週刊ダイヤモンド11月15日号の第一特集のテーマは「宗教」です。
無宗教が57%を占める日本人には理解しづらいかもしれませんが、この世界は「宗教を中心に動いている」ところがあります。
連日メディアを賑わす中東情勢や、欧米各国の行動規範や経済倫理など、世界の動きは宗教の知識を踏まえなければ、その本質がわからないかもしれません。
そこで、グローバル社会で活躍するための必須教養として宗教をなぜ学ぶか、いかに学ぶか、さまざまな角度から掘り下げました。
ここでは、宗教を学ぶ意義について、ベストセラー『ふしぎなキリスト教』(講談社現代新書)の共著者で、世界の宗教について比較研究を行う社会学者の橋爪大三郎・東京工業大学名誉教授の記事を一部抜粋して特別公開します。
グローバル社会の必須教養
ビジネスマンよ、宗教を学べ
──橋爪大三郎・東京工業大学名誉教授
宗教を知らずして、グローバル社会では生きていけない。
多くの国では、政治も経済も法律も、要するに社会生活の全てが宗教と関わっている。クリスマスに初詣、葬式や結婚式で宗教に触れることはあっても、普段の生活ではほぼ宗教とは無関係でいられる。そんな国は、世界でも珍しい。
ユダヤ教も、キリスト教も、イスラム教も、信仰の対象としている「神」はどれも同じ唯一の存在である。また、いずれも『旧約聖書』を聖典としている。そんなことも知らずにグローバルビジネスマンを気取っていられるのも、日本人くらいのものだ。
宗教を学ばないビジネスマンは、絶対にグローバル社会で成功できない。そう断言してもいい。
さて、そもそも日本人が「グローバル社会で生きていく」と覚悟を決めたのは、明治維新のときだった。
ところが当時、欧米列強に対し、アジア、アフリカ、ラテンアメリカといった〝第三世界〟はまったく存在感を示せていなかった。
われわれは欧米列強と互角の存在として認知されるような国造りをしなければならない──。日本は非白人社会の代表として、アジアを欧米の植民地から解放し、文化文明の発展を担うリーダーとなろうとした。
こうした「アジア主義」と呼ばれる構想は、軍事的な動きに結び付き、日中戦争や太平洋戦争につながったため、歴史から封印されたかたちになっているが、本来は戦争と関係なく評価すべき考え方といえる。
敗戦後、日本は外交権を取り上げられ、独立してからも日米同盟に基づいて軍事も外交も全て、米国を窓口にした結論ありきの行動に終始した。グローバル社会の進展にしても、米国主導であって、自ら選び取ったものではない。
自分たちで意思決定をして突っ走ったところ、間違った結果となった。間違わないためにどうすればいいかと反省するのではなく、自分では考えず、強い米国についていけばいいという態度で反省の意を示した。それが戦後の日本だ。
自分で選んだわけではないのに結論がある。こうした状況を一言で言うとしたら、「思考停止」である。よほど100年前の方が、日本は精神的に健全だった。
米国が発明し広めた
「イスラム原理主義」
という差別表現
日本人の思考停止状態の最たるものが、「宗教への無理解」だ。
特に現代の日本人は、イスラム社会についてよく知らないし、知ろうともしない。
そもそも欧米のキリスト教国は、イスラム諸国に対して差別意識と、過去に何度も戦い、痛めつけてきたという負い目を持っている。
それに対し、日本人にはイスラムに対する偏見も、戦いで手を汚してきたという負い目もない。だからこそ、イスラムの国々も日本には好意を持って接してくれる。非白人国家で近代化を果たした国として敬意も払ってくれる。
ところが、多くの日本人にとって、イスラム社会については理解する動機がない。だから、理解できない。
自ら選ばなければ、入ってくるのは米国経由の情報である。米国の視点でしか世界を見ることができなくなる。端的な例が「イスラム原理主義」という言葉だ。
米国はキリスト教国だが、いまだに進化論やビッグバンを認めず、旧約聖書の天地創造が真実だと疑わない〝困った人々〟をやゆして使うのが、「キリスト教原理主義」という言葉である。
その連想から、『クルアーン(コーラン)』を一字一句正しいと信じているイスラム教徒を原理主義者と呼ぶようになった。あくまで米国が発明した言葉で、イスラム教徒は認めていない。そもそも、イスラム教徒はコーランに基づいて生活するが、法学者によるさまざまな解釈のフレームがあって、そのアドバイスに従って行動する部分も多い。その意味では欧米諸国が言う原理主義とは異なるのだが、日本のメディアはそんなことは考えもせず、欧米の用いるバイアスを直輸入して使用する。そして読者も視聴者も、それを鵜呑みにする。
欧米人は、イスラムに対する差別と偏見の意識がある半面、同じ一神教という在り方を共有し、理解している。自分たちの一神教の信仰と違うから拒否反応を示しているわけで、相手の宗教への理解も自分の信じる宗教もはっきりしていない日本人とは根本的に異なる。偏見はない代わりに、相手を理解する術を持っていない日本人は、見た目は大人でも小学生レベルの会話しかできない。国際社会ではそう見られている。
イスラム教に限らず、宗教に関する無理解や不勉強は、グローバル社会で相手を知り、相互関係を構築していくときに、致命傷となり得る。だからビジネスマンの基礎教養として、宗教は必須の科目なのである。
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この他にも、佐藤優さんが指南する「宗教から読み解く国際ニュース」、「イスラムの戦地に入った20代の若者たちの緊急座談会」、キリスト教、ユダヤ教、イスラム教、仏教など「世界の宗教の歴史がざっくりわかる大図解」などなど、内容は盛りだくさんです。
続きは是非、本誌でご覧ください。
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本誌2014年11月15日号
「ビジネスマンの必須教養
『宗教』を学ぶ」