『週刊ダイヤモンド』2月9日号の第一特集は「文系でも怖くない ビジネス数学」です。三角関数に指数・対数、二次方程式。中学校・高校の数学で登場したややこしい数式や記号を見ると、今もむしずが走る文系ビジネスマンも少なくないでしょう。しかし、現代のビジネスにおいては、数学の素養があらゆる分野で必要とされるようになっています。特に先端のビジネスでは大活躍しています。数学は必須教養と言えるのです。

6500万人に「あなたの記事」を表示
ヤフーのAIを支える数式

 AIをはじめとする最先端のサービスを生むためには、数学は必須だ。インターネット大手ヤフーでも、若手エンジニアが編み出した数式がサービスの土台を支えている。

 月間ページビューが700億を超え、国内ニュース配信ポータルの〝王者〟として君臨するヤフー。スマートフォンからの閲覧者が6481万人(ブラウザーベース、日間)という、膨大なユーザーの心をつかむために数学が大活躍している。

 スマホでヤフーを見ると、まず登場するのがおなじみの「トピックス」だが、画面をさらに下へとスクロールしていくと、興味を引きそうな多彩な記事が並ぶ。

 ここに表示される記事はユーザーごとに違う。過去の閲覧行動を基に、AIがオススメ記事を選んでいるからだ。ただ、これだけだと問題が生じる場合がある。

 例えば、プロ野球の巨人ファンが、巨人のニュースをよく読むとしよう。するとAIは好みを学習し、巨人のニュースを優先的に表示するようになる。ただ、場合によっては、X新聞の巨人の試合結果、Y新聞の巨人の試合結果と、配信元が違うだけで同じ内容の記事ばかりが並んでしまうのだ。

 それよりも、試合結果に加えて選手のインタビューやライバルの試合結果など、バラエティーに富んだ記事を表示してくれた方が、ユーザーにとってはありがたい。

 ここで登場するのが、AIに記事の〝意味〟を理解させ、内容が重複している記事を取り除く機能である。このためにヤフーが活用しているのが、「トリプレットロス関数」という数式だ。

 AIに文章の意味を理解させるためには、一般的にはベクトル表現やその内積を使う。この数式はその手法に一工夫して、記事本文に加えてカテゴリー情報も活用することで、AIの記事理解の精度を高めているのだという。
2015年末にこうした機能などを導入したところ、ユーザーの滞在時間が6・9%増加。スマホでヤフーを見るたびに、この数式が裏側で働き、あなたのための記事を表示しているのだ。

 ヤフーの屋台骨を支えるこの数式を編み出したのは、若手データエンジニアの大倉俊平さん。数学科出身で12年入社の大倉さんのプログラミング能力が本格的に伸びたのは入社後だというが、わずか3年で大仕事を成し遂げ、〝エース級〟の人材へと成長した。

「尖ったものを作ろうとしたときに、プログラミングと数学理論の両方を理解できることは、大きな強みになる。プログラマーが数学を学ぶよりも、数学者がプログラムを覚えた方が早い」(田島玲・ヤフージャパン研究所所長)

 重複記事の排除のほかにも、ヤフーは数学を活用して新たな機能を追加している。その一つが18年2月に始めた「異常混雑予報」というサービスだ。乗り換え案内の検索データを基に混雑の〝予兆〟をキャッチするのだが、これを可能にするのも「時系列解析」という数学を活用した手法だ。

「データを価値につなげる道具として、数学は必須」と語る田島所長の言葉通り、ビジネスの最前線の現場では、数学なしでイノベーションは生まれないのだ。

もう「苦手」「怖い」と言っていられない
数学の学び直しで新たな武器を手に入れよう

『週刊ダイヤモンド』2月9日号の第一特集は「文系でも怖くない ビジネス数学」です。

 数学は、かねて私たちの暮らしを支えくれています。ただし、縁の下の力持ちとして、陰から支えるような存在でした。

 現代のビジネスにおいては、その存在感がひときわ高まってきています。さまざまなビジネスの現場で、データ利用やAI活用の動きがますます加速し、数学の素養が必要不可欠となってきました。数学はビジネスマンの強い味方であると同時に、必須教養だと言えるのです。

 特集ではまず、作家・元外務省主任分析官の佐藤優さんと数学者の芳沢光雄さんが対談し、数学教育のお寒い現状や数学学び直しのポイントを指摘します。

 学び直しで大事なのは、知識の欠損、空白箇所をうまく補っていくことです。「指数・対数」「数列」「一次関数」「二次方程式」「因数分解」「三角関数」「微分・積分」――。これらは実際にどこでどう役立っているのでしょう。例えば、苦手単元の筆頭格の三角関数は、電気や音、電波や光などの波を操り、身の回り製品を動かす土台です。スマホもこれなしには動きません。理解のポイントとあわせ、分かりやすく徹底解説しました。

 仕事の現場では、さまざま先読みが求められます。データに基づく予測はビジネス数学の要といえるでしょう。「最適な生産量を割り出す」「みなが納得できる販売目標を設定する」「仮説が正しいかを判断する」といったよくある課題別に、エクセルを活用した予測の基本技法を図解しました。

 ビジネスの最先端で、数学がどう活用されているか。注目すべき動きも紹介しています。ヤフーでは若手エンジニアが編み出した数式がAIサービスの土台を支え、トヨタは次世代EVのビジネスモデルのヒントを数学から得ようとしています。

 文系ビジネスマンも、もう怖がってはいられません。きちんと数学を学び直し、使い方を習得すれば大きな武器が手に入ります。ぜひご一読ください。