『週刊ダイヤモンド』9月29日号の第1特集は「乗り遅れるな! キャッシュレス」です。長らく日本では「現金決済」が幅を利かせてきましたが、ここにきてスマートフォンを使った「キャッシュレス決済」がにわかに注目を浴びています。インバウンドの拡大や深刻な人手不足などがキャッシュレス化を後押ししているからです。そんな中、異業種からスマホ決済への参入が相次ぎ、各社はユーザーを増やそうとポイントや特典を奮発して大活況を呈しています。いまキャッシュレスの波に乗らない手はありません。

 夕闇迫る福岡・天神の屋台街──。屋台というとちょっと年配の客が多そうなイメージだが、大丸福岡天神店の前というロケーションからか、若者や外国人客が多い。どの屋台もすでに満席で、順番待ちのために並んでいる客もいる。

 8月下旬の残暑が厳しいその日、屋台街で見慣れない光景が広がっていた。若い女性客が店頭に置かれたQRコードにスマートフォンのカメラを向けている。なんと、スマホでQRコードを読み取って「お勘定」していたのである。

 決済の流れはこうだ。客が店のQRコードをスマホで読み込む。すると決済画面が出てくるので、支払う金額を客が自分で打ち込む。店の人に金額を確認してもらい、問題がなければ実行。それで決済は完了だ。客が財布からお金を出したり、店員がお釣りを渡したりする手間が一切なく、短時間でスムーズに支払いが終わる。

「お客さんが多いときは、調理をしながら現金の受け渡しをするのが大変だった。スマホ決済だと手間が省けて本当に助かる。それに、丼勘定だと思われている屋台のイメージアップにもなる」と店主はうれしそうに語る。

 天神の屋台がスマホ決済を導入しているのは、福岡市が実施するキャッシュレス実証実験の一環だ。6月から博物館や動植物園などの公共施設で、8月中旬以降は屋台などの民間施設でも実験が始まった。9月中旬以降、ショッピングモールなどにも広がる予定だ。

 それにしてもなぜ、屋台でキャッシュレス決済が可能なのか。

 従来のクレジットカードや電子マネーによる決済は、専用の決済端末やネットワーク回線が必要だ。導入には数十万円のコストが掛かる上、平均で売り上げの4%程度の手数料をカード会社などの事業者に支払わなければならない。

 一方、スマホを使ったQRコードによる決済は、冒頭のお勘定シーンのように、店側はQRコードを用意するだけなので初期費用はゼロ。信用データのやりとりは通常のインターネット回線を使用するため、専用のネットワーク回線を引く必要もない。それ故に手数料も安くて済む。だからこそ、屋台のような小規模事業者でも導入することが可能なのだ。

「現金お断り」のレストランも登場!

 キャッシュレスの世界なんてまだまだ先のこと──。そう思っているとすれば誤りだ。あなたの身近にキャッシュレス化の波が押し寄せている。

「CASHLESS(現金お断り)」──。店頭に堂々とこんな看板を掲げている飲食店がある。東京の日本橋馬喰町でロイヤルホールディングス(HD)が運営する「ギャザリング テーブル パントリー」だ。看板の通り、この店では現金は使えない。クレジットカードや電子マネー、QRコード・バーコードによる決済のみ受け付けている。

 2017年末、ロイヤルHDは実験店舗としてこの店をオープンした。当初は「現金が使えないなんてあり得ない」と客からクレームがついたこともあった。それでも同社がこの実験に踏み切った背景には、働き方改革の流れがある。「現金を取り扱うことは、店長にとっても従業員にとっても大きな負担になる。そこから解放し、サービス向上につながる接客や調理などの時間を増やしたかった」(野々村彰人・ロイヤルHD常務)。

 現金決済を廃止したことで、従来は閉店後40分もかけて行っていたレジを締める作業がゼロになった。客との現金の受け渡しの手間もなくなり、その分浮いた時間で客とのコミュニケーションが増え、調理にも集中できるようになったという。実際に記者はこの店を訪れたが、下写真で説明するように、非常に新鮮な体験だった。

今日から始めよう 簡単、得するスマホ決済

『週刊ダイヤモンド』9月29日号の第1特集は「乗り遅れるな! キャッシュレス」です。

 銀行ATMで平日に現金を引き出すと手数料がかかるーー。一部銀行でそのような検討が始まっています。一方で各行はコスト削減のためATMの削減に動いています。つまり、これからは現金を使おうとすると不便になり、かつ損をする時代がくるということ。それがこの特集を企画するきっかけとなりました。

 今回取材をしてみると、屋台や整骨院、個人経営のショップなど思いも寄らない場所にもキャッシュレスの波が広がっていました。スマートフォンの普及とQRコードという古くて新しい技術によって、低コストでキャッシュレス決済を導入することができるようになったのです。

 百聞は一見にしかず。主要なスマホ決済サービスを自分でいろいろと試してみました。財布の中に1万円札を1枚入れて、1週間このお札に手を付けずに生活すると決めました。

 本当に現金を使わずに生活できるか不安でしたが、特集内でまとめているように、まったく不自由することなく、むしろポイントや割引でお得な生活を送ることができました。この快感は、一度使ってみないとわからないでしょう。まだ一度もスマホ決済を使ったことがない方には、試してみることをおすすめします。

 特集では、初めてスマホ決済を使う方のために、主要6社のサービスを詳細に比較しました。また、生活シーン別のおすすめサービスもまとめてあります。自分の生活シーンや目的に合ったスマホ決済を選べるようになっています。

 一方で、スマホ決済の普及によるキャッシュレス化は、従来の銀行やカード業界の収益モデルを破壊する可能性があります。銀行やカード業界は警戒感を強めていますが、果たして新規参入した新興勢は何を狙っているのか。LINE、楽天、アマゾン、ヤフー、メルカリの各社事業トップがその戦略を赤裸々に語ってくれました。

 実は、私のキャッシュレス生活の話には続きがあります。現金を使わないことに慣れて快感を覚え始めたチャレンジ7日目のこと。朝、自宅最寄りの地下鉄の駅で改札に入ろうとした瞬間、定期券とスマホを両方とも忘れてきたことに気付いたのです。この瞬間、チャレンジは終わりました……。ですがその後も、「なるべくキャッシュレス生活」を続けています。