『週刊ダイヤモンド』9月10日号の第一特集は『出世・給料・人事の新ルール』です。大企業のエリート部門にいれば高待遇が約束される時代は、過ぎ去りました。ビジネスパーソンの出世と給料が決まる仕組みはどう変わったのでしょうか。ダイヤモンド編集部の記者による総力取材と144職種の年収データにより、「出世・給料・人材の新法則」を導き出しました。(ダイヤモンド編集部副編集長 浅島亮子)

VUCA時代に必須の経営者スキルとは
「異端経営者」阻む前例主義

 日本電産の関潤社長兼最高執行責任者(COO)が退任するとの報道を受けて翌8月26日、株価は値を下げた。永守重信会長兼最高経営責任者(CEO)の後継者問題が、またも白紙に戻ったことへの失望売りであることは明白だ。

「VUCA(ブーカ。変動性、不確実性、複雑性、曖昧性の頭文字を取った造語)」の時代が到来したといわれて久しい。新型コロナウイルスの猛威、テクノロジーの破壊的進化、米中分断に代表される世界のデカップリング──。想定外の事象が次々と発生し、社会や経済の価値観・常識が激変している。

 そんな予測困難な時代を企業が生き抜くには、独自の経営哲学で変化を先読みし、ゲームチェンジを主導できるくらいの異端経営者が必要不可欠だ。

 そうした意味で、永守会長は激変期にマッチしたカリスマ経営者ではある。だがそんな永守会長も78歳。新しい事業を生み出したり、買収を駆使して企業を成長させたりする能力に秀でた経営者も、組織を持続的に発展させるための最大の経営課題、後継者育成ではつまずいた。

 異端のリーダーが率いるオーナー企業がサクセッションプランの遂行に苦戦するケースは少なくない。ソフトバンクグループしかり、ファーストリテイリングしかりだ。

 それではVUCAの時代に、日本の大手企業は経営者にどのようなスキルが重要だと判断しているのだろうか。

 下図は主要企業46社の「スキルマトリックス」から、経営者のスキルとして重要視している項目を抽出したものだ。スキルマトリックスとは、取締役がどの分野について知見や専門性を持っているかを、一覧表の形でまとめたもの。複数の取締役でスキルを補完し合うことで、ベストな経営チームを目指そうというものだ。

Graphic:Daddy’s Home
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 それによると、「企業経営」「法務・リスク」「財務・会計」「グローバル」の4項目がスキルマトリックスの採用率90%前後に達していることが分かる。誤解を恐れずにいえば、これら4項目は経営者のスキルとしては一般的なものばかりで、経営者が備えるべき前提条件のような能力だろう。

 現在は平時ではなく、将来を見通しにくい有事だ。従来、日本企業ではサラリーマン社長が就任期間を〝大過〟なく過ごせればそれなりに評価されてきた点は否めない。だが、前例通りに堅実に仕事をこなす優等生タイプの経営者では、この難局を乗り越えられない。

 これでは、後継者を育成する以前に、異端経営者すら生まれない。「デジタル」「イノベーション」「自社固有の特殊スキル」などの項目に代表されるように、テクノロジーの変化に敏感で独自の勝ちパターンを描ける経営者こそ、現代における理想の経営者なのではないだろうか。

 また、日本企業の経営者の前例主義、業界の横並び主義は、「報酬面」にも如実に表れている。

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 上表は、主要40社の「一般社員と役員の年収格差」をランキングにしたものだ。

 3位ソニーグループや4位伊藤忠商事の年収格差はそれぞれ35.2倍、32.7倍だが、役員の年収だけではなく一般社員の平均給与も高いのも特徴だ。

 クリストフ・ウェバー社長CEOが率いる武田薬品工業の役員報酬は別格で高く、平均6.7億円。年収格差は60倍を超えている。だがそれでも、年収格差が300倍を超えることがざらの米国企業に比べれば小さい。

 日本では、経営者個人のスキルに対してではなく、役員ポストに対して報酬が支払われている感覚が残っているからだろう。日本の経営者の市場価値が上昇するには、まだまだ時間がかかりそうだ。

全144職種の年収データから
年収1000万円以上の「有望な職種」抽出

『週刊ダイヤモンド』9月10日号の第一特集は『出世・給料・人事の新ルール』です。

 大企業が早期退職制度や役職定年制度などのリストラ策を乱発しています。大企業のエリート部門にいれば高待遇が約束される時代は、過ぎ去りました。

 それでは、ビジネスパーソンの出世と給料が決まる仕組みはどう変わったのでしょうか。

 本特集では、全144職種の年収データから、年収1000万円以上の構成比が高い職種など将来有望な職業を炙り出しました。

 また、ダイヤモンド編集部の記者による総力取材がトップ人事を総力取材。トヨタ自動車、ホンダ、日立製作所、三菱UFJFG、三井住友FGなど主力企業の権力構造、経営課題を人事の視点から丸裸にしました。

 門外不出のデータと独自取材により導き出した「出世・給料・人材の新法則」とは。続きは誌面でご覧ください。