大義なき選挙と批判される今回の解散総選挙。『週刊ダイヤモンド』の人気政治コラム「永田町ライヴ!」の後藤謙次氏が、本特集のために書き下ろした特別版で、今回の解散総選挙の真の狙いに迫る。

「平地に乱を起こす」という言葉そのままの第47回衆議院選挙が2日に公示された。首相の安倍晋三が衆院の解散を明言したのが11月18日。しかも前回衆院選からまだ2年。全てが異例といっていい。誰もが想定しなかった意表を突いた師走選挙に込められた安倍の狙いは何か。その中にこそ安倍が目指す政権戦略の核心がある。

 安倍は解散権を行使する理由について税率10%への消費税増税の実施時期を法律で定められた2015年10月から1年半先送りすることを挙げた。

「国民生活に大きな影響を与える税制で重大な決断をした以上、国民の声を聴かなければならないと考えた」

 12年8月の民主、自民、公明の3党合意による「社会保障と税の一体改革」の根幹部分を変更するには、国民有権者のお墨付きが必要というわけだ。

 だが、消費税法には景気弾力条項があり、政府の判断で法改正すれば先送りできるため、わざわざ国民に信を問う必要はない。

 ましてや自民、公明の与党は衆参両院で圧倒的な議席を有しており、なおさらのことだ。つまり安倍の本当の目的は消費増税の先送りにあるのではなく、解散権の行使そのものにあったとみるべきなのだ。

 現に衆院が解散された直後だったが、安倍は周辺に解散権を行使した本音の一端を明かしている。

「消費増税を18カ月(1年半)先送りするのは大変なことだ。財務省や自民党税調は命懸けで増税すると言っていた。これをつぶすには解散しかなかった。解散をしなかったら大政変になっていた」

 解散をせずに通常国会に先送り法案を提出した場合、その法案の成否をめぐって国会が混乱し、権力闘争に発展する可能性を安倍は感じ取っていたのだ。

 この発言からも推察できるように安倍が警戒しているのは野党ではない。権力闘争の「仮想敵」は自民党内と財務省を中心にした霞が関だったことをうかがわせる。そこから見えてくる安倍の真の狙いは、「永田町と霞が関の平定」だ。

 後藤氏の筆はこの後、さらに激しさを増し、冴え渡っていきます。

アベノミクスは完全に失敗している
日本の最優先課題は少子化対策だ

 グローバルで活躍する経営コンサルタントの大前研一氏は、今回の大義なき解散総選挙を「みっともない」と切って捨てます。われわれが選挙で問うべき本当の「日本の論点」は何なのか、お聞きしました。

──今回の解散総選挙をどのように見ていますか。

 みっともなくて、コメントする気にもならないくらいひどい。

 アベノミクスがうまくいっているのであれば、来年10月に予定通り消費増税を実施すればいい。それを先送りするというのは、うまくいっていない、という認識が安倍(晋三)首相にはあったはずです。それにもかかわらず、「この道しかない」といってアベノミクスの信任を問う選挙をするのは、論理的に完全に矛盾しています。

 こんなことがまかり通るのは、安倍首相が野党を、ひいては国民をなめているからです。

 年末から来年にかけて、アベノミクスの失敗を示す惨憺たる数字がぞろぞろ出てくる。来年以降、選挙はできないでしょう。だったらいまやっておいて、あと4年の任期を確保して(これまでの2年と合わせて)6年やろうという魂胆です。その間に、自分が本当にやりたいこと、「戦前の強い日本を取り戻そう」ということでしょう。

 安倍首相は、本当は経済になんか興味はありません。やりたいことはほかにある。しかし、経済政策を建前にして選挙をやろうとしている。非常にひきょうなやり方だと思います。

──本来、選挙で争点にすべき日本の喫緊の課題は何でしょうか。

 間違いなく、少子化です。日本は先進国の中で最も早く人口ボーナス期が終わり、人口オーナス期に突入しました。放っておくと、就業人口が年間30万人ずつ減っていきます。すなわち、税金を払う人が減っていくということです。

 世界最大の政府債務を抱えているのに、税収は減っていく。それでは返済できるわけがありません。日本を揺るがす財政問題の震源には、少子化問題があるんです。

 安倍首相は、少子化について三つのことを言っています。

 第一に、合計特殊出生率を1.41からできれば1.8ぐらいにしようということ。ただ、2にならないと少子化は止まりません。

 第二に、これはネガティブな発言ですが、移民政策についてです。普通の国なら、ここまで少子化が進んでしまったら移民を入れます。移民というのは、スイスやシンガポールしかり、オーストラリアしかりで、国を活性化させるんです。競争心を高めますから。米国が典型です。でも安倍首相は、「いわゆる移民政策はしない」とはっきり言っています。

 その代わり、特区で暮らす外国人が、外国人の家政婦を雇うことは認めると言ってるんです。これでは話にならない。2020年までに女性管理職を全体の30%にするという目標を掲げるのなら、外国人の家政婦を例外なく受け入れないととても達成できないでしょう。それなのに、安倍首相は移民を入れないと言っている。一体、子どもを増やしたいのか増やしたくないのか、よく分かりません。

 この後も大前氏は、少子化対策で成功したフランスの事例を紹介しながら、その重要性を説きます。続きは本誌でじっくりとご覧ください。

国民不在の解散総選挙
本当の「日本の論点」とは何か

『週刊ダイヤモンド』12月13日号は、間近に迫った選挙についての特集です。

 今回の選挙は、争点がない、と言われます。それなのになぜ選挙が行われるのか。そこには、後藤氏が指摘したように、民意とはかけ離れた政治力学が働いています。

 いったん選挙が動き出すと、そこにはヒト・モノ・カネが集まり、産業としての歯車が回り出します。本特集では、選挙関連産業の相関図、選挙で沸騰する銘柄など、選挙の経済学にも光をあてました。

 選挙に争点がないからと言って、日本に何も問題がないわけではありません。むしろ山積しています。そこで、選挙で本当に問うべき「日本の論点」をまとめました。

 今回は、米著名投資家のジム・ロジャーズ氏と竹中平蔵氏に「日本の課題」について対談してもらいました。対談の最中、ロジャーズ氏はこんな言葉を記者に投げかけました。

「あなたには子どもがいますか? この日本で、30年後の子どもの将来に希望が持てますか?」

 私が答える前に、ロジャーズ氏は続けてこう言いました。「私は本当に日本が大好きだけど、今のままの日本に、子どもを住まわせることはできない」。

 安倍晋三首相は「この道しかない」と繰り返し訴えます。自分の子どもも含めた将来世代の未来を考えたとき、本当に「この道」しかないのか。そんな問題意識を持ってこの特集をつくりました。ご一読いただければ幸いです。 

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本誌2014年12月13日号

「選挙の経済学 決められない政(まつりごと)の正体


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