企業はこう動く!
週刊ダイヤモンド 記者6人座談会
2019年押さえるべき5大テーマ
浅島亮子デスク(製造業担当) 今日みんなに集まってもらったのは、2019年の企業の動きについて先取りして教えてほしかったからです。今回、「総予測」特集の取材を進めながら、どんなことが19年のトピックになると思った?
①ハイテク覇権で米中に出遅れ
国内製造業の苦境
新井美江子記者(自動車・電機担当) 米中経済戦争が日本企業に与えるインパクトは甚大です。米中の争いは、通商戦争の範疇を超えて、将来の飯の種を競うハイテク覇権争いになっています。
浅島D 確かにそうだね。日本政府は、中央省庁などで使用する製品・サービスから中国の華為技術(ファーウェイ)製品を排除する方針。日本の電子部品・通信企業はファーウェイら中国企業との取引が大きく、国内企業にとって米中戦争は対岸の火事ではない。
世界の時価総額ランキングの上位陣は米中の企業ばかり。アリババ・グループ・ホールディングやテンセント・ホールディングスなどの中国IT企業の成長は著しい。それに比べて、日本はトップのトヨタ自動車ですら35位。なかなか、日本企業の立ち位置は厳しい。
新井記者 18年10月に、日本の時価総額1位のトヨタと、2位のソフトバンクグループが次世代モビリティー分野で電撃提携したことは大きな話題になりましたね。
豊田章男・トヨタ社長と孫正義・ソフトバンク会長兼社長が会見会場で並ぶ姿は、なかなか壮観なツーショットだなと心が躍りながらも、同時に違和感も覚えました。愚直にものづくりをやってきたトヨタと、今やテック財閥と化したソフトバンクとでは、企業文化が異質過ぎますから……。
浅島D なるほど。この提携について、ライバルの自動車メーカー社員は、「トヨタがソフトバンクの軍門に下るなんて、自動車産業の敗北だ」って言っていたよ。
それが意味するのは、電動化技術やコネクテッド技術など自動車メーカーの開発領域が一気に広がり、自動車メーカー単独ではM&A(企業の合併・買収)の投資競争でソフトバンクの後手に回っていたということ。さしものトヨタですら、孫社長の目利き力やネットワークを頼ったことにショックを受けたんだろうね。
新井記者 化学や鉄鋼など素材メーカーの取材を熱心にしてきたのですが、最近、素材メーカーの自動車依存が気になっています。軽量化に効く炭素繊維がトヨタの高級車を中心に採用が増えていますが、繊維の3〜4割、アルミの3割など最終製品を自動車に依存している素材は多いのです。自動車メーカーが「100年に1度の危機」と言っていますが、自動車に依存する素材メーカーは一体どうなってしまうのでしょう。
浅島D その通りだね。日本の産業が製造業に依存するいびつな構造になっていて、さらに国内製造業の事業領域が自動車に一極集中している。日本の時価総額ランキングでも、製造業依存の状況がくっきりと表れている。
国内メーカーが重い人件費を背負う製造部門を抱えながら、米中のハイテク企業と先端分野で開発競争を続けなければならず、苦戦を強いられている。
②イノベーション創出が鍵
我慢の将来投資
土本匡孝記者(製薬担当) 確かに、米中経済戦争の悪影響など国内企業の先行きを懸念している経営者が多いことは事実です。
けれど、耐え忍びながらも、M&Aの実施など将来投資を進めることで好機に備える日本企業も少なくないのではないでしょうか。
浅島D なるほど。どんな事例からそう思ったの?
