ユニクロの改革拠点
「有明」で起きている大混乱
──東京・有明の物流倉庫を拠点に大変革を行っているとのことですが、狙いは何ですか? 物流改革でもっと在庫管理を徹底するということですか?
柳井 いや、それは一現象です。今後、われわれのビジネスは(実店舗を中心としたビジネスだけでなく)eビジネスも主力業態となる。それに、スポーツ業態とも競合してくるでしょ。
つまり、異業種間格闘技みたいになってくる。そうなったときにわれわれがどうなっていないといけないかっていうと、物流や情報システム、商品作りに関わる人たちがみんな一緒に仕事をしていくような企業です。
今の単純な製造小売業(SPA)から情報製造小売業に変わらないといけないんです。まあ、有明は商売の本社みたいなものですね。対して、東京にもう一つある六本木本部は管理の本社。
商売のデジタル化が進むと、有明は本当にグローバルヘッドクオーターにならないといけなくなるんですよ。それには、有明のオフィスにいる従業員約1000人のうち、できたら半分を外国人にして、今有明にいる日本人の半分を海外に持っていくみたいなことをしなければならない。
働き方も変えます。組織自体を全部フラットにして、執行役員も部長も担当者もないような小チームに変えて、その小チームの人たちが即断即決で全部の仕事をできるように組織をつくり変える。上司が決めたことを実行するのではなく、自分が発案して仕事を決めるように変えていきます。
──今までもファーストリテイリングには割とそういう風土があったように感じますが。
柳井 違うんですよ。組織が大きくなってくると上司の言ったことばっかり聞くようになる。上司は上司で考えなしに、「社長が言ったから」とか「会社の仕組みはこうなってるんだから」と昔のことを繰り返そうとしたりする。
組織の硬直化ですよ。だから一つ一つの組織をもっと小さくして、担当者が自分のアイデアを仕事にできて、確実に責任も取れるような形に変えるってことです。
ヘマっていうよりも
大ヘマでしたよね
──ところで、有明の物流倉庫が大混乱に陥っていますが、何が起こったんですか? かなりオペレーション効率も悪くなっていましたし、想定外の費用負担もかさんでいるようです。
柳井 自分たちで動いて一つひとつ事に当たらなければならなかったことを、取引企業に丸投げしてしまった。倉庫内の効率化も進んでいなかったから、費用だけがどんどん上がっていって。しかも、そういう状態だったんで、バッファー倉庫みたいなものをたくさん借りてて、余計に費用が積み上がっていってしまった。
──丸投げした先の取引企業に問題があったのでは?
柳井 いや、全然違う。丸投げしてしまった取引企業には、すごくいろんなことで協力してもらってるんです。うちがヘマをした。
──この混乱がきっかけで、物流担当役員が退社しています。責任を押し付けられて辞めてしまったように見えるのですが。
柳井 まあ、ヘマっていうよりも、大ヘマでしたよね。
今は、若手の役員と、海外事業の責任者をしていた人間を物流担当に据えています。物流に詳しいわけではありませんが、今度こそ全部自分たちできちんとハンドリングしていこうと思っています。
これまでの成功体験を捨てる
柳井改革の凄み
『週刊ダイヤモンド』7月8日号の第1特集は「ユニクロ 柳井正 最後の破壊」です。
今年3月、東京・有明の物流倉庫の最上階にあるファーストリテイリングの新オフィスがマスコミに公開され、その高級ホテルのような空間が話題となりました。
しかし、実は階下に広がる倉庫部分では、前代未聞の大混乱が起こっています。
この物流倉庫は、同社の物流改革の拠点として昨年の春に稼働が開始しています。これまで、倉庫部分の仕組みがどうなっているのか、倉庫の効率化でどんなビジネス上のメリットが享受できるのか、ファーストリテイリングは固く口を閉ざしてきましたが、「それもそのはず」と思わず納得してしまう混乱ぶりです。
今、柳井会長は、働き方やビジネスの仕組みなど、会社の全てを丸ごと改革しようとしています。有明の物流倉庫もこの改革の一環です。本特集では、その有明の大混乱の全貌を、柳井会長のインタビューと共に、明らかにしています。
それにしても、ファーストリテイリングはいまや売上高2兆円目前まで成長しています。足元の業績も決して悪いわけではありません。柳井会長はなぜ、これまでの成功体験を捨てるような真似をするのか――。
本特集では、今、ファーストリテイリングが行おうとしている改革の意義を紐解く他、これまで同社が行ってきた破壊と創造の歴史についてあらためて追いました。週刊ダイヤモンドの過去記事もふんだんに掲載。要所要所で、柳井会長がいったいどんなことを考えていたのかがよく分かります。
また、柳井会長はなぜこれほどまでストイックに改革に臨めるのか、そのルーツにも迫りました。
ぜひ、ご一読ください。