トランプ劇場が引き起こす
地政学的「玉突き現象」

 『週刊ダイヤモンド』1月28日号の第一特集は、「劇変世界を解く新地政学」です。傲岸不遜な言動を繰り返す米国のドナルド・トランプ大統領の新政権がいよいよ船出しました。世界最大の大国を率いて向かうのは、混沌の劇変世界です。

 新政権中枢には共和党保守派の政治家をはじめ、ビジネスマン、軍人が混在している。まだ統制が取れているとはいえず、明確な航路は見えてきません。

 ただ、言えることは、「ビジネスマンはむき出しの利益を追求し、軍人はむき出しの力を行使する」(細谷雄一・慶應義塾大学教授)。そして保守派はわが道を突き進むということです。

 とすれば、新政権はこれまでの米国が高いコストを払って維持してきた「国際秩序」なるものに関心を示さなくなるのは必然。今後は「価値より利益」「理念より取引」の思考回路で、むき出しの国益を追求することが米国外交の軸になります。すなわち、暴君が言う「米国第一主義」です。

 その先に待ち受けるのは弱肉強食のパワーゲームでしょう。参考事例があります。第1次世界大戦後のこと。米国主導で国際連盟を設立しながら、米国は加盟せず、欧州の安定に関与しなかった結果、ナチス・ドイツの台頭を許し、第2次世界大戦が勃発しました。

 同じ悲劇にたどり着くのでしょうか。唯我独尊のトランプ劇場は世界中で、さまざまな地政学的な“玉突き現象”を引き起こすことが予想されます。

 権謀術策がめぐらされた国際政治において、“メジャーリーガー”は米中ロの3カ国しかない、と宮家研究主幹は指摘しています。

 トランプ大統領はまず、中ロの独裁者2人に正反対の対応を取るとみられます。米国に代わる覇権国の座を狙う中国の習近平国家主席にはこわもてで臨み、反IS(イスラム国)で共闘するとみられるロシアのプーチン大統領とは握手を交わす、といった具合です。

 メジャーリーグ内の構造変化は、EU(欧州連合)や日本、中東の地域大国などが所属するマイナーリーグにも伝播し、各国を翻弄します。トランプ前とトランプ後で世界は一変するのです。

 本特集では歴史に学びながら、地政学的な観点から劇変世界を解き明かしていきます。