土本記者 19年の年明けにも、武田薬品工業によるアイルランドのバイオ医薬大手、シャイアーの買収が完了する予定です。6・8兆円を投じたこの買収によって、武田は世界10指に入るメガファーマ(巨大製薬会社)となります。
医療財政の逼迫から、薬価(医療用医薬品の公定価格)抑制への圧力が強い日本と欧州。グローバルな国内製薬会社が成長戦略を描くためには、世界最大の米国市場に打って出るしかない。武田が米国販路に強いシャイアーを買収したのはそのためです。
もっとも、販路や開発ノウハウに加えて、革新的な新薬を市場に投入し続けられる「イノベーション創出」が武田に求められていることは言うまでもありません。
③消費増税ショックは回避
デフレ心理は心配
浅島D いよいよ19年10月に消費税率が8%から10%へ引き上げられる。かつての増税時に、省エネ家電の購入を促す「家電エコポイント制度」を実施したけど結果は需要を先食いしただけで、むしろ電機メーカーの体力を弱体化させたとの批判が多かった。でも今回も、政府は住宅ローン減税、自動車減税、プレミアム付き商品券の発行など、またバラマキ政策を実施することになりそうだね。
価格変動にシビアな業界への影響はどうなるとみている?
山本輝記者(食品・外食、テック担当) 消費増税と同時に、外食・酒類を除く飲食料品には10%から8%への軽減税率が実施されます。しかも、消費税率の上げ幅が少ないことから、〝消費増税ショック〟はそこまで大きくないのではないかとみています。小売店に併設されている「イートイン(外食扱い)」と「テークアウト(小売り扱い)」との線引きが難しく確認の手間がかかるという苦情は業界から出てはいますが……。
むしろ、小売り・外食チェーン各社は、直接的な引き上げの影響よりも間接的な影響を心配しています。実体経済がどうであれ、消費増税で将来を不安視する心理、〝デフレマインド〟が強まると消費者の財布のひもは固くなり、結果的に、食品支出を減らすことになりかねないからです。
浅島D デフレマインドの方が消費意欲の減退につながる本質的な問題だね。
山本記者 もう一つ注目ポイントがあるんです。消費増税がプライベートブランド(PB)の普及をさらに後押しするきっかけになると読んでいます。
浅島D それはどういう意味?
山本記者 18年にキリンビールは新ジャンル商品で、イオン、ファミリーマート、ローソンのPBを一斉に受託することを決めました。キリンには、ナショナルブランドの陳列棚を確保するための小売りとの関係強化、工場の稼働率アップという思惑がある。消費増税は消費者の低価格志向を促すので、コモディティ商品ではPBがより好まれる環境が広がります。その結果、食品メーカーでは「小売りの下請け化」が加速しそうです。
④トヨタも参入 定額サービス
稼ぐモデルへ大転換
浅島D トヨタも参入した「サブスクリプション(定額制)モデル」が話題になっているね。月額料金を支払うことで、トヨタ車が乗り放題。普段は庶民には手が届かないレクサスだって乗れるというから試してみたい!
片田江康男記者(グローバル担当) もともと、サブスクリプションという言葉は雑誌などの定期購読を意味するものでした。昨今、シェアリングの潮流もあり、消費者の志向が所有から利用へ急速に変化しています。事業者側から見るとモノが売れない時代に、定額サービスで多くの企業が収益化を図ろうとしています。
浅島D 米国では収益化の成功事例が続出しているみたいだね。
片田江記者 マイクロソフトが、アマゾン・ドット・コムやアップルなどの新興勢力を抑えて時価総額で世界首位に立ったのも、サブスクモデルの成功によるところが大きいです。
しかし、中途半端な新モデルへの転換は、既存の販売ルートを弱体化させ、サブスクモデルでも結果を残せず、ビジネスモデルの崩壊を招く恐れがあります。
これまでトヨタ本体と一蓮托生の関係にあったトヨタの販売店が抵抗姿勢を強めているのもそのためです。
堀内亮記者(エネルギー担当) サブスクモデルを導入できない業界はないといわれています。それなのに、僕の担当しているエネルギー業界は心配だな……。
19年4月に出光興産と昭和シェル石油が経営統合すると、石油元売り業界の再編は一服。市況好転と安売り競争の終焉で、わが世の春を謳歌しています。
しかし、自動車メーカーがサブスクモデルへ移行し、電動化を一気に進めようとしているというのに、元売り業界はまだまだガソリン販売でやっていけると思っている。稼ぐビジネスモデルの台頭にも危機感を持たない企業・業界は座して死を待つのみなのではないでしょうか。
⑤入管法制定も人手不足は深刻
IT人材獲得が肝
浅島D 外国人労働者の受け入れ拡大を図る改正出入国管理法が成立したね。これで、人材不足は少しでも解消されると思う?
