「ピラミッド、万里の長城、戦艦大和に次ぐ、無用の長物」。建設費用は3000億円、当時の国家予算の1割にも相当する東海道新幹線は開業に当たり、世間から、このようにやゆされた。
しかし、1964年に開業すると、こうしたネガティブな声は吹き飛んだ。この50年間、死亡事故もなく、ビジネス、観光、地方経済に大きな影響を与え、日本人のライフスタイルのみならず、思考体系まで一変させたのだ。
新幹線登場前、ビジネス特急「こだま」は東京〜大阪間を6時間50分で結んだが、新幹線の開業で4時間に短縮された。
節約された時間を基に、当時の賃金から試算された時間短縮の効果は年2500億円、つまり2年間で建設費のお釣りが出る計算だ。
50年間積み重ねるとその効果は天文学的数字になる。当時の平均年収は41万円にすぎないが、現在は9倍弱の350万円(国税庁民間給与実態統計調査)になっているからだ。しかも、今や東京〜大阪間は約2時間半にまで縮まっており、時短効果はさらに上積みされる。
東海道新幹線の日本経済への貢献は、それだけでない。工場誘致など、開業時ですでに、経済需要の創出効果は9000億円発生したと国鉄は試算している。
今もなお新幹線誘致の声がやまないのは、この経済効果を期待してのことだ。小ぶりな北陸新幹線ですら開業10年で1300億円のGDP押し上げ効果があると推計されている。
ビジネス需要だけではない。お盆や正月など今では多くの日本人が帰省し風物詩となったが、これも在来線と自家用車と飛行機という選択肢しかなければ、少し違った景色になっていただろう。
何しろ、現在、東海道新幹線は年間1億5500万人、累計で56億人を運ぶ大動脈。飛行機でそれを賄えるはずもなく、新東名との複線化で拡充した高速道路でも負担はできない。加えて、新幹線の二酸化炭素排出量は自家用車の8分の1という点を考えても、環境面でのメリットは大きい。
新幹線の恩恵で発展した地域は少なくない半面、ストロー効果によって人口が減少し衰退した地域もある。しかし、近年では観光需要の増加がその不満を抑え込むほど大きくなっている。
齢50を迎える新幹線は、長距離輸送の〝絶対王者〟であり続けている。
新幹線の技術、歴史、戦略から
鉄道の楽しさ、美味しさまで網羅
『週刊ダイヤモンド』9月20日号特集は、「新幹線50周年! 魅惑のJR・鉄道」です。本誌の多くの特集は30ページほどですが、今回は60ページにわたり、新幹線と鉄道の歴史、魅力に迫っています。
「新幹線って何がすごいんだっけ!?」「どんな車両があるんだろうか……」鉄道に少し興味がある人でも、ぼんやりとしか把握していないこともあるかと思います。特集では、新幹線のどこがどのようにすごいのか、どのような経緯で生まれ、開業に至ったのか、歴代主力車両の変遷などを、おさらいしています。
また、新幹線を支えるJR各社の経営姿勢はかなり異なります。そこで、財務データなどの数字から、各社のキャラ分けにもチャレンジしました。また、事故処理や乗客からの暴力など、難問が襲いかかる鉄道員の日常を「現場はつらいよ!鉄道員トホホ物語」として、まとめました。
そして、今回の特集で特にこだわったのは、新幹線・鉄道の魅力を楽しく伝えることです。消え行く寝台列車、続々登場する1両に1室などの超高級クルーズトレイン、全国で急増中の有名シェフが料理を提供するレストラン列車など、たくさんの美しい写真とともに紹介しています。
観光列車のパイオニアであり、チケット取得の最高倍率が280倍を記録した「ななつ星in九州」を有するJR九州の「新幹線プラス観光列車」の戦略を読めば、鉄道会社にとって娯楽性が重要になってきていることも、ご理解いただけると思います。
「見ると幸せになれる」と言われている、新幹線ドクターイエローの内部にも特別に潜入し、「何をやっているのか」を写真とともに伝えています。
ほかにも新幹線興隆の裏で窮地に陥るローカル線の苦悩を、沿線の人口増減率ランキングともに明かし、また、日本の新幹線・鉄道車両は本当に世界で競争できるほど技術力をもっているかなども掲載。フェラーリをデザインしたことで知られる奥山清行氏の鉄道車両デザインの世界も紹介。硬軟取り混ぜ、読んで楽しく、ほうっと膝を打つような大特集となっています。
秋の行楽シーズン、新幹線や鉄道での移動する方も多いと思います。その際、本特集もご一読いただければ、車窓からの景色もまた違ったものになるかもしれません。
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本誌2014年9月20日号
「新幹線50周年 魅惑のJR・鉄道」