「今月だけのキャンペーンです。今だけですよ」。2018年12月、年末商戦で買い物客がごった返す都内の家電量販店を訪れると、携帯電話売り場の店員がおもむろに「実質0円スマートフォン」を売り込んできた。
いわゆる「0円端末」は、総務省のガイドラインで事実上禁止されている。このため店内ポスターで見掛けることはだいぶ少なくなったが、店員はラミネート加工された販促ツールを取り出して0円になる「おすすめ機種」の説明を始めた。
さすがに堂々とはアピールできず、そっと告知ということか。販売現場では、0円をうたうキャンペーンが今なお続いている。
0円になる仕組みは、全店共通の割引と販売店による独自値引きを組み合わせたものが多い。
例えば、NTTドコモとKDDIの店舗では「端末購入サポート」という正式な割引施策に加え、販売店が0円まで値引きしていた。別のドコモ店舗では、2年間の分割払い分の一部を月々の通信料金から割り引いた上で、足りない分を販売店が負担するという。ソフトバンクの店舗では、キャッシュバックや商品券を組み合わせて実質0円にしていた。
総務省のガイドラインでは、スマホの販売価格は「2年前の同機種の下取り値以上」とされている。だから表向きの価格はその範囲に収め、残りの値引きを販売店が独自に実施する仕組みだ。
販売店の独自値引きといっても、その原資は大手携帯会社(キャリア)が負担している。販売奨励金が値引き原資の代表例(下図参照)で、動画や音楽、ニュース配信などオプショナルサービスへの加入に応じて販売店に支払われる奨励金が多い。店員から「最初の1カ月は無料なので後から解約してほしい」とオプション加入を頼まれるのはこのためだ。
ユーザーにすれば「0円スマホ」は一見お得に思える。が、その分の多くは通信料金に上乗せされている。2年ごとにスマホを乗り換える顧客の端末代金を、長く端末を使い続けるユーザーが割高な通信料金を払って賄っているとも解釈できる。何よりも、こうした料金システムでは、通信料金と端末代金の構造が複雑化して分かりにくくなる。
ただ、規制をすり抜けて生き永 らえる0円スマホは、過渡期の産物。今後はいよいよ見つけにくくなるだろう。携帯料金で、端末販売と通信契約を切り離す「分離プラン」が導入され始めているからだ(下図参照)。
0円端末が消え通信料と端末代の分離が進む
なぜ、0円端末が消えて分離プランにシフトするのか。
総務省は通信料金抑制と料金システムの不公平感解消を狙って0円端末を厳しく規制してきたが、規制後も通信料金が高止まりしたままでは、端末代金だけが高くなり、トータルの料金が上昇してしまう。負担が重くなるユーザーからは端末値引きのニーズが依然として強いままで、販売現場は、規制をすり抜けながら実質0円など割引を続けざるを得なくなった。
そこで総務省が推進するのが分離プランの導入だ。通信料金と端末代金を切り離して料金体系を透明化するのが狙い。
これによって端末代金の値引き分を通信料金に上乗せすることができなくなり、いよいよ0円端末は姿を消していくことになる。
分離プランは、KDDIが17年7月に「ピタットプラン」「フラットプラン」を、ソフトバンクが18年9月に「ウルトラギガモンスタープラス」「ミニモンスター」をそれぞれ導入している。ドコモも19年4月以降に導入するとみられる。
今後は、通信料金に含まれていた端末コストが、通信料金の値下げにどこまで還元されるかが最大の注目点だ。
分離プランで端末値引より通信料の勝負へ
一足先に「分離志向」を身に付けるため、各社の通信料金だけを比較してみよう。
それぞれの料金プランの特徴を理解するには、携帯大手が提供する「松」、そのサブブランドが提供する「竹」、格安SIMと呼ばれる「梅」の3段階のグループに分類すると分かりやすい。
松グループでは、分離プランを導入していないドコモの通信料金の高さが目立つ。端末代金がここに含まれているとみられるからだ。対して、いち早く分離プランを導入したKDDIの通信料金は安い。
ソフトバンクは50㌐バイト(GB)という大容量で安さを打ち出しているが、1〜5GBの低容量プランはドコモと比べても安いとはいえず、一見通信料金競争を放棄しているかのようである。
だが、竹グループを含めて比較すればその理由が分かる。松よりも、竹のワイモバイルとUQモバイルは一目瞭然で安い。
