「ニッポン沈没」の現実直視で
日本礼賛ブームは二度と来ない?
「日本のここがすごい」「世界が驚く日本」──。何年かに1回、日本礼賛ブームがやって来る。日本の素晴らしさや海外から称賛される日本の姿を伝える書籍やテレビ番組が、一定の周期で人気を集めてきた。
この現象は、日本人が世界の中で自信を失ってきた裏返しなのかもしれない。そして今、日本礼賛ブームに再び酔いしれられないほどに、私たちは「ニッポン沈没」の現実を突き付けられている。
等身大の日本を映す“鏡”となったのが新型コロナウイルスの感染拡大だ。給付金を巡る混乱やリモートワークに移行できない職場環境など、「デジタル後進国」ぶりがあらわになった。そして日本は今、「七重苦」に撃沈されつつある。
日本を襲う七重苦
(1)財政膨張
コロナ対策で大規模な金融緩和と財政出動の合わせ技を世界中が展開する中、経済回復で日本は世界に大きく後れを取る。
世界各国は徐々に平時モードに移行し、際限なき財政出動に歯止めをかけようとしている。一方の日本は、対国内総生産(GDP)比で世界最悪の借金を抱えながら、「バラマキ批判」が巻き起こるほど「財政膨張」を続けなければならないくらい経済回復は弱い。
金融政策でも、世界の主要中央銀行が量的緩和の縮小(テーパリング)や利上げを決定したり議論を本格化させたりする中、日本銀行には追随できそうな気配はない。
日本を襲う七重苦
(2)日本株離れ
こうした状況は株価にも反映されている。米国株がコロナ禍でも連日最高値を更新し続ける中、富裕層を中心に「日本株離れ」が進み、日本株は伸び悩む。それがさらなる日本株離れを呼んでいる。
米ハイテク株中心のナスダック総合指数は直近5年間で3倍弱まで株価が上昇している。一方の日本株はというと、同期間における日経平均株価の上昇率は57%にとどまる。
米国株ブロガーとして著名なたぱぞう氏は、次のように語っている。
「日本株に投資していた15年間と比べると、昨年1年間で米国株で稼いだ金額の方が大きいので、日本株に投じた15年を返してほしいと思うくらいです(笑)」
これこそ、富裕層や情報感度が高い投資家たちの偽らざる本音だろう。
日本を襲う七重苦
(3)金融所得課税の強化
そこに追い打ちをかけるように、岸田文雄首相が「金融所得課税の強化」の実現に怪気炎を上げ、「岸田ショック」と呼ばれる株価急落を招くなどマーケットに冷や水を浴びせた。
その後、岸田首相の口からは「自社株買い規制発言」まで飛び出す。
自社株買いの規制を求めた立憲民主党の落合貴之衆議院議員の質問に対する答弁に岸田首相が立った場面でのことだった。岸田首相は「新しい資本主義を実現していくときに大変重要なポイント」と返答。画一的な規制には慎重な姿勢を見せつつも、「個々の企業の事情に配慮した、例えばガイドラインみたいなことは考えられないか」と言及したのだ。
市場の動揺は大きかった。岸田首相の発言があった後、日経平均株価は下げ幅を拡大し、一時300円を超えて下落。「岸田ショック第2波」と指摘する声も多数上がった。
岸田首相が自社株買い規制にも執心するようだと、富裕層マネーをはじめとした資金はますます日本を見捨てることになるだろう。
日本を襲う七重苦
(4)悪い円安
また、原材料やエネルギーの調達コスト増につながる「悪い円安」への警戒感が強まっている。
2021年、「コロナ禍で下落した通貨」として挙げられるのが円と韓国ウォンだが、円は韓国ウォンよりも下落率が大きい上に、先進7カ国(G7)の通貨に限れば段違いの独り負けなのだ。
日本を襲う七重苦
(5)資源高スパイラル
その「悪い円安」と「資源高スパイラル」との絡み合いによるスタグフレーション(景気後退局面のインフレ)発生も危惧されている。
その懸念は顕在化しつつあり、「安いニッポン」の象徴の一つである牛丼を提供してきた大手チェーン3社が2021年、相次いで値上げを発表した。
値上げの対象は牛丼だけではない。山崎製パンは1月から食パンを平均9.0%値上げした。カルビーも1月24日から順次、ポテトチップスの価格を7〜10%程度値上げしていく。ハム・ソーセージも同様だ。日本ハムとプリマハムが2月から、伊藤ハムは3月から値上げする。
値上げの理由は原材料やエネルギーの価格の高騰だ。円安がそれに拍車を掛け、原材料調達や物流などさまざまなコストが上昇。商品価格に転嫁せざるを得なくなったのだ。
しかし、給料アップを伴わない中で値上げとなれば、確実に消費者は財布のひもを締める。消費者も企業も貧しくなる「貧乏大国ニッポン」の足音が近づいてきている。
日本を襲う七重苦
(6)脱炭素地獄
さらに、環境負荷を軽減せよという世界的潮流の中で、日本企業は「脱炭素地獄」と呼ぶべき新たな負担増に直面している。
企業の競争力を測る物差しが「利益」から「炭素」へ――。炭素を垂れ流す非エコな企業は、ビジネスの参加資格すら得られない状況が現実化しつつある。炭素を減らす取り組み、ビジネスモデルの変更、脱炭素リスクの情報開示に伴う事務的コストの増加…。脱炭素が日本企業に大きな負荷を強いるのは間違いない。
日本を襲う七重苦
(7)教育後進国
そして海外留学が制限される中で、日本の「教育後進国」ぶりも再認識されることとなった。
一例として、経済協力開発機構(OECD)が2018年に72カ国・地域の15歳の子どもを対象に行った、国際的な学力調査(PISA2018)のデータを見てみよう。
同調査によると、日本の子どもはインターネットとコンピューターの使用について、ほとんどの項目についてOECD平均を下回っている。
特にそれが顕著なのが、教育現場だ。「学校外で週に1~2回以上コンピューターを使って宿題をする」と答えた割合は、米国、英国などの欧米が「67%以上」、韓国などの東アジア諸国・地域が「50%以上」だった一方、日本の生徒はわずか「9%」。OECD加盟国の中で他から大きく離れて最下位だった。
富裕層をはじめとして、情報感度の高い人々は海外投資を加速させるなど、移動が制限される中でも日本を見捨てつつある。今こそ現実を直視しなければ、ニッポン沈没の道連れになりかねない。
ニッポン沈没に備える!
富裕層に学ぶ「世界標準」の運用術
では、ニッポン沈没の道連れになりたくない人はどうしたらいいのでしょうか?
『週刊ダイヤモンド』1月15日号の第1特集「ニッポン沈没 日本を見捨てる富裕層」では、富裕層に学ぶ世界標準の資産運用術についても取り上げています。
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