御三家のほころびは三菱ブランドを毀損し、グループ全体に波及する。厳密なガバナンスがあってこその「組織の三菱」であり、立て直しが急務だ。

「組織の三菱」を体現してきた
御三家の集団指導体制に転機

 三菱重工業、三菱東京UFJ銀行、三菱商事の御三家を中核とした、組織的な運営が三菱グループの強みだが、その集団指導体制が大きな転機を迎えています。

 下図の通り、「組織の三菱」と称される三菱は、「御三家」「世話人会」「金曜会」といった暗黙のグループ内序列に基づき、御三家を含む世話人会企業が重要事項を事前協議するなど、組織だった運営が行われてきました。

 しかし、5月末に開示された三菱UFJ信託銀行の資料で、従来の企業集団の常識では考えられない事実が明らかになりました。

 三菱自動車が昨年末に開いた臨時株主総会で、同じ三菱グループの「身内」であるはずの三菱UFJ信託が益子修社長ら5人の取締役選任に反対していたのです。グループ内の結束よりも、資産運用を委託してくれた投資家の利益を追求する「投資の論理」の重視を鮮明にした格好です

 売上高の合計が50兆円を超える最強の企業集団、三菱グループの異変はこれにとどまりません。昨年に燃費不正問題で三菱自が3度目の経営危機に陥った際、御三家の重工、銀行、商事から支援を受けるという従来の枠組みから離れ、同業である日産自動車の傘下に入る決断が下されたのです。

長兄の経営にも異変、
次のグループ支援は不振の重工か

 三菱自の日産傘下入りをめぐっては、商事と銀行が副社長ポストに幹部を派遣したのに対し、グループの長兄に当たる重工は幹部の派遣を見送り、一歩引いた格好です。背景には自らの経営不振も影響していたとされます。

 重工の17年3月期決算は売上高が前期比3%減の3・9兆円で、営業利益は前期から半減の1505億円。「17年度に売上高5兆円」の目標は2年先送りされました。

 社運を懸けた純国産航空機MRJでは5度の納期延長に追い込まれ、開発を担う子会社の三菱航空機は債務超過に転落しました。累積損失額は1510億円に達し、開発費の膨張、遅延の補償負担で重工への打撃も避けられません。

 今年ようやく引き渡しが完了した大型客船事業も失態続きでした。受注額が約1000億円の案件なのに、累計で2500億円の損失を計上、今後の受注も凍結されてしまいました。

 ある金曜会企業幹部は「1・5兆円あった有利子負債の圧縮が進み、すぐに危機に陥ることはない」と前置きしながらも、「次に三菱グループの結束力が試されるのは、経営不振に陥った重工を支援するとき」と真顔で語っていました。

「組織の三菱」を体現してきた御三家によるグループ指導体制にほころびが見える中、来年度には三菱系各社が集まる東京・丸の内の「三菱村」に重工本社が移転してきます。ただ、グループの距離感は逆に遠くなるかもしれません。

 『週刊ダイヤモンド』7月29日号の第一特集は「三井・住友・三菱・芙蓉・三和・一勧 6大企業閥の因縁」です。戦後日本の経済発展を支えた6大企業集団。バブル崩壊などを経て、その多くは地盤沈下してしまいましたが、形を変えながらも今なおしぶとく生き残っています。三井・住友・三菱の3大財閥系と芙蓉・三和・一勧の3大銀行系はいかにして没落し、どのような形で存続しているのか。発展と衰退のはざまで揺れ続けた6大企業閥の因縁に迫りました。