実は、ソフトバンクのサブブランドであるワイモバイルはソフトバンクの回線と全く同じで、品質面では「隠れ松」。大容量ユーザーはソフトバンクに引き留めながら、低価格志向の強いユーザーは同じ回線品質のワイモバイルを受け皿にするという「マルチブランド」戦略なのだ。
梅グループは、さらに通信料金が安い格安SIMの上位11社だ。
音声通話の基本料金はかけ放題を選択しなければ無料。加えて、大手3社の音声通話は30秒ごとに20円掛かるが、格安SIMなら専用アプリを使えば30秒10円と半額になることがほとんど。データ通信は月額1000円から選べるため、大手3社との価格差は歴然だ。
調査会社のMM総研によると、スマホ利用者の75・2%はデータ通信利用量が月5GB以下。これを前提に「5GB+10分かけ放題プラン」で梅グループの料金を見ると、月額料金は2760〜3130円。ドコモで同じデータ容量を使う場合に比べ、4000円前後の圧縮が可能で、4人家族なら年間20万円近く節約できる計算だ。
一般に竹と梅のグループを総称して「格安スマホ」と呼ぶ。ワイモバイルを除く各社が、大手携帯会社から回線を借りるMVNO(仮想移動体通信事業者)だ。
MM総研による18年9月の利用者調査では、大手3社の月額利用料金の平均は5680円(端末代金を除く)。サブブランド2社は2963円、MVNO各社は2040円。大手キャリアと格安スマホで、これほどの料金差がある。
安さ追求なら格安スマホ通信速度に格差
では、格安スマホへの乗り換えを検討するなら、どんな候補があるのか。MMD研究所の利用者調査によると、格安スマホ上位10社が90%のシェアをカバーする。
KDDIは、UQモバイル、ビッグローブモバイル、JCOMモバイルの三つのMVNOを傘下に持つ。ソフトバンクには、ワイモバイルというサブブランドと子会社のLINEモバイルがある。これら大手携帯グループ勢は、格安スマホ市場でも高いシェアを握る。
NTTコミュニケーションズが運営するOCNモバイルONEや、関西電力傘下のケイ・オプティコムが運営するマイネオなど携帯大手以外のグループも人気がある。インフラ企業が運営会社であるため、信頼度が高い。
もっとも、安さが武器のMVNOには注意も必要だ。MMD研究所が、動画投稿サイト「YouTube」の受信速度を調べたところ、ワイモバイルとUQモバイルの2社が群を抜き、MVNO各社はかなり遅かった。MVNOで安さを享受するなら、通信速度は大手3社に比べて遅くなる可能性を覚悟しておく必要があるだろう。
なお、すでにスマホは「SIMロック解除」が義務付けられている。携帯大手の「2年縛り」に掛かる9500円の解約金はネックだが、iPhone6S以降の機種で、購入から100日経過していれば、端末はそのままで、各社の通信料金プランを自由に選択できる。
契約先、プラン選びの結論は、安さをひたすら追求するならば、今すぐに格安スマホに乗り換えることだ。このとき、料金とともに通信速度の差も考慮する。大手キャリアの回線品質にこだわるのであれば、「隠れ松」のワイモバイルを有力候補にしつつ、今春から始まる分離プラン競争を待って判断することだ。
あの料金の裏側を徹底解明!家計「大」改革マニュアル
『週刊ダイヤモンド』1月19日号の第1特集は、「経済記者がガチで教える 家計リストラの新常識」です。
昭和時代、人々は「所有」することに価値を見いだし、家計をやりくりして〝夢〟のマイホームやマイカーを手に入れました。平成が終わる今、時代も価値観も変わり、消費スタイルは「所有」から「利用」への転換が始まっています。
また、インフラ産業や公共システムの構造や環境が変わり、家計の支出に影響を与えています。
2人以上世帯(勤労者世帯)の家計を見ると、2000年に比べて17年の月間支出額は全体で減少している。にもかかわらず、通信費、電気代、上下水道料、健康保険料などは2ケタ増となっています。
これらはリストラできるのでしょうか。
通信費や電気代はその大本命。携帯電話事業、電力小売り事業共に大きな転換期にあり、大手と新規参入勢が顧客争奪、価格競争を繰り広げているからです。
水道料や健康保険料は、リストラどころか今後も値上げ必至。利用者が提供者を自由に選べないので回避するすべはありません。ここへの負担に備えるためにも、他をリストラしておく必要があります。
本特集では記者が自らの価値観や生活もあらわに家計と向き合い、料金の裏側に迫りました。