『週刊ダイヤモンド』11月21日号の第1特集は「マイナンバー最新対策」。この10月下旬からマイナンバーの通知がスタートしました。2016年1月からは税・社会保障分野で利用が始まり、すべての企業がこれに対応をしなければなりません。ところが、その現場では戸惑いが広がり、悲鳴さえ上がっています。その実態をつぶさに追い、企業がこうした混乱に巻き込まれないための「最新版対策」をご紹介します。

 10月30日、千葉県の浦安市役所に届いた簡易書留の膨大な数に、担当職員はあぜんとさせられた。

 その数、約1000通。封筒には、市内の約1000世帯に向けて発送された社会保障・税番号(マイナンバー)の「通知カード」が収められている。

 同市では全国に先駆けて同月23日から郵便局員による配達が始まった。

 しかし不在などの理由で宛先の住人の手元に届かなかった書留は、郵便局で原則7日間保管した後に順次、市区町村役場に送り返されることになっている。

 11月に入ってからも、浦安市役所には毎日のように数十通から数百通の書留が届き、10日時点で約4000世帯分に達した。すでに市内約7万5000世帯の5%を超えたが、「未達」の書留はさらに増え続ける見込みだ。「最終的にどのくらいの未達が出るのか、全く予想がつかない」と職員は頭を抱える。

 日本郵便によると、11日までに全国で配達した720万通のうち、4・3%に相当する31万通が未達だった。配達量が増えるにつれ、未達数が今後も積み上がるのは必至だ。今のところ、全国民の1割程度しか通知カードは届いていない。

 なぜ大量の未達が出るのか。

 そもそも浦安市のような都市部では、住人の帰宅時間が遅かったり長期出張中で書留を受け取れなかったりするケースが多い。また、宛先は10月5日時点の住民票の住所のため同日以降に転居した場合、住民票を移していても最初は旧住所に送られてしまう。

 通知カードの書留は「転送不要」のため、郵便局に転送届を出していても自動的に役所に送り返されてくるのだ。

 そこで市は通知カードを保管している旨を記した封書を近く発送し、役所に取りに来てもらうか、要望があれば書留で再送する方針だ。普通郵便で封書を送れば転送先住所に行き着くので、住人の所在を〝追跡〟できる。

 それでも連絡が取れなかった場合、通知カードを送り届ける作業は困難を極める。役所での保管期限は最短3カ月間。多くの自治体では専従の職員チームを編成し、所在不明者の行方を追うべく臨戦態勢を取る。

 そんな中で聞こえてくるのは、国への恨み節だ。自治体職員は、総務省の事務処理要領を参照しマイナンバー制度への対応を行うが、この要領の最終版が確定したのは法施行直前の9月末だった。職員は「想定外の事態を考える余裕もなく、要領を読み込みながら実務を同時に進めている」(神奈川県のある自治体職員)というドタバタぶりだ。

 しかし「想定外」の事態は早くも起こっている。

 千葉県内の介護付き有料老人ホームでは、住民票を自宅から施設に移した入居者の通知カードが届き始めた。しかし施設入居者の中には判断能力が低下し、マイナンバーを自ら管理できない高齢者も多い。実は、介護施設が入居者のマイナンバーをどう取り扱うかいまだにルールが定まっていない。留意点をまとめた事務連絡は、厚生労働省が10月中をめどに通知する予定だったが、「関係各所の調整に時間がかかっている」(厚労省保険計画課)として遅れているのだ。

 施設職員は「ルールがはっきりしないので勝手に家族に渡すわけにもいかない。結局、開封しないまま金庫に保管している」。国の方針決定の遅れで現場に混乱が生じているのだ。

 通知カードは、地方公共団体が共同運営する「地方公共団体情報システム機構」(J-LIS)が作成し、全国各地の郵便局へ発送する手順になっている。しかし全国の郵便局が引き受ける予定の5600万通のうち、11月11日時点で実際に届いたのは4割程度にすぎない。

 1億2000万枚という全国民の通知カードを一度に印刷するには、業務を担う国立印刷局の既存施設ではキャパシティに限界があり、印刷や封入が終わっていない通知カードが大量にあるためだ。

 国は11月中に全世帯への初回配達を終える目標だが、仮に郵便局に通知カードが届いたとしても、そこから局内での仕分けや確認作業を経て実際に配達を完了させるには、引き受けから7〜20日間を要する。横浜市や大阪市など大都市の郵便局に通知カードが届くのは11月中旬以降とみられ、「11月中」という政府の目標達成はほぼ絶望的な状況なのだ。

 こうした通知カードの配達遅れは民間企業にとっても死活問題となる。