『週刊ダイヤモンド』3月9日号の第一特集は「儲かる農業2019」です。金融事業の収益悪化が予想される中、JAが生き残るには、本業の農業関連事業の利益を高める必要があります。そのような観点から、本誌は農協の存続可能性を評価した「JA存亡ランキング」を作成しました。担い手農家からの評価や財務データから「農業協同組合」としての持続的な経営が難しくなっているJAが多数あることが判明しました。

農政改革骨抜きで二極化
JA存亡ランキング

 JAグループは表向き農家の所得を増やす「自己改革」なるものに取り組んでいることになっている。だが、本誌「担い手農家アンケート」の回答(約2000の有効回答数)から、改革の“真の姿”が見えてきた。

 自民党の小泉進次郎氏が農林部会長だった2017年前後、農政の会議は立すいの余地もないほど国会議員が集まっていた。だが、その会議室はいま閑古鳥が鳴いている。

 小泉氏ら改革派が重要ポストを退いた上、選挙の季節が到来。反発が大きい農協改革は夏の参院議員選挙が終わるまで打ち出せない状態になっているのだ。選挙後も、農政改革の機運が高まることは期待できそうにない。

 18年の自民党総裁選挙で、安倍晋三首相の農協改革に反発する一部の農協幹部は対抗馬の石破茂氏を推し、集票力を地方で見せつけた。これにより政府が農政改革に及び腰になっているのだ。

 一方、JAグループは「金融依存から脱却しなければ農協経営が行き詰まる」という不都合な真実に目を背け続けている。

 JAバンクの元締めで、農協が集めたお金で運用益を上げ農協に還元してきた農林中央金庫の業績は右肩下がり。17年度の純利益は3期前の3分の1に当たる、1476億円に減少した。政府の圧力の有無にかかわらず、農協が金融依存を脱し、本業の農業関連事業を強化しなければならないのは自明の理だ。

 だが、こうした状況下で、JAグループの司令塔、JA全中が全力を挙げているのは、農協が引き続き金融を行えるようにする特例措置(総合事業)を維持するための「お手盛りアンケート調査」だ。

 この調査は、1000万人の全組合員宅を農協職員が訪問して総合事業の重要性を説き、「総合事業は継続すべき」という選択肢を選んでもらうというもの。そうやって集めた組合員の“総意”を政府にぶつけ、農協解体(信用事業の分離)を防ぐのが狙いだ。

 本誌が入手した調査のマニュアルには、政府が改革を強行すると、非農家(准組合員)が「JAの事業を利用できなくなる恐れがある」という誤解を招く表現がある。実際は、制度が変わっても非農家は直売所や住宅ローンを利用できる可能性が高い(金融サービスは農協から分離した別組織が提供可能)。

 単位農協が生きる道は、全中など上部団体の方針の中にはなさそうだ。

全国の農協をランキング
ベスト20に輝いたのは?

 本誌は、「JA存亡ランキング」の中で、最上位の農協を決めるべく、全国に約640ある単位農協を、農家からの支持と財務の健全性から多角的に評価した「総合ランキング」を作成した(ランキング作成方法の詳細は下図中の「JAランキング作成方法と見方」参照)。

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 首位に輝いた新潟県・JA魚沼みなみ(3月1日に合併してJAみなみ魚沼)は、言わずと知れた「南魚沼産コシヒカリ」の産地だ。

 JA魚沼みなみの非凡さは、農業振興の工程表に表れている。1枚紙に細かな文字で、年次別の目標とそれを実現するための対策が、簡潔に、そしてびっしりと記されているのだ。農協の監督官庁である農水省の資料でも、これほど緻密で分かりやすい目標管理は見たことがない。

 JA魚沼みなみが最上位に掲げる目標は農産物の販売額を4年で18%増やすというものだが、本誌が注目したのはむしろ2番目の「コメの独自販売比率を92%から95%に高める」目標だ。つまり、コメをJA全農に売ってもらうのではなく、独自に直接販売して農家手取りを増やそうというわけだ。

 コメの独自販売は他の農協もチャレンジしているが、一定量で全農による「ガラスの天井」にぶち当たり、それ以上は増やせないことが多い。JA魚沼みなみは組織の圧力をはねのけて、すでに同比率96%を実現。目標を前倒しで達成しているという。

