「沿線線住民をどれだけ確保できるのか、これまでとは危機感のレベルが違う」
そう明かすのは、東急電鉄の平江良成・鉄道事業本部事業推進部沿線企画課長だ。
西の大都会、京阪神では、阪急やJR、阪神などの各線が並走する区間が多く、各社がしのぎを削っている。これに対し、首都圏の私鉄は路線間の競争はほとんど存在せず、各社のすみ分けがなされてきた。その潮目が今、変わりつつあるという。
その背景には、首都圏にも迫る少子高齢化と人口減少がある。京王電鉄の南佳孝・取締役戦略推進本部長兼事業創造部長は「私鉄は皆同じだが、生産年齢人口の急減にどう対応していくか。郊外になるほどマイホームを持つ住民が増えるため、新陳代謝が起きないことが課題だ」と指摘する。
「吹きだまりとなった郊外の新陳代謝を図る」(首都圏私鉄幹部)べく、各社が加速させているのが、郊外駅の再開発事業である。
まずは、街づくりを事業の中心に据え、「東急ブランド」を確立してきた東急から見てみよう。
同社が目下、田園都市線「たまプラーザ」(横浜市)と「二子玉川」(東京都世田谷区)に続いて、次世代型郊外として大規模再開発を仕掛けているのが田園都市線「南町田」。町田市と共同で昨年2月に閉館した「グランベリーモール」を再整備し、田園都市線では唯一のアウトレットモールを2019年度に開業する。「田都における逆輸送の拠点とすることをもくろんでいる」と平江課長は言う。
東急が開発に力を入れるのは、純粋な郊外駅だけではない。池上線や世田谷線など「都心の中の郊外」ともいうべき“マイナー路線”のてこ入れも図る。
「他の路線に例えるのは困難だが、その未来像をあえて言えば、池上線は『吉祥寺』や『永福町』『浜田山』など各種の住みたい街ランキングの常連駅が多い京王井の頭線が、また世田谷線は、観光資源が多く外国人にも知られる江ノ島電鉄が理想型だろう」(東急関係者)。
沿線郊外の未来を変える
ターミナル開発
一方、その東急が「脅威」という、今年3月に迫った複々線化により「東急や京王ユーザーのシフトも含め、乗降客数を年3000万〜4000万人増やす」(小田急電鉄の田島禎之・生活創造事業本部開発推進部課長)と鼻息が荒い小田急。同社の肝いりは、南町田から南西約10kmに位置する「海老名」(神奈川県海老名市)だ。
これまでも駅東口で商業施設などの開発を進めてきたが、用地買収から半世紀越しの「再開発ではなく最初の開発」(田島課長)となるのが、25年度の完成を目指す、JRの海老名駅との駅間地区に整備される「ビナガーデンズ」だ。東急の「二子玉川ライズ」と設計会社が同じで、見た目はニコタマ、中身はムサコ(「武蔵小杉」)のような建物になるという。
中でも他社が「かなり挑戦的」と半ばあきれつつ称賛するのが、オフィスビルの建設。「できれば、旅客増につながる沿線外から企業を誘致する」(同)腹積もりだ。
これまで再開発で後塵を拝してきた西武鉄道は、各主要駅で巻き返しを図る。例えば、池袋線「石神井公園」は東急の「自由が丘」のようなおしゃれな高級住宅街を、池袋線「飯能」は北欧のフィンランドを、秩父線「西武秩父」は箱根を想起するような開発を行う。
片や、京王は現在、「調布」や「府中」で再開発を仕掛けているが、今後は街の整備よりも「運賃の値下げ、通勤ライナーの投入、ダイヤ改正といったソフトの充実にシフトする」(南取締役)。
沿線全体の将来を占う上で、個々の駅よりも重要になるのが、接続するターミナル駅の趨勢だ。
「心臓部であるターミナルが衰えると沿線も動脈硬化を起こす」と各私鉄幹部は口をそろえる。
副都心の3駅のターミナル駅再開発で頭一つ抜けているのが、東急が威信を懸けて100年に1度の規模で再開発を行う「渋谷」。27年度の完成に向け、七つのプロジェクトが進行中で全く新しいオフィス街が誕生する。逆に、渋谷のみならず「池袋」にも後れを取っているのが「新宿」。南取締役は「小田急にも同じ危機感があり、『連合軍』の意識で一緒に進めている」と話す。首都圏でも沿線人口の争奪戦は始まったばかりだ。
首都圏・関西圏3352駅の
詳細データはウェブで全公開
「週刊ダイヤモンド」2月3日号の第1特集は「通勤25分圏外の勝つ街 負ける街」です。
人口減少と少子高齢化の荒波が、刻一刻と首都圏や関西、中京をはじめとする大都市圏にも押し寄せつつあります。この荒波に耐え得る街は、都心中の都心など、ごく一部。そして、郊外はもちろん、準都心でもまだら模様に「勝つ街、負ける街」が形成されつつあるのが現状です。
そこで今特集では駅周辺を一つの「街」と見立て、多角的かつ膨大なデータを収集してランキングを作成。郊外における街の「勝敗」を明らかにしました。
都心からの最短移動時間に応じて、0〜25分を「都心」、26〜45分を「準都心」、46〜100分を「郊外」と定義。その上で、「周辺人口」や「10年後の人口伸び率」、「10〜17年の平均住宅地価の上昇率」、さらには「平均住宅地価」、「20歳から39歳の若年女性比率」、「1世帯当たり人員」、人々のその駅への関心度を示す「検索データの増減率」も考慮しながら「総合偏差値」を算出したものです。
つまり、現在、地価が伸びていて、今後も人口が増えることを見通せる上、人々の注目度が高く、さらに若いファミリー世帯の多い街が上位に来る仕組みとなっています。
こうして導き出した「勝つ街 負ける街」の“今”をルポすると共に、今後、どんな“変数”が加われば、街の「未来」は変わるのか。企業や行政、教育機関といった街づくりに関わるプレーヤーの動向にも着目し、今後を読み解きました。
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