将来に備えて、自助努力と計画的な資産作りを訴えた金融庁の報告書は闇に葬られた。だが、公的年金は先細りが必至で、全面的に頼れないのは紛れもない事実。将来のために積み立てる余裕がある人は、少額でもよいから早めに、税の優遇制度を活用した「じぶん年金」作りに着手しよう。『週刊ダイヤモンド』6月29日号の第1特集「投信&株で作るじぶん年金」では、投資初心者向けの解説から、実際に投資する際に役立つ情報を掲載。積立投資の対象として考えられるほぼ全部の金融商品のなかから、厳選した商品をランキング方式で紹介する。

6月以降、資産運用セミナーは大盛況

 金融庁が6月に出した報告書では、標準的な高齢夫婦世帯の家計は、毎月5万円の赤字になり、95歳まで生きるなら、2000万円の金融資産が必要になると試算した。

 これが大問題に発展したわけだが、元データは総務省の「家計調査」であり、家のリフォーム費用や、民間の老人ホームなどの介護費用を含まない“かつかつ老後”の家計収支である。民間の調査によれば、ゆとりある老後に必要な生活費の平均は34万9000円。95歳までの30年間で、5000万円の金融資産が必要になる計算だ。

 もちろん、老後に必要な資産は、個々人の収入・支出の状況やライフスタイルによって異なる。65歳以上も働き続ける人、生活費の安い郊外・地方に移住する人、親から相続財産が見込める人は、2000万円なくても大丈夫かもしれない。

 一方で、自分や親の健康に不安を抱えている人は、2000万円では不安だろう。誰もがいつまでも元気で働き続けられるわけではない。95歳まで生きるとして、2000万円の金融資産で十分と考えている人は少数派ではないだろうか。

 それが証拠に、6月以降、資産運用セミナーが大盛況だ。パソコンやスマホによる資産運用が好評で、3年で1500億円の預かり資産を集めたウェルスナビでは、「6月以降、30~50代を中心にサイト登録が2倍になりました。60代以降はスポット入金も増えています」という。背景にあるのは、老後に待ち受ける厳しい生活への懸念である。

「長期・積立・分散」投資の威力

 葬られた金融庁の報告書は、「長期・積立・分散」による資産運用を推奨していたが、これまた、まともな提案だった。積み立てるお金のない人への支援は別に国が行うこととして、余裕のある人に計画的な資産作りを薦めたり、仕組みづくりを行ったりすること自体、何ら悪いことではない。

 左のグラフは、25年間、「長期・積立・分散」による資産運用を行った場合のシミュレーションである(資産配分は、米国株30.6%、日欧株21.5%、新興国株5.0%、米国債券29.1%、金8.8%、不動産5.0%)。1992年1月に元本100万円でスタートして、翌月から毎月3万円ずつ積立投資をした場合の運用結果である。

 結果は見てのとおり、累積元本1000万円に対して、資産評価額は2457万円になった。年率6%のリターンである。過去25年のいくつかの金融危機で資産は一時的には減少するが、最終的に元本の2.4倍に増えている。毎月一定額を投資に当てていくため、相場のクラッシュ局面では、多めに買うことになり、平均の購入単価が抑えられる。これが、長期積立投資の威力だ。

初の0.1%割れ! ”お買い得投信“をつみたてNISAで買う

 だが、日本の個人金融資産1800兆円の半分は、金利がほとんどつかない預貯金のままである。「長期・積立・分散」投資に便利な投資信託の残高は115兆円(2019年4月末)で、まだ個人金融資産のまだ6%強でしかない。

 しかし最近になって、税優遇のある資産運用の制度は整ってきた。「つみたてNISA」や「iDeCo(イデコ)」を使えば、外国の株式や債券も対象にした投信を低コスト購入できるだけでなく、運用益や掛け金に対しても、税の優遇が受けられるのだ。

 年間40万円までの積立投資について運用益が非課税になる「つみたてNISA」は、2019年5月末で投資対象の投信が160本に達した。今号では、160本の投信を投資タイプ別に分類してランキングを作成。各タイプの上位の投信を中心に、購入商品を検討してみてはいかだろうか。

 注目商品は、三菱UFJ国債投信の「eMAXIS Slimシリーズ」と、ニッセイアセットマネジメントの「購入・換金手数料なしシリーズ」。インデックス型投信の信託報酬で激安手数料争いを繰り広げてきた2社が、この6月末に、海外株式(先進国)でともに0.1%を切った投信を投入する。

 「つみたてNISA」で購入すれば、購入手数用はタダ。高成長を享受できる海外を投資対象としたインデックス型投信が、驚きの低コストで購入できる時代になった。

iDeCoは口座管理手数料がかからない金融機関がおすすめ

 掛け金が全額所得控除となる個人型の確定拠出年金「iDeCo」の加入者は19年4月で123万人に達した。20歳以上で60歳未満であれば、ほぼ全国民が加入できるので、10年の加入期間が必要として、対象の人口(20~40歳代)は約4500万人になる。

 まだまだ加入率は低いと言えるだろう。専業主婦など所得がない人を除けば、所得控除の分だけでも恩恵があるだけに、できるだけ早く加入したい(年収400万円であれば、掛け金に対して15%の節税率になる)。

 さらに残念なのは、「iDeCo」の運用先の60%が預貯金など元本確保型の商品であること。「つみたてNISA」と「iDeCo」をフル活用して、毎月5万6000円を20年積立投資した場合、年率3%で回せば1834万円になる。金利がつかない元本は1344万円で、その差は490万円になる。

 「iDeCo」は多くの金融機関が取り扱っているが、扱う商品内容は金融機関ごとに異なる。口座管理手数料がかからない金融機関を選び、そこが扱う投信のなかで低コストのものに投資することが大切である。今号では、口座管理手数料がかからない8つの金融機関を対象に、コストと運用効率でベストの商品を紹介している。

年金代わりに使える高配当株やJリート

 「iDeCo(イデコ)」や「つみたてNISA」の枠を使い切ったり、年間120万円枠の「NISA」を使ったりする際には、投信だけではなく、より低コストのETFや個別株等も対象になる。なかでも、業績のよい高配当株や、Jリートは下値不安が少なく、公的年金にかわる、じぶん年金作りの有力な武器となる。

 50代以降で、ある程度の資産が出来たり、退職金の運用を考えていたりする場合でも、高配当株やJリートは有力な投資先だ。安定配当は、老後の蓄えを使い切る不安を和らげる効果がある。ただ、単純に利回りが高い高配当株やJリートを選んではいけない。いくつかの厳しい条件を課して、「強い」高配当株・Jリートのランキングも作成した。

 さらに資金的に余裕があるなら、米国株投資も対象にしたい。後述するが、米国株と日本株の投資収益には歴然とした差がある。「iDeCo(イデコ)」や「つみたてNISA」でも対象の投信はあるが、専用の口座を開けば、さらに魅力的なETFや個別株を選択することが出来る。最近では、ネット証券でも簡単に外国株が買えるようになった。

 長期投資において、金融機関に払う販売手数料や信託報酬などのコストは無視できない。特に、退職金等のまとまった資金の運用を、浅い知識で相談するのは、金融機関にすればカモがねぎを背負ってくるようなもの。高い手数料の金融商品を買わされるのがおちだ。今号でまとめた「金融機関にだまされないための投信選びの7か条」を是非、一読願いたい。

 「長期・積立・分散」による資産運用は、少額でもよいから、早く始めるほど有利である。時間を味方にして、税制優遇やコストにも注意を払えば、その果実はもっと大きなものになる。