混迷の度を強めるメディア業界は、テクノロジーの劇的な進化によってさらなる変革の波にのまれています。これから数年で業界の序列は大きく変わる可能性が高いでしょう。『週刊ダイヤモンド』10月27号の特集は「4つの格差が決めるメディアの新序列」です。週刊ダイヤモンドは新序列を決めるのが「財務」「テクノロジー」「人事」「待遇」という4つの格差だとの仮説を立て徹底検証しました。序列崩壊の下剋上を勝ち残るのはどこなのか。知られざる「メディアの興亡」に迫りました。

 新聞制作を活版印刷からコンピューターに変革する大新聞社の技術革新を追った『メディアの興亡』が世に出たのは1986年のこと。そして、金融情報の覇権をめぐる日米欧メディアの情報革新を記した『勝負の分かれ目』の出版は99年だった。

 2冊の傑作ノンフィクションで、杉山隆男と下山進の両氏が描いたのは激動のメディア史だった。『勝負の分かれ目』から20年近くを経た今、混迷の度を深めるメディア業界はテクノロジーの劇的な進化によって、さらなる変革の大波にさらされている。

 変化を読み解くキーワードは、「モバイル」「パーソナライズ(個人に最適化)」「5G」「プラットフォーム」「サブスクリプション」──という五つの言葉。一つずつ説明していこう。

テック対応で後れとる紙メディア
覇権握ったプラットフォーマー

 ニュースはスマートフォンなど「モバイル」端末で読むのが当たり前になり、新聞や雑誌といった紙メディアは劇的に部数を減らした。雑誌の場合、書店の減少も重なって特に厳しい状況に追い込まれている。テレビも視聴時間をスマホに奪われ、メディアとしての競争力を低下させた。

 そうしたモバイル端末に配信されるのは、アルゴリズム解析によって「個人に最適化」された情報である。

 データ通信の大容量・高速化を可能にする「5G」が間もなく本格運用され、動画の常時接続が当たり前の時代を迎える。5G時代の到来を見据えて、テレビはもちろん、大手通信からスタートアップまで、さまざまな企業が動画ビジネスに参入している。しかし伝統メディアはここでも後れを取っている。

 伝統メディアは情報を流通させる主役の座をも奪われてしまった。米グーグルや米フェイスブックといった「プラットフォーマー」が一気に覇権を握り、伝統メディアの収益機会は急激に減ってしまった。

「DIGIDAY日本版」の長田真編集長は「昨年のデジタルの広告費は、前年から約2000億円も伸びて1兆5000億円を突破したが、そこで最も恩恵を受けていたのは、やはりプラットフォーマーだった」と指摘する。

 PwCコンサルティングの久保田一輝シニアマネージャーは、「テクノロジー企業がメディア業界に参入してきており、良質なコンテンツの争奪戦が起きている」と現状を解説する。

 そんな中、世界中のメディアが自らのコンテンツを有効活用しようと模索しているのが、デジタルで定額の有料課金をする「サブスクリプション」モデルだ。

 月額800円(ベーシック)で視聴し放題の「ネットフリックス」のようなサービスと言えばお分かりだろうか。紙メディアでも米「ウォールストリート・ジャーナル」など、徐々に成功事例が増えており、日本でも多くの紙メディアが今まさに挑戦しているところだ。

 こうした外部環境の激変によって、瀬戸際に立つ日本のメディア業界の序列は数年で大きく変わる可能性が高い。

 今、覇権を握っているのは伝統メディアではなく、情報の流通を押さえた大手プラットフォーマーたち。彼らに収益機会を奪われた伝統メディアはテクノロジーを活用しながら、新たな収益機会を探る旅の真っただ中にいる。

 本誌は業界の新序列を決めるのは四つの「格差」だと考えている。すなわち、「財務格差」「テクノロジー格差」「人事格差」「待遇格差」である。

 財務が悪化すると人材が流出し、将来に向けたテック投資もままならなくなる。テクノロジーが弱いとイノベーションに付いていけない。幹部の人事がいびつだと社内の旧弊に縛られて改革が進まない。そして待遇が悪いと人材が集まらず、良質なコンテンツを送り出せない──。結果、業界序列の下層に沈むというわけだ。

激変期を勝ち残るのは編集が
テックとビジネスと融合した企業

「財務格差」はビジネスモデルが崩壊した新聞業界で顕著だ。盟主の朝日新聞社ですら大幅な賃下げを余儀なくされているが、さらに悪化が著しいのが、負け組と呼ばれて久しい毎日新聞社と産経新聞社だ。いずれかが再編のトリガーになるとみる関係者は多い。

「テクノロジー格差」はデジタル新興メディアと伝統メディアの間で広がる一方だ。伝統メディアが「メディア2.0人材」の採用を急がなければ、致命的な格差が生じかねない。

 人事面については、伝統メディアがいまだに幹部人事で編集部門出身者を優先するといったいびつな「人事格差」が横行しているという。

 伝統メディアが没落する一方、新興メディアがそれに代わって急速に台頭するかと思いきや、新旧間の「待遇格差」がネックとなって思うほどは進んでいない。

 今回の変革期の特徴といえるのが、AI(人工知能)活用やデータアナリティクス、アプリ設計、アルゴリズム解析といったテクノロジーやデジタルの波が、編集のみならず広告や販売に至るまでメディアのあらゆる部署に押し寄せている点だ。

 結論から言えば、勝ち残るのは編集とテクノロジー、そしてビジネスを融合させることができたメディアだろう。そのときメディア業界の序列には、どのような変化が起こっているのか。

生死を分けるテック格差から
メディアエリートの没落まで

『週刊ダイヤモンド』10月27号の特集は「4つの格差が決めるメディアの新序列」です。週刊ダイヤモンドは新序列を決めるのが「財務」「テクノロジー」「人事」「待遇」という4つの格差だとの仮説を立て徹底検証しました。

 パート1は決算書から見える旧メディアの「財務格差」を探り、パート2は3年後の生死を分ける「テクノロジー格差」を徹底取材しました。さらにパート3でテック改革を阻害する歪な「人事格差」、パート4では、旧来型メディアエリートが没落する一方、台頭するデジタルメディアにもまだまだ課題が多い実情、加えて新旧メディアの「待遇格差」を浮き彫りにしました。

 勝ち残るのはどこなのか。知られざる「メディアの興亡」に迫りました。