『週刊ダイヤモンド』7月14日号の第1特集は「定年後も稼ぐ!働き方」です。かつて定年は仕事人生のゴールでしたが、人生100年時代といわれる今、経済的にも生きがいという点からも、定年後も働き続ける必要があります。どうせ働くなら楽しまないと損。定年後再雇用制度を利用してやりがいのない仕事を安い給料でやるくらいなら、もっと魅力的な選択肢がいくらでもあります。いくつか事例を紹介しましょう。

 京都の台所、錦市場──。京都市の中心を東西に走る四条通から一筋北に入った路地にあるこの商店街は、400年の歴史を持つ。鮮魚、肉、漬物、総菜、土産物などおよそ130の商店がひしめく。その活気あふれる独特の雰囲気は観光客にも人気で、近年は外国人観光客も押し寄せている。

 この錦市場で100年以上続く「錦平野」は、京料理の総菜店として、地元の人々に愛されてきた。職人が店頭で焼くだし巻き卵が特に評判だ。この老舗のオーナーは岡亘さん(76歳)。2017年4月、後継者がおらず事業承継してくれる人を探していた元のオーナーから買収した。

 岡さんはもともと、大阪市北浜にある実家のかまぼこ店を経営していた。4年ほど前、共同オーナーだった兄と話し合いの末、バス会社に会社を売却、引退を考えていた。すると妻から、「あんたは水槽の中のハマチと一緒や。止まったら死ぬで」と尻をたたかれる。

 そんなときM&Aのマッチングサービスを介して、錦平野が売りに出されていることを知り、岡さんは居ても立ってもいられず、すぐに見に行く。

 「直感的に気に入った。まず、会社に伝統がある。京都のブランド力がある。そして立地条件が抜群にいい。経営を工夫すればいくらでも伸びると思った」

 数カ月の交渉の末、売買が成立した。70代半ばにして現役に復帰したのである。

 すると、岡さんの経営者魂に火が付いた。次々と新しい手を打ち始めたのである。それまで店頭販売のみだったが、店の奥にあった工場をレストランに改装。天ぷらや刺し身をメーンとし、焼きたてのだし巻き卵と8種の総菜の盛り合わせをセットにした定食メニューも提供するようにした。

 「これだけ人が歩いている通りで店を工場にしてたらあかん。ここをレストランにすれば売り上げは上がるし、前日に作った商品を翌日の定食で出せばロスもなくなる」

 岡さんにはもう一つ狙いがあった。インバウンドだ。以前の総菜店では食べる場所がないため、買いに来るのは地元の人ばかりで、外国人は素通りしていた。レストランを造り、メニューを多言語化。中国語や英語を話せる外国人スタッフも雇用した。狙いは的中し、現在、レストランの利用客は1日平均170人。総菜の廃棄がなくなり、利益率も改善した。

 買収から1年2カ月、錦平野の月商は2500万円から4000万円に跳ね上がった。

 「忙しくなって従業員も喜んでいるし、新しく若い人が入ってきてくれている。うれしいもんですよ」と岡さんは笑う。

 岡さんは会社を買収して経営者になるという形で、76歳を過ぎた今も現役で働き続ける道を選んだ。

普通のサラリーマンに会社経営ができるのか

 何の経験もないのに、いきなり会社を買って社長になれるわけがない──。

 長年会社勤めをしてきた世の中のほとんどの人は、自分が社長になることなど考えたこともないに違いない。しかしこの選択肢は、決して実現不可能な夢物語ではない。今、個人でも会社を買収できる環境が整ってきているからだ。

 日本の中小企業の半分は廃業の危機にある。その約7割は個人企業だ。他方、休廃業企業の半分は、驚くべきことに黒字経営なのである。なぜ黒字なのに廃業するのか。後継者が見つからないからだ。

 そこで、親族以外の外部人材に事業を承継してもらうため、会社を売りに出す経営者が増えている。かつてはそうした売り案件の情報は表に出てこなかったが、最近では中小企業に特化したM&Aのマッチングサイトが複数あり、売り手と買い手が気軽に交渉できるようになっている。中には数百万円で買えるお買い得な案件もあり、個人が会社を買うチャンスは確実に広がっている。

 それでも多くの人は、こう思うだろう。社長をやったこともないサラリーマンが本当に会社を経営できるのか、と。『サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい』の著者で、日本創生投資代表の三戸政和氏は、「大企業の管理職としてPDCAを回していたような人であれば、中小企業の経営者は十分務まる」と語る。大企業で普通にやっていたことを実行するだけで、中小企業では大きな効率化につながったりするのだ。

 会社を経営する以上、もちろんリスクはある。ただ最近では、会社の債務について経営者に個人保証を求めないよう当局がガイドラインを出しており、もし会社が破綻したとしても影響は限定的だ。

 定年に関係なく働ける社長という働き方を、ぜひ検討してみてはどうだろうか。

定年後は貯めるより稼げ! 自分に合う働き方を見つけよう

 『週刊ダイヤモンド』7月14日号の第1特集は「定年後も稼ぐ!働き方」です。

 定年退職を迎えた日、職場で花束をもらい、あいさつをして長年勤めた会社を去る──。そんな定年退職の光景は、もうすぐ見られなくなるかもしれません。

 長寿化や年金支給開始年齢の引き上げなどの経済的事情もあって、多くのシニアが60歳を越えて働き続ける必要が出てきたからです。現時点では定年を迎えた人の8割超が再雇用制度を利用していますが、仕事のやりがいや給与の面で不満を感じている人も多いのが実情です。

 どうせ働き続けるのなら、やりがいを持って楽しく働いた方がいい。では、どんな働き方があるのか。本特集では、定年後も働き続けるための選択肢を、実際の事例とともに紹介しています。

 選択肢は大きく四つ。①冒頭で紹介したように、会社を買って経営者になる、②独立して個人事業主になる、③転職する、④再雇用制度を利用する、です。

 これまでは定年時に④を選ぶ人が圧倒的に多かったのですが、最近では定年時だけでなく、40~50代で①~③の働き方を選ぶ人も増えてきました。定年後も働き続けることを見越して長期的なキャリアプランを立て、計画的にキャリアチェンジをしているのです。

 自分はごく普通のサラリーマンだからキャリアチェンジなんて無理。そう思う人もいるでしょう。しかし、シニア専門キャリアコンサルタントの木村勝氏は、「シニアのキャリアチェンジの成否は、その人が優秀かどうかは関係ない。事前に準備したかどうかで決まる」と言い切ります。

 遅くとも40代ぐらいから、自分の強みが何であるのかを認識し、それを将来どのように生かせるのかを考えることが重要です。本特集では、自分の強みを認識するためのツールやノウハウもまとめました。ぜひご活用ください。

 また、会社を買って社長になりたい!と思っている方のために、「数百万円から買えるお買い得企業リスト」も作成しました。じっくり検討してみてください。

 昨今は、老後に備えてお金を貯めよう、運用しようという類いの話が多いですが、その話には重要な要素が欠けています。定年後も働く、ということです。

 発想を転換して、定年後はお金を貯めるのではなく、稼ぐ人生を送りませんか。