株価対策と世論対策の議論をするためだ。いわば、相場を動かす首相官邸の実働部隊による秘密会議といえた。指揮を執るのはもちろん、族議員を抑えて官邸主導の経済運営を推し進める首相の参謀、菅だ。
出席者は4人のほか、世論調査や株式マーケットにも見識のある有識者ら複数が同席する。
「先週1週間の政策動向がどうだったか、今週はそれについてどう対応すべきかを議論したり、足元の株価が今後どのような展開になりそうなのかを解説してもらい、われわれに必要なアクションについて検討する」(官房副長官)という。
株価依存内閣とやゆされることもある安倍内閣だけに、「官邸は当然、株価について、つぶさにウオッチしている」(自民党幹部)が、首相、安倍晋三の参謀役である菅は世論の動向についても、テレビ・新聞各社の世論調査を徹底的に分析しており、官房長官番記者に「あれほど世論に敏感な政治家は見たことない」と言わしめたほどだ。
分単位のスケジュールを迫られる官房長官。それでも菅は食事の時間を中心に、若手の戦略系コンサルタントからトップエコノミストまで、さまざまな関係者と精力的に会合を持っている。「朝に2回、昼に1回、夜に2回と会合を入れるのが日課」(官邸周辺)。
その会合場所も政治家にお決まりの〝お座敷〟ではなく、高級ホテルのレストランの個室が多いようだ。ミーティング形式で行われ、菅はアルコールの代わりにペリエを飲みながら、相手の話に聞き入るという。
実際に会合した経済関係者に話を聞くと、「安保などより経済政策を重視するという姿勢が徹底していた」というのが菅に対する共通認識だった。一方、「安倍政権の経済政策を世界の投資家がどうみているか非常に気にしている」「株価維持へのこだわりが強過ぎる」など、「官邸相場」ともいえる現状を作り出していることを危惧する声もあった。
巧みな人事で官僚統制を進める
菅の最大の武器が人事だ。「人事は全て菅ちゃんに任せる」。安倍がそう語るほど、菅の差配に絶大な信頼を寄せる。
「官僚を上手に扱えた内閣は長続きする」と言われるが、特に菅は官僚の扱いがうまい。政治主導を掲げながら口先だけに終わった民主党政権とはここが違う。5月末、省庁の幹部人事を一手に握る初代内閣人事局長に、大蔵官僚から政治家に転じた官房副長官の加藤を充てたのだ。
もともと、警察庁出身の官房副長官である杉田が内定していたが、土壇場で政治主導の人事にこだわった菅がひっくり返したという。加藤を通じて官僚統制をさらに進める構えだ。
人事についての発想自体も霞が関の常識は通用しない。「法人税減税で財務省と経産省がぶつかるなら、双方の局長を入れ替えたらいい」とタブーともいえる人事案を平気で口にする。
もちろん強権的な人事で揺さぶりをかけるだけではない。例えば、経団連事務総長だった中村芳夫を内閣官房参与へ起用したケースは象徴的だった。
「官邸と経団連の関係がギクシャクしていたころ、間を取り持ったのが中村さんだった。本来なら米倉(弘昌)会長が交代する際に中村さんに何らかの処遇をしてやるべきところだが、結局それもなくて、そんなときに菅さんが声をかけて内閣官房参与に引っ張ってきた」(官邸周辺)。
そんな巧みな人事で官僚を使いながら、新成長戦略の制度設計を進め、株価浮揚につなげたいところだ。
官邸の執務室には、日経平均の株価ボードが掲げられている。導入したのは菅の政治の師匠である元官房長官の故・梶山静六だという。株価と支持率が関連付けて語られ始めたのは、1990年代後半からだが、今、その傾向はかつてないほどに強まっている。菅としては、世論と株価の両にらみで綱渡りのような政権運営が当分続きそうだ。(敬称略)
「アベ経済マフィア」の内幕を解明
ヘッジファンドマネジャーと打ち合わせをしていると、「政治家と株式相場の関係を知りたい」と言われました。今の安倍政権になって以降、政治と相場の関連性が特に高まっているのに、そうした視点での分析が少ないとの理由からでした。そこで『週刊ダイヤモンド7月26日号』において「株価を動かすアベ経済マフィア全人脈・全内幕」を特集しました。相場と政局の関係を分析した初めての特集です。
安倍政権の経済政策を牛耳り、時に相場を動かす政治家、経済人、官僚、学者たち。そんな「アベ経済マフィア」の人脈、内幕を解明しました。
さらに法人税減税やGPIF改革といった新成長戦略をめぐって、政治家たちがいかにその政策に関与し、かつ相場に影響を与えうるか、徹底的に洗い出しました。