『週刊ダイヤモンド』3月23日号の第一特集は「5G開戦」です。次世代の通信インフラの基盤となる第5世代通信規格「5G」がいよいよデビューします。通信規格の世代交代は生活を変え、新たな時代の主役を生み出してきました。4Gで躍進したのはスマートフォン、そしてiPhoneを世に送り出した米アップルです。そして今、5G時代の新たな主役の座を狙うべく、国や企業が激しく火花を散らしています。

公衆電話からスマートフォンに
生活を変えてきた通信の世代交代

「アップルは新製品の開発で、リスクを取っているのか」

 3月1日、米アップル本社で開かれた株主総会。ある株主から、ティム・クックCEOにこんな質問が投げ掛けられた。

 1月の下方修正に端を発し、アップルの株価は急落した。「アップルショック」の直接の要因は中国経済の減速だが、iPhone以降、画期的な製品が登場しないことに株主はいら立ちを隠せなくなっている。

 クックCEOは「今は種をまき、さいころを振っている。未来の製品はあなたを感動させるだろう」と述べるにとどめ、具体的な話は避けた。この株主の質問は、先進的なアップルのイメージが崩れ始めていることを雄弁に物語る。

 そしてアップルが、今まさに到来しようとしている第5世代通信規格「5G」についての戦略を語らないことも、投資家の不安に拍車を掛けている。

 5Gがなぜ重要なのか。それは、通信規格の世代交代がこれまで生活を一変させてきたからだ。

 1980年代、外出先で電話をかけたければ、公衆電話を探す必要があった。待ち合わせに使われたのは駅の伝言板。自動車電話付きの社用車は役員のステータスで、移動しながらの通話は富裕層の特権だったのだ。

 93年から始まった「2G」で無線通信がデジタル化された。メールやインターネットが可能になり、携帯電話がコミュニケーションの必需品へと昇格する。

 NTTドコモの「iモード」は大ヒット。2000年2月にはドコモの時価総額が過去最高の42兆円に達した。この記録を破る日本企業はいまだ現れていない。

 01年からは通信速度が向上した「3G」の時代に突入。カメラや音楽プレーヤーといった、他の家電製品の機能を、携帯電話がのみ込み始めた。「写メール」「着うた」といったサービスはカメラやCD産業に大打撃を与えた。

 また、3Gは初めての国際標準規格だ。いつの間にか海外でも自分の携帯電話が使えるようになったのは、3Gのおかげだ。

 3G時代後半の07年、携帯電話の歴史を塗り替える端末が産声を上げる。iPhoneの登場だ。

 スマートフォンという概念を世に広めたこの端末は、10年から始まった「4G」の波に乗って世界中で大ヒット。アップルを世界一の企業の座へと押し上げた。

 スマホの真骨頂は、アプリをダウンロードすればいくらでも機能を追加できる点だ。ここに目を付けた開発者たちは、SNSやライドシェアなど、画期的なサービスを次々と生み出した。

 スマホ一つで買い物から道案内まで、さまざまなアプリをどこでも手軽に使うことができるのも、4Gの通信インフラが陰で支えているからだ。

日本は4月に周波数割り当て
9月からプレサービス開始

 5Gになると、「高速・大容量」「低遅延」「同時多接続」の3大要素が4Gから進化する。

 大容量化は分かりやすい。データ通信が速くなるとともに、ビット当たりの通信コストも低減されるので、“ギガが減る”ことに悩まされずに、もっと手軽に動画を楽しめるだろう。

 ただ、産業界で本当の期待が集まるのは、残る二つの特徴だ。

 低遅延の代表は自動運転。時速100kmで走行中の車を遠隔制御で停止させようとした場合、4Gでは通信の遅延により、ブレーキがかかるまでに少なくとも30cm近く進む。5Gならばこれが約3cm。反応速度が1桁上がることで、一気に実用化に近づく。

 同時多接続では、大量のセンサーから集まったデータをフル活用したスマート工場やスマート都市が、産業の在り方を変えるだろう。

 世界各地で5Gの商用サービスが始まる今年は、まさに「5G元年」。日本でも総務省が4月10日に5Gの周波数を通信会社に割り当て、9月にはラグビーワールドカップの競技場などでプレサービスが始まる。そして東京五輪・パラリンピックの20年、商用サービスの幕が上がる。

 5Gなど新技術の登場時には、必ず普及についての懐疑的な声が上がる。だが、思い出してほしい。

「インターネットは商用に向かない」「携帯電話にカメラが負けるわけがない」「iPhoneはマニアのもの」。こう主張した企業は時代の変化に取り残され、ことごとく敗れ去っていった。

 5Gはただの技術ではなく、通信のインフラだ。確実に浸透し、間違いなく暮らしを変える。

 今動きだせば、5G時代のアップルになれる可能性を誰もが秘めているのだ。

ファーウェイ、ノキア、エリクソン
8兆円が動く巨大インフラ市場の全貌

『週刊ダイヤモンド』3月23日号の第一特集は「5G開戦」です。

 5Gの到来を前に、世界中で激戦が繰り広げられています。中国の通信機器最大手ファーウェイ排除の包囲網を敷く米国に対し、ファーウェイは米政府を提訴して反撃を開始しました。次世代の通信の技術覇権をめぐる米中の争いは、世界を巻き込んでいきます。

 特集では、激化する米中対立についての世界各国の動向や、ファーウェイ提訴の舞台裏、日本企業が押さえておくべきポイントをまとめました。

 さらに、「製造」「自動車」「小売」「医療」「建設」「セキュリティ」「ゲーム」「動画」の8大産業がどう変わるのか。その主導権争いの最前線を追うとともに、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルの4トップを直撃し、5G時代の戦略を語ってもらいました。

 そして、8兆円規模の巨大インフラ市場を懸けて熾烈な競争を始めた、ファーウェイやノキア、エリクソンなど、世界の主要基地局ベンダーの勢力図をまとめました。

 これから生活を変える5Gの最新動向が分かる1冊。ぜひご一読ください。