『週刊ダイヤモンド』3月16日号の第1特集は、「最新ビジネス教養を語り合う エリート英語」です。外国籍の同僚や海外の取引先が増える中、そこそこの英語は使えるようになった。でも、英語で雑談となるとハードルが高い。最新ビジネ教養を語り合えるようになりたい――。そんなビジネスパーソンに本特集を捧げます。

 都内で働く40代の会社員は、中級レベルの英語力で海外取引先との仕事をこなしている。専門性の高い業界を担当し、業界でよく使われる英語の表現や用語を身に付けていくうちに、英語の資料が読めるようになり、メールのやりとりや口頭でのコミュニケーションもまあできるようになった。

 ただ、日々英語でやりとりする仕事相手から食事に誘われたりすると途端にピンチに陥る。英語で雑談が始まると、しょっちゅう話が見えなくなり、言葉を発せなくなってしまう。

 仕事から外れた話題になると、知らないフレーズ、単語ばかり。語彙の範囲が狭く偏っていることに気付かされる。

 これまでの仕事で信頼関係を築き、さらに関係を深めようと声を掛けてくれたのだろう。それなのに自分はあいまいな相づちを打つばかりだ。

 相手が興ざめしているのではないかという不安で、背中は冷や汗でびっしょり。食事を楽しむどころではない。

 「しょせん、中級英語だから」。敗北感に打ちひしがれながら、「次は通訳してくれる人を連れていこう」と心に決めた。

仕事はこなせても、雑談がままならない

 一般に中級英語とはどのくらいのことができるレベルを指しているのだろうか。

 海外でもよく使われる外国語の熟達度を表す指標にCEFR(ヨーロッパ言語共通参照枠)というものがあり、初級から上級まで6つのレベルに分けている。

 6つのレベルのうち、A1とA2は「基礎段階の言語使用者」であり初級、 B1とB2は「自立した言語使用者」であり中級、C1とC2は「熟達した言語使用者」であり上級となる。 中級のB1を日本で一般的なTOEICスコア(Listening&Reading)で換算すると550以上、英検では2級が目安。B2はTOEIC785以上、英検準1級が目安になる。

 CEFRは各レベルでできることを詳しく定義している。

 B1は「仕事、学校、娯楽などで普段出会うような身近な話題について、標準的な話し方であれば、主要な点を理解できる。その言葉が話されている地域にいるときに起こりそうな、たいていの事態に対処することができる。身近な話題や個人的に関心のある話題について、筋の通った簡単な文章を作ることができる」。

 B2は「自分の専門分野の技術的な議論も含めて、抽象的な話題でも具体的な話題でも、複雑な文章の主要な内容を理解できる。

 母語話者とはお互いに緊張しないで普通にやり取りができるくらい流暢かつ自然である。幅広い話題について、明確で詳細な文章を作ることができる」。

 つまり、冒頭の会社員のように、英語である程度のことはこなせる。でも、雑談で専門外の話題を深く語り合おうとすると、往々にしてままならない。

 ということは、「次は通訳してくれる人を連れていこう」との判断は賢明なのだろうか。

 三井物産をはじめ企業の社員研修を手掛けるグローバルブリッジのギャリー・ピアソン社長は、首を横に振って「食事のときこそ、自分で直接話すことに意味がある」と強調する。

食事のときこそ通訳は使わない

 上級幹部が他社とのデリケートな契約交渉に臨むときは、ほんのわずかな行き違いが大きな損失を生みかねない。こうした業務は通訳を通してしかるべきだ。

 交渉を終えた相手と食事を共にすることになれば、「そこから先は通訳を介さない方がいい」とピアソン社長。食事の目的は精緻な交渉ではなく、関係を深めることにあるからだ。

 「大丈夫。文の意味を変えてしまう文法ミスには気を付けなくてはいけないが、だいたいの文法は言い間違えても意味を変えたりしない」(ピアソン社長)

 重要なのはコミュニケーションであって、完璧な英語や文法ではない。

 フリーマーケットアプリ大手のメルカリは社員採用時、基本的に語学力を重視していない。外国籍の社員が増える中、社員の英語レベル、日本語レベルはばらばらだ。

 そんな同社では、初級レベルながらランチで英語を話す日本人社員たちの姿が日常風景になっている。英語を学習している社員が外国籍の社員やバイリンガルの日本人社員と一緒にランチをしながら英語で話す「チャットランチ」というシステムがあるからだ。

何が分からないか、やってみて分かる

 社内英語レッスンも自前で実施しており、その受講者たちは実際の行動で目標を設定するように促される。

 CEFRのA1レベルであれば「新入社員歓迎会で外国籍の社員3人に自己紹介をする」、A2は「新入社員歓迎会で外国籍の社員に自分がこれまでやってきた仕事やキャリアについて話し、相手に同じことを聞く」といったものだ。

 中級のB1であれば「社内会議のプレゼンを英語でやる」、B2なら「社内会議のプレゼンと質疑応答を英語でやる」など。海外で交流会に参加する機会があれば「会場で10人と話す」といったことも目標になりやすい。

 どのレベルであれ、ギリギリできそうなところまで職場で繰り返し挑戦してみる。やってみると自分に足りないものが明確になり、分かっていなかった単語やフレーズの習得へとつながる。

 言い換えれば、やってみないことには、分からない単語や表現が何なのかが分からないままになってしまう。

語彙だけでなく知識も深める

 さて、英語での雑談がままならない場合、不足しているのは英語力だけなのか。

 話題に対する知識がそもそも浅くはないだろうか。

 世界の動向を把握していなかったり、日本の状況を深く知らなかったりする、英語力以前の問題だ。これでは盛り上がるはずもない。

 『週刊ダイヤモンド』3月16日号の第1特集「最新ビジネス教養を語り合う エリート英語」では、世界のビジネスマンが関心を寄せるトピックスについて、海外の視点で捉えた米経済紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」の英語原文記事とその日本語版を、日本の状況を本誌がレポートした記事とその英訳を、それぞれ掲載した。海外視点と国内視点、英語と日本語、両面から語彙と知識を習得できる。

 これを糸口にして、積極的に雑談の機会を得て深く語り合える話題や語彙を広げる好循環が生まれれば、英語に対するスキルの壁も精神的な壁も取り払われていくだろう。

 世界のエリートたちを見渡せば、上級英語を話す者ばかりではない。彼らの強さは、英語をツールとして目的を成し遂げている点にある。