リクルートが10月16日に上場することが決まった。時価総額1兆6000億円の超大型IPO(新規株式公開)だ。ここ最近、株価の上昇基調に乗って、大型IPOが相次いでいる。それに伴って、大量のIPO長者が誕生している。

「そういえばおまえ、実は結構〝R〟の株を持っていたんだな」

「え、いや、あまり持ってないよ」

「とぼけてもダメだ。ここにちゃんと数字が載っているぞ」

 渡されたのは200枚近い分厚い紙の束。表紙には「新規上場申請のための有価証券報告書 株式会社リクルートホールディングス」とある。

 9月10日、リクルートは「東京証券取引所から新規上場が承認された」と発表した。上場予定日は10月16日。時価総額1兆6000億円の超大型IPO(新規株式公開)が秒読みとなったのだ。株価の上昇基調に乗って、最近は大型IPOが相次いでいる。

 その発表後に、OB同士で顔を合わせた、あるリクルート出身者は、渡されたその資料をめくって面食らった。自分の名前とリクルート株の保有数が載っていたのだ。自分だけではない。知り合いの名前もたくさんあった。

「あいつも意外と持っているんだな」。そう思ったのもつかの間、さらに仰天の事実に気付く。自分の名前の横に、ご丁寧に市区町村まで住所が載っているではないか。

「これって公開されている資料だよな? ここまで出していいの!? 家に来られちゃうでしょ!」

 そのOBが戸惑うのも無理はない。IPO株といえば、上場後に何倍も株価が跳ね上がることが多い、投資家の垂ぜんの的。この書類を見れば、そのIPO株で、上場後に誰が幾ら大もうけするかが丸分かりなのだ。いわば、住所付きの〝IPO富豪リスト〟だ。書類で分かるだけでも最低138人の億万長者が誕生する計算だ。

 リクルートには、社員持ち株会があり、現役社員やOBなどが株を多く持っていることで知られる。それでも、グループ全体で社員が2万8000人いることを考えれば、IPO富豪はひと握りだ。

 社員の平均年齢は30代前半。自社株を買い集める前に独立や転職する社員が多いため、現役社員で大もうけできる人は少なく、IPOにはさほど関心がない。ベテラン陣でも、リクルート事件で「会社がつぶれて紙くずになる」と、株を売り払った人も多いという。

 大半のOBにとってもIPOの恩恵は無縁だ。最近まで、会社を辞めるときには株を売らなくてはいけなかったためだ。

 そんな希少なIPO富豪を周りが放っておくはずがない。

 ある大手証券会社関係者はリクルートの話を聞いて、2001年にあった電通のIPOを思い出した。「同じ証券会社の支店同士でIPO富豪を奪い合う、仁義なき戦いが繰り広げられた」という。

「資産がリクルート株だけに集中してはまずい。別の投資商品も買ってリスク分散しましょう」。電通のときと同じ決まり文句で、リクルート関係者の自宅へ証券営業マンが押し掛ける日も近いはずだ。

 実は今、リクルートのようなIPO富豪以外にも、経済環境や為替相場の激変を追い風に、新たなタイプのお金持ちが続々誕生している。30代の若手や、投資で果敢にリスクを取る姿も見受けられる。

 多くの読者には実感がないかもしれないが、日本は世界2位の金持ち大国である。だが、従来の日本のお金持ちは、金融資産の4割を預金で保有するなど、世界でも類を見ないリスク嫌いとして知られる。

 そこに今、生まれつつある新たなお金持ちたち。今回の特集では、こうした胎動を捉えながら、日本のお金持ちの実像に迫る。

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2014-09-27

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