『週刊ダイヤモンド』2月1日号の第1特集は「医療機器『80兆円市場』争奪」です。日本の医療機器市場では、日立や東芝、パナソニックなど大手電機メーカーが参入していましたが、相次いで撤退しました。今では、M&A攻勢で急成長したキヤノンや富士フイルムがCTやMRIの分野で覇権を争っています。キヤノンが宿敵・富士フイルムに勝つための秘策とは?

メディカルの成長率で富士フイルムに劣るキヤノン
御手洗会長のてこ入れ作戦は奏功するか

「また御手洗さんが好き勝手にしゃべっている」

Photo:XH4D/gettyimages

 今年1月、新聞各紙に相次いで掲載された御手洗冨士夫会長兼社長最高経営責任者(CEO)のインタビューを見たキヤノン幹部は、ため息交じりにこうぼやいた。各インタビュー記事で、御手洗会長がメディカル事業へのてこ入れを明言していたのだ。

 キヤノンはCT(コンピューター断層撮影)の分野で国内トップメーカーの地位を築いているが、御手洗会長はメディカル事業をさらに伸ばしていくと意気込む。売上高に占めるメディカル事業の割合を、将来的に現状の2倍以上となる30%程度に引き上げるという。

 キヤノンは2016年に、東芝から旧東芝メディカルシステムズ(現キヤノンメディカルシステムズ)を約6700億円もの巨額で買収した。この時、買収先として名乗りを上げていた富士フイルムとの間で激しい争奪戦が繰り広げられた。

 東芝メディカル争奪戦に敗れた富士フイルムは、その後21年に日立から画像診断事業を買収。大型買収後のメディカル事業の業績を見る限りでは、買収合戦で勝利したキヤノンではなく富士フイルムが「真の勝者」と言えそうだ(下図)。

 買収後の低成長ぶりを考えると、御手洗会長がメディカル事業の強化に取り組むのは当然だ。キヤノンは現状を打開すべく、子会社のキヤノンメディカルとキヤノン本体の人員配置見直しを始めているため、御手洗会長の発言はあながち「勝手」でもない。

 では、御手洗会長の掲げるメディカル成長加速プランを実現し、ライバルの富士フイルムを圧倒するにはどうすれば良いのか。

「オールキヤノン」を捨てて他社と組めば
業界再編の起爆剤になれる?

 キヤノンメディカルが成長のギアを上げるために必要なのは、国内トップシェアのCTの強化にとどまらない。同社はX線や超音波診断、富士フイルムとシェア争いを繰り広げるMRI(磁気共鳴画像診断)など診断機器を幅広く手掛けるため、各分野での製品力アップが欠かせない。

 そこで重要になるのが他社との連携だ。以前から、主力事業のオフィス事業でも「キヤノンは唯我独尊だから他社と手は組まないだろう」(旧富士ゼロックス関係者)と言われている。大手同士のタッグが実現しつつある複合機業界でも大きな提携はせず、自社の技術力や販売力でトップメーカーの道を切り開いてきた。

 だが医療機器では、超音波診断でオリンパスと提携するなど、部分的に他社と手を組んでいる。M&Aによって医療機器事業に本格参入したキヤノンは、メディカルのあらゆる分野で「オールキヤノン」を貫くことは難しいのだろう。

 医療機器業界に携わる政府関係者は「国内医療機器市場は人口減少による縮小が見えているため、もう一段の再編が必要だ。でも、診断機器大手のキヤノンが同業他社と本格的に手を組むとは思えない」と打ち明ける。国内で高いプレゼンスを発揮するキヤノンが他社との本格提携に踏み切れば、成長途上にある日本の医療機器業界の起爆剤になりそうだ。

医療機器、化学、ジェネリック分野を大解剖!
サイエンス業界“丸分かり”の1冊

 『週刊ダイヤモンド』2月1日号の第1特集は「医療機器『80兆円市場』争奪」。世界の医療機器市場は80兆円に上り、今後も毎年6%前後の成長率で拡大を続けていくと言われています。日本政府も国内勢を後押しする構えを見せていて、2050年に日系医療機器メーカーのグローバル売上高を現在の約3倍となる21兆円にする目標を掲げています。

 日立や東芝、パナソニックが撤退するなど、日本の医療機器業界では再編が進んできましたが、フィリップスやシーメンスなど欧米の超大手メーカーに比べるとまだまだ小粒と言わざるを得ません。日本勢の“勝ち筋”はどこにあるのでしょうか。テルモやオリンパス、キヤノン、富士フイルムなど業界大手の戦いを追いました。

 さらに、知られざる「ニッチ銘柄」を明らかにすべく、医療関連104社を徹底分析しました。株式市場で評価の高い企業や、狭い分野で海外勢を寄せ付けない「グローバルニッチトップ」も紹介しています。

 例えばテルモは時価総額が4兆円を超えており、住友商事など大手総合商社顔負けの超優良銘柄になっています。本号では、テルモ社長が株式市場から評価される秘訣を明かしています。

 第2特集「化学大乱!」では、10年に1度ともいわれる大変革期を迎える化学業界で、生き残りをかけた大勝負に挑む化学メーカーの動向を追います。三菱ケミカルグループや住友化学、三井化学など財閥系化学大手のトップインタビューも盛り込みました。第3特集「ジェネリック再編」では、ジェネリック医薬品(後発薬)メーカーの相次ぐ不祥事による薬不足が深刻化する中、後発薬業界の危うい実態をひもとき、薬不足解消の処方箋を探ります。

「一冊丸ごとサイエンス」の本号で、波乱の業界を徹底解剖します!