週刊ダイヤモンド5月14日号の第1特集は「カリスマ退場 流通帝国はどこに向かうのか」。4月7日、セブン&アイ・ホールディングスの鈴木敏文会長が突然の退任を発表、業界は騒然となりました。しかも、退任会見は冒頭から異例ずくめ、退任理由も定かではありませんでした。なぜなら、その裏には事実上のクーデターが存在し、鈴木会長は「はめられた」ことに気付いていたからです。

「お恥ずかし過ぎて申し上げられませんけれども、獅子身中の虫がおりまして、いろいろなことを外部に漏らしていたのは事実でございます」

 4月7日。セブン&アイ・ホールディングス会長の鈴木敏文は、どこかをにらみ付けるような厳しい表情を浮かべながらこう語った。

 この日、鈴木は、決算会見に急きょ参加、「全ての役職から身を引く」と、退任の意思を明らかにした。セブン&アイの〝天皇〟と呼ばれた「流通最後のカリスマ」の退任に、業界は騒然となった。

 鈴木が大きな決断を下したきっかけ、それは中核子会社のトップ人事をめぐる対立にあった。

 鈴木は、セブン-イレブン・ジャパン社長の井阪隆一の解任案をセブン&アイの取締役会に提出。その結果、賛成7、反対6、白票2となり、賛成票が過半数に届かなかったため否決された。

 カリスマ・鈴木敏文の意見が通らないこと自体、同社にとっては前代未聞のこと。「反対票が社内から出るようならば、もはや信任されていないと考えた」鈴木は、取締役会が終わるや、「今日、引くよ」と引退を決めた。

 だが、この段階で鈴木は分かっていたに違いない。完全に外堀を埋められ、「詰んでしまった」ことを。なぜなら、今回、鈴木を追い込んだのは、「獅子身中の虫」たちが周到に準備していた、事実上の「クーデター」だったからだ。

創業家とサード・ポイントで2割の株を押さえる

 クーデターの中で、まず重要な位置付けとなったのが、創業家である「伊藤家」だった。創業者でセブン&アイ名誉会長の伊藤雅俊は、人情味溢れる人格者として有名。「資本と経営の分離」を明確にし、鈴木の経営には一切口を挟まなかった。

 そんな伊藤家に、昨年あたりから頻繁に出入りし、社内の実態について吹き込んでいた社員たちがいる。〝天皇〟のように振る舞う鈴木に対し、普段から不信感を募らせていた「虫」たちだ。

 とはいえ、伊藤は人格者。たしなめることはあっても、行動はしなかったはずだ。ところが伊藤家にも変化が起きていた。セブン&アイの幹部は、「伊藤も92歳と高齢。実際には伊藤の長女が権力を握っていた」と明かす。

 これは、鈴木が会見で述べていた「これまで良好な関係にあった。けれどここにきて、急に変わった。世代が変わった。抽象的な言い方だが、それで判断してもらいたい」との言葉と符合する。

 社外取締役の助言に従い、会社側が人事案についての承諾を求めに行ったもののはんこをついてもらえなかった。社内では、「虫」たちの言葉を聞いた長女が、鈴木にノーを突き付けたとみられている。

 伊藤家は合計9.67%の株式を保有する大株主。伊藤家の反旗に鈴木はじわりと追い詰められた。

 そこに、タイミング良く現れたのが「物言う株主」である米投資ファンドのサード・ポイントだ。 

 彼らは、昨年春ごろからセブン&アイの株を買い始め、「セブン-イレブン以外の企業は切り離し、コンビニ専業会社になれ」とセブン&アイに迫った。 

 しかし、セブン&アイの動きは鈍かった。イトーヨーカ堂などの店舗閉鎖こそ発表したものの、事業会社の切り離しなど検討している気配さえなく、サード・ポイントをいらつかせた。

 そんなサード・ポイントの登場に、チャンスとばかりに目を付けた「虫」が「複数いた」(関係者)。やはり、鈴木のやり方に不満を持ち続け、改革すべきだと考えていた人たちだ。彼らは、「人事を含む、社内の重要情報をサード・ポイントにもたらしていた」(同)という。

「虫」たちの狙いは二つあった。まずは「資本の論理」で経営の実権を握ることだ。

 サード・ポイントはセブン&アイの株をひそかに「8%程度」(市場関係者)まで買い集めていた。それに同調するファンド、そして伊藤家の持ち分を合わせれば約2割に達する。鈴木の持ち株比率は1%にも満たないため、大株主を味方に付けられれば、鈴木のワンマン経営に終止符を打てる。

 もう一つは文字通りの「鈴木降ろし」だ。鈴木の〝暴走〟を伝えれば、サード・ポイントは動くと踏んでいたのだ。実際、3月27日にセブン&アイの取締役に宛てた書簡において、「うわさを聞いた」という枕ことばを付けながら、鈴木らが内々に進めていた井阪の解任案を暴露する。 

 そして、鈴木の次男である康弘を「将来のセブン-イレブンの社長に、そしてやがてはセブン&アイのトップに就く道筋を付けるため、井阪の後任は暫定とのうわさも聞いた」と、次男への世襲をけん制。書簡はすぐさまマスコミにもばらまかれ、鈴木に揺さぶりをかけた。

 これで外堀は埋められた。後は鈴木の喉元にあいくちを突き付ける〝役者〟が必要となる。そこで「虫」たちが選んだのが、セブン&アイの社外取締役で、指名・報酬委員会委員長の一橋大学大学院特任教授、伊藤邦雄だったのだ。

カリスマなき流通帝国はどこへ向かうのか

 週刊ダイヤモンド5月14日号の第1特集は「カリスマ退場 流通帝国はどこに向かうのか」です。最高益を続け、絶好調だったはずのセブン&アイ。しかし、鈴木会長の突然の退任劇によって大きく歯車が狂い始めました。

 その背景には社内外にいた「獅子身中の虫」たちが仕掛けた事実上のクーデターが存在しました。しかし、このクーデターは成功したとは言い難い面もあります。その理由、そして鈴木会長はどこでつまずいてしまったのか、特集を読んでいただければ全て分かります。

 また、鈴木会長というカリスマがいなくなったセブン&アイはどうなってしまうのか、社内を始め取引先やセブン‐イレブンのオーナー、そしてライバル各社に至まで多角的に取材、徹底分析しました。

 そして、退任劇の末に、セブン&アイのトップに就任することになった井阪隆一氏に独占インタビューを敢行。今回の騒動を受けた社内の様子、そして今後の舵取りについてずばり聞きました。

 流通業界の最大手、セブン&アイに起きたこと、そして将来が余すところなく描かれています。是非、ご覧ください。