 3位の茨城県・JA北つくばは、集荷するコメの99%を買い取ることで、ランキング1位、2位のコメどころの農協に勝るとも劣らない販売力の評価(16.0)を得た(農協は一般的に販売リスクを負わない委託販売が主体)。

 JA北つくばの特筆すべき点は、同種の農家支援を全農と民間企業が提供していた場合、同じJAグループだからということで漫然と全農を選ぶのではなく、農家のメリットがより大きい方を選ぶことに徹していることだ。

 例えば、ドローンを使ったコメの生産、販売では、全農と住友商事のソリューションを比べた結果、コメの販売での取引実績などから後者をパートナーに選んだ。

 ランキング上位の農協はドローンやAI(人工知能)の活用に積極的で、5位の秋田県・JA秋田ふるさとや18位の山形県・JA庄内みどりもドローンを含むスマート農業を推進している。

 農協のITリテラシーは今後、農産物の競争力に直結する。農家にソリューションを提供できる農協とそうでない農協の格差は開く一方だろう。

中小規模農家こそ
チャンスあり

『週刊ダイヤモンド』3月9日号の第一特集は「儲かる農業2019」です。

 本誌は今特集で、担い手農家からの支持率と財務データからJAを評価した「総合ランキング」の他、「担い手から支持されるJA役職員ランキング」、都道府県の農協中央会の会長の知名度と支持率ランキング」を発表し、農協をヒト、モノ、カネから多角的に分析しました。

 また、本誌は例年、モデルとなる大規模農家を紹介してきましたが、今年は趣向を変え、小粒でもキラリと光る中小規模の農家にスポットライトを当てました。中小規模農家ならではの柔軟性で、時代に合った「儲かる農業」を実現するための“秘訣”をお届けします。

 本誌「担い手農家アンケート」の結果から、100ヘクタールを超える大規模経営でなくとも、高収益を誇る中小規模の農家が意外なほど多いことが分かりました。

 この高収益の中小農家こそ、農業業界の覇権を握ろうとする「プラットフォーマー」たちが熱い視線を送るターゲットです。

 高収益の中小農家は農作物に競争力があるだけに、出荷先を選べる立場にあります。それだけに、手間がかからないJA出荷か、独自販売の開拓かを迷っている場合が多いのです。

 プラットフォーマーを目指す大企業や農業ベンチャーは、そうした悩みを抱える実力農家を囲い込みたいと思っています。生産から販売までの一気通貫のソリューションを提供できれば、覇権獲得がぐっと近づくからです。

 本誌では、定番の「レジェンド(大規模)農家」ランキングに加えて、中小でも高収益を上げる「中小キラリ農家」ランキングを作成しました。

 中小キラリ農家には、大企業と契約栽培をすることが多い大規模農家では得難い「独立性と自由」があります。

 その象徴が、山口県でイチゴを作る、しげきよ農園(中小キラリ農家3位)の重清信夫さんです。0.5ヘクタールの農地で1500万円を売り上げ、利益率は40%を誇ります。

 大手コンビニのスーパーバイザーだった重清さんの信条はマーケットインの発想を徹底することです。近隣スーパーのパートやバイヤー、主婦らへの聞き取りを重ね、地元のボリューム層に売れるイチゴパックの売価を398円に設定。それをベンチマークに、一定面積に植える苗の数を増やすなどしてイチゴの高収量化に努めました。単位面積当たりの収量を、県平均の2.5倍まで増大。低コストの高収益モデルをつくり上げたのです。

 実は2003年の就農当初は、販売の大半をJAに依存していました。JA側からは全量を出荷するように求められましたが、重清さんはこれを拒否。農協に出荷する農家でつくるイチゴ生産組合を除名になります。そこから独自の販路拡大と収量アップに取り組み、わずか3年で所得倍増に成功したといいます。

 今特集では、テクノロジーを活用したり、商品の独自性を追求したりして、利益率を高めた中小キラリ農家20人から、一般の農家の参考になる「儲かる秘訣」を抽出し、まとめました。

(『週刊ダイヤモンド』編集部 千本木啓文)