変わる労基署のターゲット 標的は現場からエリート職場へ
『週刊ダイヤモンド』12月17日号の第1特集は「労基署が狙う」です。
労働問題の番人たる労働基準監督署の“標的”が、にわかに変わっています。これまで労基署の重点ターゲットといえば、建設現場や工場の作業員、そして長時間運転のトラック運転手といったブルーカラー職場が定番。労働者の命に関わる安全管理の観点から監督指導するのが伝統的な仕事でした。
ところがここ最近、労基署が急速にホワイトカラー職場へと軸足を移していることが分かりました。
現場での労働災害が減少していることも影響していますが、それ以上に労基署を取り巻く環境が一変したことが大きいでしょう。変化を読み解くキーワードは「長時間労働の是正」です。
記憶に新しいのは、世間に長時間労働の実態を知らしめた広告代理店最大手の電通の過労自殺問題ですが、それはきっかけの一つにすぎません。
今まさに首相官邸が推進している「働き方改革」は、日本企業で常態化している長時間労働の是正が一丁目一番地です。2014年11月には過労死防止法が施行され、厚生労働省はその元凶たる長時間労働の撲滅に注力中です。また継続審議中の労働基準法改正案の中身が長時間労働を助長しかねない、と危惧する声も上がっています。
こうした流れが大きなうねりとなり、是正の機運がかつてないほど高まった結果、長時間労働が常態化しているホワイトカラー職場へと押し寄せているのです。
東京労働局の岩瀬信也労働基準部長は「2年前に潮目が変わり、ホワイトカラーの長時間労働に着眼した監督指導が求められている」と労基署の新潮流を解説してくれました。
長時間労働対策にかじを切った労基署は従来の重点対象に加えて、会計士や研究員、投資銀行マンなど、深夜残業が当たり前だったホワイトカラーのエリート職業にも積極的に手を広げ始めました。こうした職場の中には想像を絶する過重労働を強いているところもあり、労基署の取り組み自体は正しいと言えます。
ただ、長時間労働が減ることは残業の減少に直結します。
ある業界では、社員の長時間残業に依存したビジネスモデルの崩壊リスクが危惧され始めました。さらに一般のサラリーマンにとっては、残業代の減少が年収減につながるリスクも浮かびます。
本格的に動き始めた長時間労働是正の取り組みは、日本にいかなる影響を及ぼすのでしょうか。本腰を入れる労基署と翻弄される企業。双方の視点から掘り下げていきます。