『週刊ダイヤモンド』11月14日号の第1特集は「誰がテレビを殺すのか」。「娯楽の王者」だったテレビが今、その存在意義を問われようとしています。「負のスパイラル」にはまり込み、その間にインターネットの動画配信が台頭してきたためです。テレビを殺すのは一体誰なのか、その実情に迫りました。 

「枠の買い切りについて、今回は見送らせてもらいたい」

 9月上旬、広告代理店最大手・電通から入った連絡に、お台場のフジテレビ社内で動揺が広がっていた。代理店と蜜月のはずだった関係性が、大きく変容し始めた瞬間だった。

  枠の買い切りとは、特定の番組に流す広告枠を、代理店がテレビ局から直接購入することを指す。代理店は通常、広告を出したい企業と枠を売りたいテレビ局をつなぐことで、10~20%程度の手数料を得ているが、買い切りにすることで、広告枠を割安に“仕入れる”ことができるのだ。
 
 安く仕入れた分、たくさん広告主がつけば、手数料を上回る利益が代理店側には入る。一方で、広告主が思ったようにつかなければ、最悪、代理店側の赤字になってしまうわけだ。

 フジテレビの関係者によると、今年4月に全番組の3割超を入れ替えるかつてない大型改編に踏み切った際、電通や博報堂による「買い切り枠は全体の3割前後はあった」という。

 ただ、「それまでの低視聴率で広告主が思うようにつかず、赤字になった枠があった」と関係者は声を潜める。

 業界では、番組に対して提供をする「タイム広告」が埋まらなかった場合、単発の「スポット広告」として売りさばいたり、自社の番組宣伝を入れて埋め合わせたりしている。それでも足りない場合は、今後の取引関係を考えて、広告主からCMの素材だけをもらって、タダで流すといった悲惨なケースもあるという。

 フジの場合、それ以前から買い切り枠の赤字が散見されたものの、代理店側は長年の取引関係を踏まえ、必死になって支えてきた。一方で、視聴率の低下に歯止めがかからず、広告主から見限られるような状況に、代理店側としてもこれ以上赤字を被るようなことはできないと、業を煮やしたというのが冒頭の事例だ。
 
 折しも9月は、10月の番組改編を控えて、現場が必死になって新番組の制作にあたっている時期だ。一部は初回の収録を終えて、これからという時期での「通告」だっただけに、フジに衝撃が走ったのも無理はない。しかも、買い切りを断念したのが、10月改編の目玉となる、日曜日のゴールデン帯の番組だったことも痛手だった。

 フジは現在、「日曜ファミリア」という番組名で、日曜午後7時から午後10時まで、3時間の特番を放送している。

 9月に実施した番組改編説明会で、宮道治朗編成部長は「裏局(同じ時間帯で流れている他局の番組)との闘いを制すべく、かなり面白いラインナップが並んでくる」と意気込みを語っていた。

 ただ、日曜夜は、日本テレビが「ザ!鉄腕!DASH!!」や「世界の果てまでイッテQ!」など、視聴率が民放トップを走るような番組がずらりと並ぶ時間帯だ。そこに、フジは毎週内容が変わる特番で果敢に攻め入ったわけだが、代理店側の予想通り、視聴率はひとケタ台の低空飛行が続いてしまっている。
 
 そもそも、広告主にとって毎週内容が大きく変わる番組は、年齢層など視聴者の顔が見えにくいため、敬遠しがちだ。フジとしても、その点を十分理解した上での編成だったのだろうが、代理店に見放されるとまでは想定していなかったようだ。

フジテレビが開局以来の営業赤字!

『週刊ダイヤモンド』11月14日号の第1特集は、「誰がテレビを殺すのか」です。本特集の締め切り直前に発表された、2015年4~9月期のフジテレビの決算は、開局以来初めて営業赤字に陥りました。

 視聴率の低下で広告費用が前年同期比で5%以上落ち込む中でも、番組制作費を同7%近くも増やしたことが主因です。自分たちの想定以上に広告主がつかなかったとはいえ、苦しい状況の中でそこまで制作費を増やす必要性が本当にあったのでしょうか。

 他の民放から「丼勘定で経営しているのでは」との声が出ていますが、フジが反論できる材料は多くありません。

 かつての王者でさえ、経営のかじ取りを少しでも間違うと、赤字に転落するという厳しい市場環境の中で、地方局は言わずもがな、さらに苦しい経営を迫られています。

 今後、キー局の系列を軸にした再編は必至とみられており、本特集では地方122局の財務データを基に、「経営苦境度ランキング」を作成しました。自分の地元テレビ局は、一体何位に入っているのか。ランキングを眺めることで、実情を知る良いきっかけになるかもしれません。

「娯楽の王者」だったテレビを殺すのは、台頭するインターネットの配信事業者か、それとも地上波という牙城に安穏としてきたテレビ局の経営陣か、はたまた全く違う第三勢力なのでしょうか。業界の現状と展望を探った本特集を、是非、ご一読ください。