2015年の春、東京都内の通信会社で働く38歳の山本浩さん(仮名)は、得意げな口調で、こう話していた。「投資は簡単です。歴史的な底値で買って、周囲が投資に関心を持ち始めたら売る。これだけです」。
山本さんは株価が低迷した2000年代、投資をしようか迷い、結局乗れなかったことを後悔していた。「だから、リーマンショック後には迷わず大量のETF(上場投資信託)を買いましたね」。
なんと山本さんは、資金の1500万円全てを株価指数連動型のETFにつぎ込んだ。数年間保有し、14年に全てを売却。利益はなんと1000万円を超えた。
だが、この秋に再び会ってみると、なにやら表情がさえない。
14年に全てのETFを売却した後、日経平均株価が再び1万円を切るまでは投資はしないと決めていた山本さんだが、8月以降の株価急落を見て、居ても立ってもいられなくなってしまったという。
個人投資家が「日経平均レバレッジ・インデックス連動型上場投信」(日経レバ)でかなりもうけていると聞いて、がぜん興味が湧いてきたのだ。
日経レバは日経平均の2倍の値動きに連動するよう設計されているETFだ。日経平均が下落しているときに買って、反発したときに売れば大きく稼ぐことができる。
ところが、8月に底値とみて大量に日経レバを購入したところ、そこからさらに相場が下落したのが大きな誤算だった。
目先のもうけ話に目がくらんで、自分を見失ってしまった山本さん。代償は大きく、100万円ほど損失が出てしまった。怖くなった山本さんは現在、300万〜400万円のみを運用しているが、それでも、取材時には十数万円の含み損があり、「投資はしばらくお預けにするかもしれない」とつぶやいた。
行動経済学で検証!投資家が陥りやすいワナ
山本さんのような「負け組」の投資家が現れるのは、今回の乱高下が特別だったからではない。投資家は常に、同じような失敗を繰り返しているのである。その失敗を行動経済学の視点から検証し、アドバイスしているのが、経済コラムニストの大江英樹さんだ。
「底値だと思って買ったらもっと下がった」という山本さんの行動は、行動経済学的に分析すると、「現状維持バイアス」のわなに陥っている。これは、特に根拠がないにもかかわらず、今と同じ状況が続いていくと思い込んでしまうこと。
株価の上昇が続いているときに、それがずっと続くと思い込み、資金をどんどん投入し、最後に急落した際に大損するような場合だ。
株価が下落して含み損が拡大しているのに、含み損が小さくなることを期待して損切りせず、保有し続けてしまう。誰しも身に覚えがあるのではないだろうか。
これは、プロスペクト理論の「損失回避」という心理状態。投資家が最も陥りやすいわなの一つだ。この考え方によると、損した金額ともうかった金額がたとえ同じ場合でも、損した悔しさの方がもうかったうれしさよりも2倍大きいという。
それ故に、利益が出ている局面ではそのもうけを確実なものにしたいという欲求が強く、逆に損をしているときには、何とかその損をなくしたいという気持ちから賭けに出たがる。
特集本編では、このほかにも「狼狽売り」や「高値掴み」をしてしまう心理状態を解明し、大江さんがそうしたわなに陥らないための処方箋を提示しています。ぜひご覧ください。
最新決算から厳選 買っていい株・いけない株
『週刊ダイヤモンド』2015年11月28日号第1特集は、「上場1500社の正しい株価」です。乱高下相場では、時として株価はマクロ環境や企業業績とは乖離して動きます。株価が急落したのであわてて保有株を投げ売りしたら、その後しばらくして株価が元に戻って後悔した、という人も少なくないでしょう。
こうした「狼狽売り」を避けるには、その銘柄の正しい価値を知っておく必要があります。そこで本特集では、最新決算を基に、上場1500社の「正しい株価」(=理論株価)を算出しました。
理論株価とは、企業の現在の利益水準が生み出す価値と、株式市場がその企業に期待している将来の成長分の価値を合計して算出したものです。これから買おうと思っている銘柄、すでに保有している銘柄の「正しい株価」をぜひチェックしてみてください。
さらに、理論株価と業績を基に、「買っていい株」「買ってはいけない株」も選び出しました。お宝銘柄満載の「狙い目の中小型株」と合わせて、銘柄選びの参考にしていただければ幸いです。
専門家に聞いた2016年末までの相場見通しによれば、日経平均株価は16年5〜6月にかけて最高値をつけそうです。企業業績の拡大が続くこと、参院選前の景気対策が見込まれることなどが理由です。
郵政3社の上場で、相場は足下ではやや落ち着きを取り戻した感があります。大荒れ相場で様子見をしていた方も、新たに投資を始めようと思っている方も、ぜひ本特集をお役立てください。