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逮捕もガサ入れもできる
司法警察官「労働Gメン」
「午前9時、労働基準法第24条違反で被疑者を逮捕、身柄を拘束しました」
千田成人・労働基準監督官は、そう言って被疑者に手錠をかけた。茨城県水戸市で製造業を営む中小企業の経営者を、労基法違反、従業員への賃金未払いの容疑で逮捕した。過去にも賃金未払いで送検されており、今回も度重なる是正勧告にも聞く耳を持たず、悪質だと判断されたのだ。
被疑者は、体重100kgはあろうかと思われるほどの巨漢。その筋の人だった。「普通に恐ろしかった」と千田監督官は言う。
幸いなことに、被疑者は暴れることもなくおとなしく車に乗ってくれた。車の後部座席の真ん中に被疑者、両サイドを監督官で挟み、警察署へと向かった。緊張した面持ちで運転する監督官とは対照的に、被疑者は軽口をたたいていた。「こっちのルートの方が、警察へは近道だ」。
何度もしょっぴかれているのだろう。警察署に着くやいなや、警察官たちが「あいつか」と納得したような顔をしている。明らかに、監督官たちよりも被疑者の方が〝逮捕慣れ〟していた。
逮捕に先立ち、千田監督官らは、3日3晩張り込みを続け、被疑者の行動を監視していた。警察に取調室や留置場を借りて捜査し、送検した。千田監督官は、任官23年目のベテランだが、逮捕事案に遭遇したのは1回だけ。送検レベルではなく、逮捕にまで至るケースは極めて珍しい。
日本全国には、3198人の労働基準監督官がいる。監督官とは、労働者の最低労働条件や職場環境を守るために、労働基準監督法令に反する経営者を取り締まっている、労働Gメンだ。
身分は厚生労働省の職員、国家公務員である。ユニークなのは、行政官でありながら、司法警察官として犯罪捜査を行ったり、被疑者を逮捕したりと、強大な権力を持っていることだ。むろん、行政官としての権限も強い。予告なく事務所や工場に立ち入ったり、従業員に尋問したりできる。
知られざる労基署を大解剖&
対労務問題の最強マニュアル
『週刊ダイヤモンド』12月20日号の巻頭特集は「労基署がやってくる!」です。労働基準監督署は労働監督行政を担い、実働部隊である労働基準監督官は「臨検監督」と呼ばれる立ち入り調査で違反がないかを調べます。特集で企業に労務実態に関するアンケート調査したところ、上場会社237社のうち180社、つまり76%が臨検監督を受けていました(2009年以降)。
臨検には幾つか種類があり、従業員などからの垂れ込みを受けて行うものは「申告監督」と呼ばれます。アンケート調査では26社がこの申告監督を受けていました(2009年以降)。
悪質な違反が発覚すれば、逮捕や送検も行われます。税務署よりも目立たないけど、実は権限を持つ怖い存在。そんな労基署を大解剖しました。最新の労務トラブルも徹底研究し、会社、労働者、管理職それぞれの戦い方を盛り込んでいます。
詳細なコンテンツは▼初調査!上場237社労務実態アンケート▼「労働基準監督官」密着ルポ▼「ダンダリン」原作者&監督官の覆面座談会▼労基署が狙い撃ちする5大条件&目を光らせる業種▼労働問題の”デパート” ワタミ是正勧告の全容▼「メンタル」「追い出し部屋」「みなし労働」三大労務訴訟判決で一変した労務対策の常識▼「臨検」を完全コピーした大和ハウスの組織防衛術▼労働問題に強い弁護士リスト――などなど。
ブラック企業転落は紙一重。あなたの会社は大丈夫ですか? 労働基準監督官はある日突然やってきます。