『週刊ダイヤモンド』4月5日号の第1特集は「儲かる農業2025」です。令和のコメ騒動では、国内農業の生産力が弱まっていることが明らかになりました。しかし、暗い話ばかりではありません。日本農業の世代交代が進み、固定観念にとらわれない新時代の農業者が隆盛しているからです。特集では、プロ農家1400人、農協役職員250人から得たアンケートの回答を基に、儲かる農業の最新事情と、衰退する農協の実態に迫ります。(ダイヤモンド編集部副編集長 千本木啓文)

農協で職員が大量流出している現状に
JA役職員の5割が「危機的だ」と回答

全国に500農協で、人材の流出が深刻なところはどこだろうか(写真はイメージです。本文とは関係がありません) Photo:winhorse/gettyimages

 農協職員が、共済などのノルマ推進を苦にしたり、モチベーションを失ったりして離職するケースが増えている。ダイヤモンド編集部は、農協のディスクロージャー誌を基に、職員の減少率を比較したJA人材流出深刻度ランキングを作成した。同ランキングから、人材の流出に歯止めがかからず、組織の存続が危ぶまれている農協をあぶり出す。

 近年、離職者が急増していることに、さすがの農協関係者も危機感を強めているようだ。ダイヤモンド編集部が農協役職員アンケート(有効回答248人)で、職員の離職や採用難に対する認識を聞いたところ、回答者の50%が「危機的だ」と答えた。

 では、全国に500農協で、人材の流出が深刻なところはどこだろうか。

 JA人材流出深刻度ランキングのワーストは、JA青森だった。2022年度197人だった職員数が、23年度は156人と、実に20.8%も減った。

 大量離職の要因はずばり「事業が縮小均衡から抜け出せなくなって、働く場所としての希望が見いだせなくなっているからだ」(組合員のコメ農家)。

 同農協は、08年に青森県の4農協が統合して誕生したが、合併直後18だった店舗数は7まで縮小。合併直前の4農協合計で20億円超あった事業総利益(粗利)は13億2146万円とほぼ半減した。

 JA青森は、ダイヤモンド編集部が独自に作成したJA赤字危険度ランキングで、青森県の対象10農協中、最も経営状態が悪かった。収益試算を行ったところ、28年度の税引き前利益試算は1億5800万円の赤字だった(詳細は、特集『全国461農協 JA赤字危険度ランキング2025』の#2『【青森】JA赤字危険度ランキング2025、10農協中5農協が赤字!最大赤字額は6億円』参照)。

 JA人材流出深刻度ランキング2位はJA兵庫南だった。こちらの農協も1年で約5分の1の職員が減少している。

 JA兵庫南が職員から見切りを付けられている主因が、ずばり無理な事業推進である。

 全国の農協で、職員が営業ノルマを達成するため本来不要な共済に加入する“自爆営業”が問題になり、農水省が監視を強化してから「過大なノルマ推進は、若干ましにはなった」(JA兵庫南職員)。しかし、共済の渉外担当は相変わらず不人気ポストで、渉外担当になった中堅若手職員が辞めるケースが多発しているという。

 前出とは別の職員は「以前は共済の目標は必達を求められ、未達になりそうなら研修会でつるし上げのようなことをされた。だが、最近ではモチベーションを失い、目標を達成する気がない若手が増えている。人事制度改革が急務だ」と危機感をあらわにする。

優良農協だったJA秋田ふるさとが
職員からも組合員からも人気凋落

 今回のランキングでは、かつて組合員も職員も団結していた農協が、不人気農協に転落してしまったケースも明らかになった。

 JA人材流出深刻度ランキング4位のJA秋田ふるさとだ。

 この農協は、かつてダイヤモンド編集部のJA支持率ランキングで上位にあった。ところが、22年同ランキング3位、23年には11位となり、最新の25年は31位まで凋落している(詳細は特集『儲かる農業2025 日本の夜明け』の#4『【農家が支持するJAランキング・全114農協】不祥事のならけん、山口県はほぼ最下位…3位愛知みなみ、2位やさと、1位は?』参照)。

 JA秋田ふるさとでは23年、組合長が農協本店の建て替えなどを受注していた取引先企業幹部らと「賭けゴルフ」に興じていたことが発覚(詳細は『JA組合長や中央会元会長に「賭けゴルフ」疑惑、総額110億円の工事受注企業と癒着』参照)。こうした不祥事が、組合員や職員から愛想を尽かされる要因となったとみられる。

 全国の農協を束ねるJA全中も危機感は持っているようで、24年から農協職員のエンゲージメント調査を始めている。だが、同調査の結果を含めて、不都合な情報も組合員に開示しなければ十分な成果は得られないだろう。ステークホルダーの理解を得て、職場の改革を進めなければ、「人材危機」は高まるばかりだ。

コメ不足、野菜高騰を解消する
ベスト農家66人を一挙公開

 

『週刊ダイヤモンド』4月5日号の第1特集は「儲かる農業2025」です。衰退に歯止めがかからなくなっているのは、上記のような農協だけではありません。上部団体の農林中央金庫は農協が集めた貯金を運用に失敗し、2024年度に1.9兆円の最終赤字に沈む見込み。JA全中も農協向けのITシステム開発に失敗し、200億円の損失を出しました。特集では、崩壊過程に入ったJAグループの実態に迫ります。

 対照的に、儲かる農業を実践する農家は、企業のデジタルソリューションなどを駆使して急速に成長しています。特集では、担い手農家アンケート(有効回答1361人)の回答者の中から、コメ不足や野菜高騰を解消する有力農家66人を選出。さらに、プロ農家から評価されている企業や農業ツールなどのランキングを大公開します。

 農業の最新事情が詰まった週刊ダイヤモンドの恒例企画「儲かる農業」を、ご一読いただければ幸いです。