『週刊ダイヤモンド』3月17日号の第1特集は、「大衆化する高額・最先端手術 がん医療の表と裏」です。4月から医療の値段が変わり、がん医療が激変します。「セレブ医療」扱いされてきた高額な治療が、健康保険適用によって〝大衆化〟されるのです。手の届く治療の選択肢が増える中、納得のいく治療法はどれか。医療機関はどこか。治療法の内情、医療機関の実績などを明らかにしました。

  愛知県にある藤田保健衛生大学病院の消化器外科医、宇山一朗医師(同大教授)は10年ほど前に手術支援ロボット「ダヴィンチ」を使った「ロボット支援手術」を始めた。先駆者としてこれまで自由診療や先進医療で約600件を手掛けてきた。

 宇山医師はなぜロボット支援手術にほれ込んだのか。名医には患者が集まり、手術を重ねるので、腕はさらに磨かれる。それでも人間の機能には限界がある。ロボットの力を借りると、人の手首の動きを凌駕する曲げ方が可能になり、手の震えも補正してくれる。より精緻な手術が可能になるのだ。

 このロボット支援手術が主要ながんで一挙に公的健康保険適用になる。これまでに前立腺がんと腎がんで適用されており、18年度から胃がん、食道がん、直腸がん、肺がん、縦隔腫瘍、膀胱がん、子宮体がんなども適用になるのだ(全摘除、部分切除などがん種によって詳細な対象条件は異なる)。

 保険適用になると患者は高額療養費制度を利用して自己負担額に上限を付けられるので、超高額な治療で直接的に財布が痛むのは国家財政。今回適用されたがん種のロボット支援手術費は、従来の腹腔鏡手術と同じになる。医療機関にすれば、ロボット支援手術は腹腔鏡手術よりもコストがかかるので、利幅は小さくなる。国は保険適用のがん種は広げても、財布の紐は締めたのである。

 具体的にロボット支援手術の医療費を胃がんで見ると、患者の自己負担は自由診療で約200万円だったものが、保険適用で50万~60万円(3割負担の目安)まで大幅に減る。さらに高額療養費制度を利用すれば、負担額は10万円くらいに下がる(年齢や年収などによって異なる)。

医療機関の手術数に格差あり 患者は選択眼を求められる

 保険適用の治療選択肢が増える中で重要になるのが、患者側が治療の正確な情報を得て、治療や医療機関に選択眼を持つことだ。

 現場の医師たちによると、「外科医は個人のセンスで腕に差が出るが、生来備えているものだけでなく、手術するほどに技術レベルが上がる」という。手術は症例数を重ねて技術が磨かれ、熟練度が増すとされ、症例数の格差が技術の格差につながり得る。

 ロボット支援手術は従来の腹腔鏡手術に比べて習熟が早いとされる。もっと普及するころには、技術格差が消えているかもしれない。しかし、今は過渡期。医療機関間、医師間による症例数の差が大きい。一挙にさまざまながん種に保険が適用され、当該のがん種で実施症例数を重ねているところは限られている。手術を受ける患者にとって症例数は、重要な判断材料の一つになると考えられる。

 そこで本誌は医療コンサルティング会社であるグローバルヘルスコンサルティング・ジャパン(GHCJ)のアドバイス協力を得て、ダヴィンチを導入している医療機関にアンケートを実施、ダヴィンチを使ったロボット支援手術の症例数などを調査した。

 医療機関の2017年症例数ランキング(がん種別。年間)を見ると、2012年度に全摘除が保険適用になった前立腺がんと、18年度から適用になる胃がんでは、症例数にケタレベルの差がある(下表参照)。同じがん種で各医療機関の症例数を比較すると、医療機関間の差が大きい。

*対象は本誌アンケートに回答した162医療機関(手術支援ロボット「ダヴィンチ」を導入した239医療機関<本誌判明分>を対象にアンケートを送付)。2017年1~12月の1年間の実施症例数。17年にダヴィンチを導入した場合は、導入して以降17年12月までの期間。本誌アンケート結果に基づく
拡大する

 

 ロボット支援手術において、医師はどれくらいの経験で習熟の手ごたえを得られるのか。国内で先駆けて胃がんなどを手掛けてきた宇山医師は「いい手術だと言い切れるまでに100例。当時はまだ日本で教えてくれる人がいなかったので、最初は海外から経験のある医師を呼んで学んだ」という。

 ただ、これは開拓者のケース。今は国内に指導できる医師がいて、テキストなど教材もいろいろあるので、複数の医師の声を総合すると、「腹腔鏡手術を習熟していれば、間をあけずに20例ほどの経験」が当面の目安という。

 なお、医療機関が保険適用でこの手術を行うには、指定された施設基準をクリアする必要があるので、医療機関がまったくの未経験で保険適用の患者に手を出すことはない。つまり、この基準をクリアするまで、医療機関は保険適用での手術を行わないことになる。

 また、ロボット支援手術の治療情報を全医療機関で統一的に集める登録システムを構築したうえで保険適用の手術を手掛けようという動きがあり、そうなるとシステム構築に時間を要するのでどの医療機関も4月に入ってすぐには保険適用に対応できないかもしれない。最大数カ月の空白期間が生じる可能性があり、保険適用での手術を望む患者はこの点も注意が必要だ。

公的保険が一気に拡大! 大衆化するセレブ医療

 『週刊ダイヤモンド』3月17日号の第1特集は、「大衆化する高額・最先端手術 がん医療の表と裏」です。

 4月から医療の値段が変わり、がん医療が激変します。「セレブ医療」扱いされてきた高額な治療が、健康保険適用によって〝大衆化〟されるのです。

 ざっと挙げると、従来の腹腔鏡手術の進化版と言われる「ロボット支援手術」で健康保険適用のがん種が一挙に増えます。放射線治療の一種、「粒子線治療」で前立腺がんの保険適用が認められます。2014年に発売された免疫治療薬「オプジーボ」は適応対象がどんどん広がり、価格がどんどん下がっています。

 保険適用の治療選択肢が増える中で重要になるのが、患者側が治療の正確な情報を得て、治療や医療機関に選択眼を持つことです。

 本特集では、ダヴィンチを使ったロボット支援手術の医療機関における累積症例数および2017年症例数、院内実績トップの医師などをリストアップし、ランキングを作成しました。粒子線治療施設の実績もリストにしました。

 もう一つ、がんが進行して治療の選択肢がなくなるも、新たな治療法を探したいという方には、がん遺伝子の異常を網羅的に調べる検査を知っていただきたい。その最新情報も盛り込んでいます。

 がん医療の選択肢が広がり、与えられた治療をただ受け入れるだけの時代は終わりました。