今春に転職した元製薬大手の男性社員は、「年収ね、半減しちゃった」とおどけた表情で明かした。
男性の妻は転職に猛反対。高学歴、高収入が自慢の旦那が転身することを受け入れ難かった。
製薬大手の賃金は高い。社員クチコミサイト「Vorkers」の調査による上場企業の時給ランキングにおいて、上位30社のうち5社が製薬会社である(上表参照)。新卒の就職先としても、転職先としても、人気を集めてきた。
年収1000万円プレーヤーたちがゴロゴロいる製薬業界の雇用が今、大きく揺らいでいる。
名だたる製薬会社がこぞってリストラを断行しているのだ。2017年末~18年は、これまで判明した内資系製薬会社(アステラス製薬)と外資系製薬会社(仏サノフィ、独ベーリンガー・インゲルハイム、米MSD)の早期退職者数の見通しの合計が約1500人に上る。
1912年の創業以来初の早期退職募集を行う大正製薬ホールディングスも社運を懸けた大規模な人数が予想される。
間もなく募集を行うとうわさされる複数の会社を含めれば、18年だけで約2000人が転職市場に放出される可能性が高い。
この数年を振り返れば、製薬業界にリストラの波はすでに起きていた。そこにかつてないビッグウエーブがやって来る。
「豪華客船に乗っていたはずが、難破船になってしまった……」。リストラ対象になったある中年男性は肩を落とす。
一方で、医療・ヘルスケアの産業は一般に有望な成長市場に位置付けられている。
人工知能(AI)、IoT(モノのインターネット)、ビッグデータ、ロボティクスなどの技術進化を軸に世界は第4次産業革命の時代に突入している。とりわけ大きな変化をもたらすとされるのが金融、教育、ヘルスケアで、それぞれ「フィンテック」「エドテック」「ヘルステック」と呼ばれる。
技術進化で産業が変わるとき、担い手とその位置付けにも変化が起きる。産業を引っ張る新たなエリートが生まれる。
冒頭の男性は、製薬ではないが同じメディカル業界へ転職した。賃金は落ちた。でも転職先の事業の発展性、ひいては将来の収入アップに懸けた。妻の冷たい視線を浴びるたびに心の中で叫ぶ。
「時間をくれ。最後に笑うのは俺だから」
「治療法編」「医療職編」に続く第3弾
「産業編」で新時代エリート像に迫る
『週刊ダイヤモンド』7月21日号の第1特集は、「製薬 電機 IT… 医療産業エリート大争奪戦」です。
医療財政が逼迫し医療制度改革が急がれる中、医療・ヘルスケア産業では第四次産業革命の渦の中で人工知能(AI)、IoT(モノのインターネット)、ロボティクスなどの技術を活用する「ヘルステック」が盛り上がり、健康管理や治療の世界にパラダイムシフトが起ころうとしています。
実際に何が起こっているのか。何が起こるのか――。本誌はさまざまな切り口でこれを追いかけてきました。
3月17日号特集「がん医療の表と裏」は治療法編。5月19日号特集「20年後も医学部・医者で食えるのか?」は医療職編。第3弾となる今回は医療・ヘルスケア産業編です。
本特集でまず焦点に当てたのが製薬産業。7兆円の巨額買収を決断した国内の王者、武田薬品工業について、表には出ていない大リストラの実態を含め徹底的にレポートします。
リストラを断行しているのは武田薬品だけではありません。製薬業界の花形職種だったMR(医薬情報担当者)らは早期退職ラッシュに直面しています。彼らは社内外でどう生き抜けばいいのでしょうか。
医療・ヘルスケア産業全体を広く見れば、米グーグルらIT巨人も参入する異種格闘技戦が繰り広げられています。そこで必要とされる人材の専門性、経験内容、人物像はどんなものなのでしょうか。
ジョンソン・エンド・ジョンソン/GEヘルスケア/フィリップス・ジャパン/シーメンスヘルスケア/日本アイ・ビー・エム/オリンパス/テルモ/日立製作所/富士フイルム/シスメックス/ペプチドリーム/エルピクセル
注目12社のキーマンに直撃し、中途採用で求める具体的な人材ニーズを明らかにします。
変革はヒトの力があって成されるもの。激変する産業を引っ張る新時代のエリート像に迫りました。
なお、第2特集は「不妊治療最前線」。今や20人に1人が体外受精児。治療を始める重要な一歩が治療を受ける施設選びです。そこで不妊治療施設の妊娠成績や価格などを一挙掲載しました。
ヘルスケア2大特集をご堪能ください。