『週刊ダイヤモンド』8月3日号の第1特集は、「ゼネコン・不動産 動乱! 全国2000社ランキング」です。建設業のM&A(企業の合併と買収)の件数が過去最高水準になっています。業績は絶頂期なのになぜ? 建設業の廃業数が高止まりしています。活況なのになぜ? 異変の真相、絶好調業績の深層に迫りました。

「死」を前にした50代社長
 飛島建設へ会社を託した

 千葉県で建設会社を営んできた杉田正己は、50代にして患い「死」を覚悟することになった。社長として率いる杉田建設興業は売上高15億円、従業員60人。自分が亡き後も、事業を、社員を、守りたかった。

 日本大学理工学部建築科の同級生だった岡部一郎に、後継者がいない悩みを吐露した。彼に後を頼みたかった。中堅ゼネコンである飛島建設の幹部だった岡部は、相談の内容を社内に持ち込んでみた。

 2017年夏、飛島は杉田建設を買収した。情にほだされたわけではない。

 杉田建設は、東京・小笠原諸島で創業しており、島で建設事業を手掛けていた。国は離島振興を打ち出しており、飛島は商機を見いだしたのだ。この地は空港の計画が持ち上がったりしている。杉田建設社長となった岡部は、今は亡き友人の遺志を引き継いだ。

 飛島は1990年代後半から2000年代前半に金融支援を受けた当時、メインバンク主導下での再編候補になっていた。そこから業績回復を果たし、今度は仕掛ける側に回った。17年以降、事業を補完する別の会社も買収し、M&A(企業の合併・買収)も手段の一つにして成長戦略を描いている。

 建設業界は今、絶頂期だ。にもかかわらず身売りが多発している。M&A助言のレコフによると、17、18年共に建設業のM&Aは100件超。過去最高水準である。

 不況期の身売りは経営危機に陥った企業が対象で、相手先を含めメインバンクが主導した。近年の身売りはそれとは別物だ。売る側も買う側も、自らの意思で相手を選び、決断するようになった。

特需ピークアウトの瞬間に
福島名門ゼネコンが身売り

 福島県の地場名門ゼネコンで売上高100億円超の佐藤工業は創業70年を迎えた18年の年末、準大手である戸田建設の傘下に入った。東日本大震災後の復興特需がピークアウトしたタイミングで踏み切った創業家の3代目社長はまだ40代。やはり後継ぎがいなかった。

 足元の業績は好調だが、県内の市場は縮小すると見込み、100周年となる30年後を見据えて安定した会社にしたかった。M&A仲介会社から複数の企業が譲渡を希望しているとの提案を受け、最終的に戸田を選んだ。

 「これまでは震災復興に集中するのが務めだと思っていた」と佐藤工業の前副社長で現社長の八巻恵一。今後、県外へ乗り出そうにも「アウェー」だ。「戸田グループに入ったことで、戸田の東北の他県や北関東の支店の支援を受けながら、福島と同じ品質で工事をやれる可能性がある」と期待を込める。

 ゼネコン業界では「合併で1+1=2にはならない。メリットなし」という常識が長年まかり通ってきた。合併すると工事に入札するときの札が二つから一つになるだけ。談合が当たり前の時代には、受注が回ってくるチャンスが一つ減ることになるといわれてきた。
 昨今のM&Aの増加は、吸収合併ではなく子会社にするなど、やり方次第でメリットが出せると認識されていることを意味する。商売の地域や領域がかぶらないようにしながら、買収された会社も営業活動をすれば、ビジネスチャンスは増やせる。17年以降の事例を見ると、買い手になって業容を広げたいと考える異業種も目立っている。

 絶頂期にありながら、休廃業・解散数も高水準で推移している。18年は9000件を超えた。

M&A、廃業、倒産に
「後継者難」の共通点

 M&A、廃業共に、後継者難が一大要因になっている。職人などの人手不足も深刻で、さらにこの先の仕事量や人手に不安を抱き、潮時と判断しているのだ。

 倒産については、工事量の多い近年は総数こそ減っているが、後継者難を含む人手不足は倒産も引き起こしている。

 職人や技術者などの人手不足は、バブル崩壊後に続いた建設不況と08年のリーマンショックの際に人員削減をした付けが回ってきたところが少なくない。このタイミングで業界から足を洗った者は多い。

 新たな人材を取り込もうにも、業種を問わず人手不足が叫ばれる中、「きつい」「汚い」「危険」の3K職場というイメージが付きまとう建設業は若者に敬遠されている。他の産業と比較して若年層の割合は減り、一方で高年齢層の割合が増え続けている。

 業界ではこれを表すグラフを「ワニの口」と呼ぶ。その口は閉じることなく、広がるばかりだ。今後10年で職人の3分の1が引退すると見込まれ、人手はさらに足りなくなっていく。

「瀕死」「地獄」「断末魔」を経て
「復興バブル」「開発バブル」…今は?

 『週刊ダイヤモンド』8月3日号の第1特集は、「ゼネコン・不動産 動乱! 全国2000社ランキング」です。 

 1990年代に建設投資80兆円を超えた建設業界はバブル崩壊で長い不況に陥りました。90年代後半以降に「週刊ダイヤモンド」が掲載したゼネコン特集は、タイトルが実におどろおどろしい。

 「瀕死」「最終章」「地獄」「大破綻」「最終処理」「総崩れ」「資金切れ」「断末魔」「自滅」……実際、企業破綻が相次ぎました。次に潰れるのはどこか? そこに関心が集中しました。

 2008年のリーマンショックでどん底に落ちる瞬間に「ゼネコン不動産 同時多発破綻!」を特集してからも、「崖っ縁決算」「消滅列島」「落城」「時限爆弾」と危機を伝えるタイトルが続きました。

 10年に建設投資額が半減した後、下り坂のジェットコースターは上り坂に転じました。11年の東日本大震災で復興特需が発生し、12年に与党へ復権した自由民主党が「国土強靭化」の大号令で公共事業を増やし、東京五輪・パラリンピックの20年開催が決まり、都心の再開発も加速し……上り坂をぐんぐん、ぐんぐん。特集タイトルは「復興バブル」「開発バブル」「気がつけば最高益の罠」「絶好調の先にある深淵」と様変わりしています。

 今は絶頂期にあります。

 にもかかわらず、身売りが多発しています。

 本特集「ゼネコン・不動産 動乱! 全国2000社ランキング」では異変の真相、絶好調の深層に迫りました。そこから見えてくるのは、今はM&A、廃業など大きな決断をするタイミングであるという一点です。

(敬称略)