パン製造販売の神戸屋が、「神戸屋キッチン」などの小売り事業の大幅縮小を進めていることが分かった。首都圏の複数の不採算店舗を中心に、閉店が広がる見通しだ。小麦粉など原材料の高騰とコロナショックが重なり、戦略転換を余儀なくされているのだ。『週刊ダイヤモンド』2月5日号の第1特集「インフレ到来」では、世界的なインフレと円安の中で、日本企業が悶絶するさまをレポートしている。(ダイヤモンド編集部 堀内 亮)

小麦粉高騰!値上げでも収益苦しく
経営トップは「しゃあない…」

 神戸屋は1918年に大阪で創業した製パン業界の老舗。主軸事業はスーパーマーケットやコンビニエンスストアなどへの卸売りで、売上高約434億円(2020年12月期)の9割がこの事業だ。

 企業規模としては山崎製パンやフジパングループといったトップ群に続く中堅メーカーながら、ベーカリーワールドカップ日本代表を多数輩出するなど、技術力の高いパン職人を豊富に揃えているのが強みだ。

 小売り事業では「神戸屋キッチン」「神戸屋レストラン」などのチェーン名で、関東・関西を中心に店舗を展開。美味しいパンの食べ放題といったサービスが人気を集めてきた。店員が着用している青のギンガムチェックのユニフォームも「かわいい」と好評で、トレードマークになっていた。

 ところが今、神戸屋はこの人気店舗を相次いで閉めざるを得ない局面にある。トリガーを引いたのは資源インフレだ。

神戸屋の店舗はオフィス街やエキナカなどに多い。平時なら好立地だが、コロナ禍では逆に来店客の激減に直面した Photo by Ryuko Sugimoto

 パンの主原料である小麦は21年、世界的に価格が高騰。日本政府も昨秋、輸入小麦の売り渡し価格を一挙に約2割も引き上げており、業務用小麦粉は一気に値上がりした。油脂や砂糖といった他の原料も同様に高騰している。

 これを受け神戸屋は21年11月、スーパーやコンビニなどに出荷する一部の製品について、最大約12%の大幅値上げを断行した(実施は22年1月)。小売り店舗の商品も同様に値上げしたのだが、こちらの事業は値上げだけでは終わらなかった。新型コロナウイルスの感染拡大による影響があったからだ。

 神戸屋の店舗はオフィス街やエキナカなどに多い。平時なら好立地だが、コロナ禍では逆に来店客の激減に直面した。売り上げの「蒸発」に、好立地がゆえの高額な賃料がのしかかり、小売り事業を営む子会社の20年12月期決算は最終赤字約6億円、債務超過だった。これにつられる形で、親会社の神戸屋本体も14億5000万円の最終赤字に追い込まれている。

 コロナショックに追い打ちした原材料高は、長期化しそうな気配だ。こうした状況の中、銀行団は昨秋ごろから神戸屋側に不採算店舗の閉鎖を迫ってきた。実は神戸屋の小売り事業はコロナ禍前から、損益的に芳しくなく、「神戸屋グループにとって“お荷物”事業」(ある金融機関関係者)だったことも大きかった。

 神戸屋は銀行団の意向に押し切られる形で、小売り事業の立て直しに向け、不採算店舗を次々と閉鎖させている。これまでにすでに25店舗を閉めており、今後は首都圏のエキナカ立地の店舗も閉鎖が検討されるようだ。

 神戸屋グループの桐山健一会長は小売り事業の縮小について、ダイヤモンド編集部の取材に対し「しゃあない(仕方がない)」とだけ述べて、足早に去った。

資源高×コロナ×円安
日本企業が呻吟している

 神戸屋のようにコロナ禍と資源インフレに苛まれる日本企業は後を絶ちません。円安も火に油を注ぐ形でコストが上昇し、食品だけでなく自動車や電機、ゼネコンといった業界の各社が呻吟しています。

 『週刊ダイヤモンド』2月5日号の第1特集「インフレ到来」では、日本企業がインフレと資源高に悶絶する実情に迫るとともに、インフレ時代の資産防衛術を紹介しました。急激なインフレ局面を生き抜くための情報満載の一冊です。ぜひご一読下さい。