『週刊ダイヤモンド』6月3日号の第一特集は「三流の東芝 一流の半導体」です。巨額損失、決算延期、債務超過、上場廃止へのカウントダウン──。激流に呑まれた東芝は自らの生存を懸けて優良資産を切り売りし、いつしか三流に転落してしまいました。今、ただ一つ残った一流の半導体まで売却しようとしています。皮肉にもこのドル箱事業には世界中の大物経営者が続々と食指を動かしてきました。凋落する東芝とは裏腹に半導体の世界は沸騰し、グーグル、アップルからトヨタまで入り乱れた異種格闘技戦の様相です。「三流の東芝」と「一流の半導体」。その最前線を切り取りました。

 二つの巨人のM&Aはもはや劣勢に立たされた2社の焦りそのものだった。

 米インテル、米クアルコムという半導体業界のツートップがそれぞれ3兆円、5兆円という巨額買収に動いた。だが、業界関係者の目は冷ややかだった。
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 2017年3月。インテルは、自動運転分野での競争力強化を狙い、イスラエルの自動運転ソフトウエアメーカーのモービルアイを買収した。投じたカネはモービルアイの売上高の42倍の1.7兆円。「超高値つかみ」だ。インテルはつい2年前、注力するデータセンター事業で自社製品を補完する技術を持つファブレス(工場を持たない)メーカーの米アルテラを、2兆円で買ったばかりだ。

 一方、スマートフォン向け半導体トップのクアルコムも負けていない。半導体史上最高額の5.5兆円を投じ、オランダのNXPの買収を決めた。手薄な車載関連事業の強化が狙いだ。

 ところが、トップ2社の巨額買収に市場や業界は冷ややかな目を向ける。これらの買収発表に株価はほとんど反応せず、クアルコムに至っては、5月現在でNXP株主の17%からしか株式を買収できていない。「買収は頓挫する」と読む向きも多い。

日本型垂直統合から水平分業型を経てアップル型垂直統合

 2015年と16年は、70年に及ぶ半導体の歴史の中でも、最も大量の札束が買収などをめぐって飛び交った年だった。その額、2年で20兆円にもなるという。なぜこうした大再編が起こるのか。それは「ゲームのルール」が変わってきているからだ。

 下図を見てほしい。1970~80年代の家電・大型コンピューターの時代には、部品の製造から完成品の組み立てまでが総合電機メーカー1社の中で完結していた。

 半導体製造についても同様に、設計と製造の全てを自社で行う総合半導体メーカーが席巻した。いわば「日本型垂直統合」だ。

 そして95年以降普及したパソコンと携帯電話の時代。業界には「水平分業」方式が広まる。

 ここで登場したのが、半導体の“設計専業”のファブレスメーカーと“製造専業”のファウンドリー(製造受託)企業だ。クアルコム、アルテラは前者。彼らの設計した半導体の製造を請け負うのが後者。台湾TSMCが代表格だ。

 さらに大きな転換点が07年に到来した。米アップルのiPhoneが登場したのである。

 アップルは、「アップル型垂直統合」とでも呼ぶべき、70年代とは全く異なる、バリューチェーンの垂直統合を果たしている。

 顧客のデータを管理するためのデータセンターを整備し、iTunesなどのプラットホームを持ち、OSを作り、スマホのCPU(中央演算処理装置)を設計する。今やアップルは半導体メーカーとして、16年の世界ランキングの17位に入っているほどだ。

 この世界ランキングでは上位20社のうちの5社がファブレス、2社がファウンドリーだった。