILグループ。その舞台裏で起きた、巨大機関投資家の変化を活写します。
 「アクティビスト排除法」ともやゆされる改正外為法を巡って、国家とアクティビストが水面下で繰り広げる攻防戦も取材しました。
 パート6は、「最強投資家に学ぶ割安銘柄ランキング500」。アクティビストの戦略を参考にランキングを全5本、作成しました。
 業績や財務基盤の視点、予想利益を活用するなどさまざまな手法を駆使することで、お宝銘柄を探す際の手掛かりを示しました。
(ダイヤモンド編集部編集委員 清水理裕)