『週刊ダイヤモンド』10月22日号の第1特集は「退職金・年金 知りたくなかった禁断の数字」。退職金はここ10年で平均額が激減し、公的年金も支給額の抑制が待ったなしの苦境にあります。老後生活の2本柱に何が起こっているのか。その裏側に迫るとともに、自らの力で資産を積み立て、退職金を守り増やすすべを徹底解説します。

 みずほ銀行の元支店長も、パナソニックの元部長も、日本ペイントの元部長も、皆が同様のことを口にした。

「これから会社を辞める後輩たちは、私がもらった退職金額を望むことはもうできない」と──。

 企業が定年退職を迎えた社員たちに支払う退職金。その金額が減少し続けているという。グラフ①を見てもらいたい。2008年と13年で退職金の金額の分布を企業規模別に比較したものだが、多くが下方にシフトしており、1000人以上の大企業については上位層も下位層も500万円以上急減している。給与水準の低下を大きく上回る落ち込みを見せているのだ。

 それどころか、グラフ②を見ると、退職金の制度自体を廃止している会社が急増している。国の老後保障などが脆弱だった時代に導入が本格化した退職金制度は、従業員の長期勤続や優秀な社員の採用、そして退職後の生計を支える目的で日本企業に定着し、1970年代から90年代にかけては9割もの企業が導入していた。

 ところが、「2000年代に入って減少に転じ、13年は75・5%と半世紀で最低水準に落ち込んだ」と、りそな年金研究所の谷内陽一マネージャーは警鐘を鳴らす。今や4社に1社は制度がないという悲惨な時代になっているのが実情であり、退職金制度は大きな曲がり角を迎えている。

 

退職金が成果主義化
「ポイント制」の導入で落ち込み

 そもそも、なぜ退職金は急減しているのか。その裏には「退職金制度の成果主義化」がある。

 90年代半ば以降、多くの企業が年功序列的な賃金制度を見直し、成果に応じた賃金制の導入が急速に進んだ。実は退職金についても、大企業を中心にこうした「成果主義化」が広がったのである。

 具体的には、退職時の基本給を基に退職金を算定する「退職時給与連動方式」から、社員の役職や業績に応じたポイントを積み上げて退職金を算定する「ポイント制」への転換が図られたのだ。

 グラフ③の通り、大企業に限れば、ポイント制を導入している企業は99年には16・3%にすぎなかったのに、直近の調査では65%以上が導入済みだ。

 その過程で、業界によっては再編・合併が相次ぎ、ポストが減った企業も少なくない。さらに成果主義の進展で、管理職になれないまま定年退職することも珍しくなくなった。その結果、ポイントが積み上がらず、退職金が低く抑えられるサラリーマンが続出したというわけだ。

 時を同じくして、企業年金の統廃合が急速に進んだことも退職金の減少に影響したとされる。  

 人事コンサルのベクトルの秋山輝之副社長は「企業年金の統廃合の際、運用環境の悪化もあって退職金を低く抑える制度見直しがあり、実態値が下がった」と指摘する。大手の場合、この10年で計1000万円近くも減少したという。

 実際、旅行大手の日本旅行を数年前に定年退職した元課長は「ポイント制が導入されてからは、年々退職金が減っている印象がある」と打ち明ける。

 当然、出世した社員とそうでなかった社員の退職金の社内格差も拡大した。ポイント制定着前には同期の間で退職金にそれほど差はつかなかったが、ポイント制に完全移行した企業の場合、上位層と下位層で2倍程度に開いているという(グラフ④参照)。

退職金の実情は    ブラックボックス

 出世すればするほど退職金ポイントは積み上がっていくが、逆もまたしかり。手厚い退職金を受け取れるのは今後、ごく一部のエリート社員に限られていくことになりそうだ。

 なんとも世知辛い世の中である。サラリーマンの間で不満が高まってもよさそうなものだが、退職金に対する世間の関心は低い。

 メガバンクの中堅行員は「誰がどのくらいの額をもらえるか全く分からない。完全なブラックボックスだから議論のしようがない」と話す。大半の企業は退職金の詳細について非公表であるがゆえに、その実態はベールに包まれたまま。このままでは、知らぬ間に虎の子の老後資産が減少を続けことになりかねない。