──今の受験生は立教大学と明治大学の両方に受かると、総じて明治を選ぶ方が多いんですね。
残念ですが2012~13年ぐらいに逆転されて、差がどんどん広がっている感じです。偏差値では立教が高くても、「何となく」という理由で明治を選ぶ。
──明治を「イメージ大学」とやゆする人もいます。
ただ、「何となく」ってブームですよね。だったら再逆転は可能。このままの状況が5年、10年続くと、逆転するのに20年、30年かかってしまうけれど、今ならば4~5年で追い付き、追い越せる。立教は今、正念場を迎えています。
──なぜ今まで動かなかったのか。昔は観光学部開設など「日本初」がいろいろありました。近年はライバル校の後追いの印象があります。
改革期と安定期が交互にあって、ここしばらく安定期でした。その前は学部を大幅に増やしたり大改革をして、「MARCH」の中で断然トップを走っていました。慣らすためには安定運行の期間が必要だった。
そうはいっても社会の変化が非常に速いですから、ドラスチックな改革を今、しないといけません。
総長選挙では候補者それぞれ改革案を出して、その方向性がそんなに違うわけではなかった。ただ私は、数字を出して具体的に語った。明治や青山学院大学などとの比較グラフで今のポジションを示し、現状のままいったときの将来シミュレーションを、私だったらどう右肩上がりにするか財政面を含め分析し、政策提案しました。経済学者ですから。
AIに大学全体どっぷり浸る
──何にどう投資していくんですか。
各学部平等ではなく、選択と集中による「雁行型教育発展」で。
──雁行型?
鳥の群れは1羽が先頭を飛びます。今、うちで一番先を走っているのが経営学部、異文化コミュニケーション学部であるならば、そこの教育モデルなりを学部内で閉じるのではなく、他の学部に浸透させていく。リーダーシップ教育や語学教育とかね。
ピラミッド形式で先頭が引っ張り、最終的に全てをボトムアップする。従来的な横並びの発展では伸びどころを抑えることになりますから。
それと全10学部、全ての学問領域で、AI(人工知能)を使った研究、教育を進めます。例えば経済学であれば、行動経済学で人間の行動が特定のシチュエーションでどう変わるか、ビッグデータを解析すれば、想定外の結論が得られるかもしれない。私たちの長年にわたる蓄積を、若い研究者が半年で超えるようなスピードで研究する時代です。
学問だけじゃありません。大学は何十万人という学生の蓄積がありデータの宝庫。それを生かせば就職活動においてAIが適性を導き出すとか、学生サポートの在り方、教員の教え方、入試の在り方までも変わり得る。AIを一部で学んだり使うのではなく、大学全体でどっぷり浸る。最終的には人間が判断するにせよ、AIによって新しい大学をつくるくらいのことを考えています。
──AI時代に対応した人材養成という点では?
AI「ワトソン」を持つ米IBMは今さら、AIを教わる必要はないでしょう。でも、ワトソンを使いこなして新しい知見を生み出すという点では、彼らは弱い。AIを新しい領域に広げられる人材をわれわれが供給できれば、IBMに限らず企業は「欲しい」となる。
ワトソンやソニーの犬型ロボット「aibo」のようなものの開発は、東京大学をはじめ国立大学が得意として手掛けるでしょう。われわれも研究するにしろ、それ以上にワトソンやaiboを使える人を育てる。
立教は10の専門学部がある一方で、リベラルアーツ校。現代版リベラルアーツにはAIとIоT(モノのインターネット)の科目が必要です。全学部の学生が現代版での教育機会を得られるよう検討を進めています。
──「ネオリベラルアーツ」的な?
そう。AIは単に人に取って代わるのではなくて、使い方によってはわれわれの創造性をさらに駆り立て、価値観をより豊かなものにします。
この取り組みでは企業と連携したい。7月に内々で方針を打ち出して以降、IT、コンサルティング、金融、メーカーなど十指に余る数の企業とコンタクトしています。
──実行するにはカネが必要です。
ええ、財政的な裏打ちが必要。年間40億円を研究や教育の投資財源として確保したい。従来は学納金や国の補助金がメーンでしたが、もっと積極的に自前で財源をつくります
──自前でどうやって?
教育ビジネスって大きな市場ですよね。そこに大学自ら入って、リーダーシッププログラムや語学教育プログラムなどの教育コンテンツや入試、キャリアのコンサルティングなどを他の大学に売ったり。
大学への入り口から、その中間、卒業後の出口まで、教育会社がやっていることをわれわれもやる。AI戦略はそれらにも生きる。自校だけでなく、日本の大学全体の教育の質も上げていきます。
──そうしたビジネスやAI戦略は、今後3年のうちに始まっている?
はい。
MARCH抜いて、立教・上智・慶應の新括り「RJK」に
──「立教が変わる」ことを象徴する、分かりやすいキャッチフレーズはありますか。近畿大学は「早慶近」(早稲田大学、慶應義塾大学、近大)という大学のくくりを使って物議を醸しましたが、結果的に存在を知らしめました。
「脱MARCH」宣言をします。MARCHを卒業して、「RJK」になります。
──RJK? JK(女子高生)みたいですね。
立教、上智大学、慶應。彼らをキャッチアップし、追い抜いて、アジア、世界へとステップを踏む。
──「JAL」というくくりが昔ありました。上智、青学、立教。
それだと青学が入ります。横並びの顔触れを見ている限りは進歩しない。半歩先を見て追い掛ける。
個人的には昔、「東慶立」を思い描いていました。東大、慶應、立教。でも学内で話したら「東大は国立だし、カラーが違うし、リアリティーがない」って(笑)。
──慶應はともかく、上智にもダブル合格(両方に合格した場合の進学先)で勝てていない?
はい。経営学部や異文化コミュニケーション学部は、接近しています。慶應に対しても、経営学部はちょっと風穴をあけつつある。まずは一点突破して、他学部まで広げたい。
──RJKの確立は、MARCHを全て追い抜くことを意味しますか。
完全に抜いて、RJKに。創立150周年を迎える24年には、JKも「私、RJKに行く」と自然に言ってくれるようにします。
「早慶」「MARCH」の平成勝ち組&負け組は?
『週刊ダイヤモンド』10月20日号の第1特集は、「大学・学部序列」です。
名門私立大学の平成時代を総括すれば「平成勝ち組」が慶應義塾大学、明治大学、「平成負け組」が早稲田大学、立教大学、中央大学。偏差値において、あるいは両方に合格した受験生がどちらに進学するかの「ダブル合格勝負」などから判断すると、早稲田は慶應に、立教、中央は明治の勢いに負けました。
本特集はあえて「平成負け組」を名指しし、各大学のトップを直撃しました。彼らが口を閉ざしたり、一蹴することはありませんでした。たとえ学問研究、教育の実績で自校が優位である自負があったとしてもです。
いずれのトップも、自校の客観的状況を把握し、課題を洗い出して改革をうたっている。改革実行が彼らの至上命令。平成負け組の「逆襲」がここから始まります。
367大学1178学部の37年間の偏差値、志願者数などのデータから長いスパンで大学や学部の序列を大局的に振り返ると、大学全体の変化や課題が浮かび上がってきます。平成を総括するとともに、「近未来の3年後」を予想。あらゆるものがインターネットにつながり、ビッグデータをAI(人工知能)で解析するなどデジタル技術を使って経済発展や社会的問題を解決する時代に求められる学部と学問、大学教育の向かう先、なすべきことを探りました。
少子化時代に入っても新設が続き800校近くまで膨らんだ大学が今、在り方を問われています。