山本記者 外食業は入管法対象の特定技能に含まれているので、一様に歓迎ムードですね。
入管法のお題目は、スキル人材の活用ということになっていますが、結局、企業が欲しいのは安価な単純労働力だということです。言葉の壁の克服、簡単なマニュアル作成など外国人を搾取することなく〝活用する〟仕組みづくりがハードルになります。
浅島D 外食や小売りなど労働集約的な産業での人手確保は喫緊の課題になっているのは確か。
ただ、直近では情報通信業、運輸・郵便業、建設業の3業種の人材不足がもっと深刻になっているようだね(図参照)。
山本記者 取材していると、IT人材の逼迫度の厳しさはひしひしと感じますね。あるITベンチャー社長によれば「特に、エンジニアやウェブデザイナーの相場がここ1年で約1割も上昇している」そうです。
まず、メルカリなど知名度の高いIT企業が人材を青田買いしている。それに加えて、資金調達環境が良くなっていることから、スタートアップ企業であっても無理をしてIT人材を獲得しにいっており、どんどん相場が高騰しているようです。
浅島D 有能な人材を獲得することが、企業の生命線を握っているということだね。
総勢115人が2019年を徹底予測
総合計272ページの超特大号!
『週刊ダイヤモンド』12月29日・1月5日新年合併特大号の第一特集は「総予測 2019」です。毎年恒例の超人気企画ですが、今年版はありえないほどに、大幅に増強しました。
まずは、なんと40人の経営者がインタビューで2019年の景気や業界の動向を激白しています。例えば、金融業界ならメガバンクは3頭取全員、5大証券会社全トップ、さらに金融庁長官と、業界のキーパーソンは全員登場とも言えそうなほどです。他にも、経団連会長の中西宏明日立製作所会長や、車谷暢昭東芝会長、永守重信日本電産会長、柳井正ファーストリテイリング会長兼社長も。普段はメディアにあまり登場しない経営者のインタビューも掲載しています。
そして、株価は上がるのか、下がるのか?地下は五輪前にどう動くのか?米中貿易摩擦でトランプはどう動く!?欧州は?中東は?・・・などなど、識者50人が株価や景気、為替、地政学、政治、文化を徹底予測。ノーベル経済学賞を受賞したジョセフ・E・スティグリッツ氏や、世界経済フォーラム創設者のクラウス・シュワブ氏、EU外相のフェデリカ・モゲリーニ氏など、世界の大物も寄稿やインタビューで登場しています。
政治・社会・スポーツ・文化では、政治コラムニストの後藤謙次氏が19年の三大政局について予測し、牛窪恵氏が次に来る消費を紹介しています。さらに、プロゴルファーの石川遼氏、脚本家の北川悦吏子氏もインタビューで登場。
また、週刊ダイヤモンド編集部の記者25人が金融、産業業界がどう動くかも執筆しています。
つまり、総勢115人が2019年を見通す、総合計272ページの超豪華な一冊になっているのです!
さらに、読みやすい仕掛けも満載。本年版は経済分野の知識がない方でも読めるように、言葉の解説を充実させました。各分野の前に導入的なコンテンツを設けて、用語集も配置。さらには、カレンダーやマップなどもあり、易しく見やすい作りになっています。
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ありえないほど、増強させた「総予測 2019」。実際に手にとってもらえればわかりますが、ずしりと重たいです。ぜひ、年末年始のお供に、一読いただければ幸いです。